始めての共闘
何の前触れもなく、僕らは戦いを始めた。といってもただの練習試合であり、していい事といけない事は把握しているつもりだ。だから、大して大きな問題は起こる訳がない。精々言った所で、子供同士の魔法での喧嘩。見て見て楽しくなるタイプのものかも、しれない。
向こうが二人でこちらが一人。それは不利な状況に陥っていると言う人もいるかもしれない。だけど僕はそうも、思わない。
でも、今は二人と正面から打つかり合うだけ。短時間の成長を、この目で見るためにも。やっぱり手を抜く訳にはいかない。どのような理由であろうと、相手が本気なのなら。
何も動かない僕を見ながら、ジークとアレスが走り出した。二人とも別の方向に走ってから、攻撃を始めた。同時攻撃で僕を困らせようとしている。が、果たしてどうなるかな、と僕は心の中で微笑んだ。現実ですれば、少々怖がられると思い。
「【魔法の剣】」
と、アレスが手に収まる剣を魔法で作り出した。
先程の戦いの時より、剣が細かく作られていた。使い慣れるとそう言う所が変化するのだと、僕は理解した。一瞬で成長するなど、未来でどうなるかが考えられない。
アレスは更に詠唱を続けた。
「【炎付与】」
発動していた剣に、炎を付与させる方法をした。典型的な魔法での付与だけど、思い付くとは思わなかった。やっぱり、見ていると面白い。
僕がアレスに夢中になっていると、背後からジークの声がした。
「【炎の鳥】。【水弾】」
と、同時詠唱を行った。
流石のジークは同時に詠唱する事を思い付いたようだった。二人とも瞬く間に、成長していた。きっとアレスが特訓している時に、二人で何か考えていたのだろう。
だが、まだまだである。
僕は無詠唱魔法で盾を発動させた。彼らからどう言う顔をされるかが、よく分かる。が、どこの世界にもこう言う人は現れるだろう。一度は圧倒的な負けを経験させる事も大切である。
アレスとジークの魔法が、僕に当たる直前で掻き消えた。僕が盾に込めていた魔力が彼らの攻撃より、大きかったから。魔法攻撃が効かない事を知った二人は、動揺しながらも次の手に移った。ここでもう戦いを終了させないのが、二人らしい。
「ジーク」
と、アレスが彼を見ずに叫んだ。
二人の関係もいつの間にか、強い絆で結ばれているようだった。
アレスに言われたジークがすぐさま、アレスの横まで走った。二人で別々の方向から効かないのなら、一つの方向から力で押し倒そうと言う訳だった。これも使える手かも、しれない。
まずはアレスが爆弾を落とした。
「【火球】」
僕を覆うように、火が上がった。魔法が慣れている人は、その威力も大きくなる。特にトラウマはないけど、やっぱり火球を落とされると、冷や汗は出てしまう。
「【炎の槍】」
と、以前のアレスの水の槍を真似た、魔法をジークが詠唱した。
丁度、アレスの攻撃で軽く壊れかけていた盾が、炎の槍で更に抉られた。同じタイプの魔法を使う事で、攻撃が更に増す。これはいい発見を彼らはしていた。
盾を突き通った槍が、僕の頬を軽く掠った。血が一筋だけ、垂れる。
僕は両手を上げた。ここまで出来るとは、思っていなかったから。二人の協力が勝利を導いたと言える。
「負けた。うん。素晴らしい」
と、僕は笑顔で呟いた。
アレスは僕の笑顔に一歩後退った。
「何で、負けた方が笑顔なの?」
「そこがレイらしいと思うぞ」
と、ジークが答えた。
僕は付け加えた。
「凄い成長を見せたよ、二人とも」
すると、二人はお互いの顔を見て、嬉しそうにしていた。




