魔物を狩ると言う事
「ギャー。グギャー。グギャギっ」
まずアレスが勢いだけでゴブリンを突き刺して、そのまま地面に倒した。
必死に喘ぎながらも、ゴブリンは終いに何も言わなくなった。アレスの服には攻撃とみなされたものを防ぐ盾があったので、汚れることはなかった。全てが彼の周りに一切付かず、ただ地面を汚していた。足跡さえ、綺麗に血の海の中にあった。
「はぁはぁ」
と、アレスは拳を握っていた。
始めてのゴブリンはスライムと違って、流石に来たようだった。でも吐こうとしないだけでも、男らしいと言えるかもしれない。
ジークはアレスの様子に不安そうにしながらも、強い決意の目を見せた。今度は戦う意味で、拳を強く握り締めていた。
「よし、二人に負ける訳にはいかない。アーネストのためにも、私はやる。悪の魔物である、ゴブリンを討伐する」
と、叫んだ。
ジークはアーネストの貴族の誇りがある事で、色々やり遂げれるようになっている様子だった。僕にはそう言う方面の思いはゼロだから、よく分からない。だけど、力強い熱意であるとは、流石に理解出来た。
「はぁーー。死ねっ」
そう叫びながら、ジークは剣を振った。叫び声は怖いとしても、綺麗な断面になっていた。その顔はやり遂げたすっきりした、顔であった。ここで恐れを見せないのは、彼らしい。本当に。
「うん。出来たな」
と、頃合いを見て僕は彼らに声を掛けた。
床で座り込んでいた彼らは、何とか僕を見返した。まだ目に光があるだけでも、上出来であると僕は心の中で頷いた。
「ほら、小型ポーションとなっている。沢山あるから、気持ちをよくすると思いながら使うと、気分が治るよ」
彼らはゴブリンの死体を見ようと見下ろすと、言われた通りに小型ポーションが落ちていた。そして、このままでは心が最悪なので、先程狩ったのを使用して心をよくする事にした。
「あぁ。生き返った…」
と、演技を忘れたジークが呟いた。
その呟きは心からそう思っているのだと、すぐに分かった。
「精神的なダメージが大きいよ、レイ」
と、こちらはアレスが僕に愚痴を言った。
うん。そこまで言えると言う事は、元気な証拠だ。と僕はうんうんと頷いた。
でも、この層はまだ続くと言える。
「今は僕が魔法で魔物を抑えているけど、本来なら一斉に襲って来る事もあるのだよ」
と、僕は彼らに教えた。
これは本当の事であり、スライムの時は何もしなかった。けど、ゴブリンは今抑えていた。彼らが休憩している時に、邪魔が入らないようにしている。運が悪いと一斉に来てしまう、ダンジョンもある。だから、ダンジョンは経験を積ませてくる場所である一方で、最大限の注意が必要な場所でもあった。
動きを止めている彼らに、僕は付け足した。
「今、ゴブリンが襲って来ない事を不思議だと、思わなかったの?」
二人は考えている顔をした後、納得したような顔をした。
「「そうだよな…」」
僕はダンジョンに行った事はなかった。だけど、魔物の危険性なら身を持って、沢山経験していた。だから、一応先輩の者として、彼らを導かないといけない。ここで彼らが怪我をすれば、連れて行った僕の責任になる。それか、紹介したコセール先生にまで、被害が及ぶかもしれない。ただの学生同士で行ったから、誰が悪いとは中々決めれない。
でも、二人は狩りと言うものをもう、理解しているようだった。
そして、魔物を狩ると言う事も。
自分の手で他の生物の、命を奪うと言う事を。
ダンジョンの危険性。
そして、逆にその楽しさも。
アレスとジークには、狩りを嫌いになって欲しくないから。




