ダンジョン内でのお菓子
第一層を攻略した僕らは、第二層に行く前に一回休憩を挟む事にした。何もない空間から収納魔法で、あのクッキーを取り出した。放課後と言う事もあり、早めにおやつの時間とした。
それが何かと気付いたアレスが、嬉しそうに指差した。
「あ。それ、あの美味しいクッキーじゃない」
「そうだよ」
と、僕は返事をした。
ジークもがアレスの言葉に反応した。
「え、何? 美味しいのか?」
その顔は欲しそうな顔である。僕はもう一個取り出して。彼らに渡した。何とも嬉しそうな顔を二人はしていた。袋を開けると、ぽりぽりとお菓子を食べ始めた。
「んー。美味しい」
と、ジークは目を閉じながら、呟いた。
その顔をお菓子が作っている人が見れば、心から喜ぶだろう。
夢中に食べているジークの代わりに、アレスが僕に開いている袋を差し出して来た。
「ありがとう」
僕も一枚取って、少しずつ食べ始めた。バターの香ばしい匂いが口に広がり、サクサクした食感がする。一口だけでも、一気に空腹が満たされた。このクッキーにはそれだけの力が宿されていた。
「レイ。これはどこで売っているのだ?」
と、もう食べ終わったジークが僕に迫って来た。
突然顔を近くまで寄せて来たので、一歩下がりたくなった。ここでジークが剣を持つ貴族である事を思い出すと、少し怖い気がした。ジークだからもう武力で尋ねる事はない、と思う。それに何かあれば、魔法を使う事が出来る。
「僕の故郷で売っている人気のお菓子屋さんのだよ。だから、王都では買う事が出来ない」
僕はジークが思っている事を、全て切り捨てた。流石の貴族でも、僕の故郷まで行くのは大変だろう。
ジークは残念そうな顔をした。
「そうか、買えないか……レイから買う事は出来ないのか?」
と、僕が気にしていた事を聞いて来た。
だが、僕はもう対抗する答えを用意していた。
「出来ない。強制するのなら、もう魔法も教えないよ。このお菓子は自分のためにただ突っ込んでいるだけだから。それに何度も食べれるお菓子は、特別感がなくなるよ」
と、返した。
本当は幾らでも入れているけど、そう言う事はわざわざ言わない。僕は特別感と言う言葉が、心から好きなのである。それにまた故郷にいつ帰れるか分からないと言う事もあり、入れていた。
ジークは僕の言葉に素直に引き下がった。
「うっ…そうだな。それを忘れていたよ。お菓子を分けてくれてありがとう」
「どういたしまして…そうだ。折角なら新作も感想を教えてよ」
と、僕は別の袋を取り出した。
僕が買った時は新作だった、そのクッキー。つぶつぶのザラメが沢山付いた、先程とは違う食感を味わえる。僕はまだ試した事がなくて、わくわくしていた。ずっとバタークッキー、一筋でそれ以外は挑戦した事がなかった。だから、新作を買う事にした。
一個取り出すと、二人は目をきらきらさせた。そのクッキーのように。僕は笑いそうになったが、何とか気持ちを抑えた。
手を差し出して二人に、まずは一枚ずつ渡した。ぼりぼりと食べる音がして、二人の顔が変わった。
「ん。ジャム。ぶどうジャムが中に入っている」
と、アレスはぶどうジャムの方を選んだようだった。
ジークは違うのを当てたようだった。
「りんごか…」
フルーツ尽くしの新作クッキー。二人には好評のようだった。
僕も一個取ると、食べて見た。
かりかりとした砂糖と、クッキーの生地の後にゼリーのようなジャムが現れた。ぶどう。それは僕が好きな果物だった。
それから、瞬く間にお菓子は消えて行った。
そして、僕らはまた次の狩りに取り組む事にした。




