賢者の特訓
僕が見ている中、アレスがジークに更に近付いた。先程の会話から緊張は少し解けたようだった。
賢者と委員長。二人で何かを行えば何とも面白いと思った。ジークは上級生として杖を持つが、アレスは持たない。
「アレスはまだ杖を持たないのか…なら、また今度送るよ」
と、ジークが言った。
突然の事にアレスは驚いていた。
「えっ。いや、悪いです」
「どうか、受け取ってくれ。魔法の杖を渡すと言う事は、特別な意味があるのだ」
ジークはアレスと比べればお金持ちなのだ。だから、そう言う事が気軽に言えるのだろう。
だけど、杖は戦闘でも大切な物だから僕としては、彼の思いを受け取った方がいいと思う。自分のを渡すと、ジークの思いを裏切る事にもなるから。
それに杖を渡すと言う事は、その人を特に信頼している事を意味する。
一歩後ろにいた僕は、彼らに近付いた。
「アレス。こう言う時は、ジークの思うままにさせたら?」
ジークも更にアレスに近寄った。
「ほら、レイも言っているから」
「そう…なら、仕方ないなぁ」
と、アレスが呟いた。
ジークを見ると何とも、嬉しそうな顔をした。自分が教えてもらう先生には、それぐらいの事をしたいのだろう。それが、よく分かった。
その後、アレスがジークに教え始めていた。アレスが自力で理解した、詠唱を短くするコツを伝授していた。こう言う事は僕には教えられないので、彼に任せるしかない。
簡単に理解していたとしても、実際に使い慣れている人とは違う。
見ている内に、ジークが何かコツを掴もうとしているようだった。
「【炎よ、我の元に集まるがよい。現れよ、炎の鳥】」
と、僕との決闘で使っていた魔法の省略を行っていた。
少しずつ、以前の詠唱を削っていた。詠唱を縮めたとしても、行っている事は同じである。順調に行くと言う事はジークとアレスが、そう言う戦い方が本来は合っていると言う事。
だが、魔法の輝く様子は変わらなかった。そこはジークならではの、力強いイメージがあるのだろう。もしかしたら、プライドかもしれない。何回も発動出来る事から、魔力は化け物級。
再度、詠唱する。
「【現れよ、炎の鳥】」
そして、またもう一回繰り返す。
「【炎の鳥】っ」
魔法の名称と言えそうな言葉で、ジークは発動に成功した。決闘の時と同じように、炎の鳥が現れる。
「やった」
と、ジークは心から嬉しそうな顔をした。
その様子ではもうコツを自力で掴めたようだった。
アレスも嬉しそうに頷いた。
「うん。ジークは覚えるのが上手だよ」
僕は二人が嬉しそうにしているのを見て、近付いた。
「なら、僕と戦わないか?」
ジークとアレスは少し唖然としていた。
が、そう言われそうな事を何となく、理解している顔をした。
顔を合わせる事なく、頷いた。




