新たな始まり
まだ昼休みで自室でじっとするのも嫌なので、僕はアレスと共に外に出た。ジークから渡されたものを綺麗に直った鞄に入れた。アレスもちゃんとした鞄に勉強道具を入れた状態で、持っていた。
この学園の昼休みは、二時間ぐらいあるので昼食と決闘をしただけでは、まだ時間が余っていた。今なら、学園に広がる些細な自然も楽しめそうな気がした。
今度は劣等生の上で特別委員会の一員になった事もあり、つい先程より沢山の視線に晒された。軽蔑以外で恐れの目もあった。委員長のジークを打ち負かせた事もあり、恐怖の対象と思うのもあった。こう言う事になるは、予想していなかったけど。
歩いていると前方に目立つ集団が歩いて来ていた。眼鏡を掛けた上級生は部下を引き連れながら、僕に向かって歩いていた。
一目でジーク・アーネスト、その人とよく分かる。
そして、何故か自分を待っているようにいた。
ジークは笑みを浮かべて、手を上げた。
「私の敵のレイじゃないか? その腕章を付けてくれたのか、似合っているぞ」
彼に取っての敵と言う言葉の意味と、自分が思っている意味が違う気がした。ここまで来られると、反応の仕様もない。
僕はお礼だけは言う事にした。苦手な人だとしてもお礼はしないと、人としてよくないと言われているから。
「勉強道具など、ありがとうございます」
「大した事はない……彼がアレス・フェッツか? 賢者の新入生と言う噂は、聞いている」
と、ジークが隣のアレスを見た。
アレスは声を掛けられた事で、驚いているとすぐに分かった。
「…アレス・フェッツです」
と、一度間を置きながら答えた。
ジークはこちらを見ると、またその笑みを表した。その瞳が何かと真剣だと、よく分かる。
「で、レイ。今から暇かい?」
突然そんな事を言われて、僕は何事と思った。
「えぇ…暇ですが、どうかしましたか?」
「そうか…なら、私と訓練に付き合ってくれるか?」
と、きっぱりと真剣な瞳で言って来た。
ーー訓練? それはもしや、あの事か。
「それは、決闘を再度したいと言う事ですか?」
「いや、違う、決闘ではない。魔法の訓練、対人戦だ」
ジークがプライドから、一度負けた相手に再度決闘を申し込む気ではないのだろう。だから、僕と戦う事を訓練と言う。わざわざ対人戦を望む事から、その思いが分かる。面倒であるけど、その瞳が断ると更に大変だと感じた。どこまでも追い掛けて来そうな、オーラがある。あの襲撃をした、犯人でもあるのだから。
「嫌です」
と、一度言って見た。
彼がどのように行動するか、見てみたい好奇心もあったから。ジークに対してなら、こう言う悪戯も許されるだろう。向こうも同じような事をして来たのだから。
「何っ? 何故なのだ、どこが嫌なのだ?」
と、ジークは慌て始めた。
もしかして、彼はただの魔法馬鹿なのか何なのだろうか。更に謎が深まるばかりである。
「一つ言うとしたら、全てです。ですが、まずはアレスと戦ってからです」
そう。僕はアレスの実力を見るためにも、彼にジークと戦って欲しかった。
彼なら、勝てる思いもあったから。
「え? ちょっとレイ、何を言うの? そんな無茶は出来ないよ」
と、アレスが色々心配し出した。
だけど、僕の目には狂いがないと思う。彼が自分の事を過小評価している事もある。人々がよく褒められるのは、彼が本当に出来ている人だからである。
「ジーク様にお前は何を言うのだ、劣等生のくせに」
と、ジークの部下が一人叫び出した。
ジークを思う者としては、普通の言葉なのだろう。
だが、今回はジークが自分の部下を止めさせた。
「止めろ……いいだろう、レイ。その意見を聞き入れよう。私もアレスと一度は戦いたいと思っていたのだ」
ジークは何と僕の意見を受け入れた。それは少し意外な事だった。
後は、アレスに実力を発揮してもらうだけだ。
そこから僕も、彼と戦う事になるだろう。




