変化の第一歩
昼食を食べ終わり、部屋を覗いて見ると先程とは違う世界が広がっていた。ジーク達による襲撃があったのが嘘であったかのように、傷が一つも残っていなかった。窓も壁もどこもかも、直されていた。
僕は驚きながら中に入ると、勉強机に文房具などの勉強道具や、特別委員会の紋章が置かれていた。長方形の一つの箱には魔法使いの武器である、杖が入れられていた。これらは全て優等生の仲間入りをしたと言う事で、ぱっと見でも綺麗に見せる必要があるからだった、と思った。丁度、あの襲撃で僕の経済状況をジークはよく理解しただろう。
そう考えれば、あの襲撃もそこまで悪いとは言えない。自ら壊した後に後片付けもしっかりしてくれるのなら。
僕は置かれていた手紙を開けた。
『私に勝った、劣等生のレイ。または、ただのレイへ。
私の決闘に勝利した事、同じ場で戦った者として認めよう。おめでとう。
流石にここまでされるとは、私でさえ思ってもいなかった。悔しい思いもあるが、アーネストの名に置いて嘘を付こうとは思わない。丁度、私にいい敵が出来たと言う事だ。だから、レイ。これからお前を離さないから、覚悟しろ。いつまでも思うようにはいかないぞ。そして、私は気付かされた。自分が馬鹿にしていた者も、本当は強い力を秘めているとな。お前は劣等のレイと呼ばれているが、所謂優等生にも勝つ事が出来る劣等生のレイ、と変えた方がいいかもしれない。それかもう、劣等生とも言えないかもしれないな。私も魔法の腕を上げなければ、お前に追い付かれそうだと、感じてしまう。
先日の歓迎会はやりすぎたかもしれないと、後から気付いた。自分の親が目前で溜め息を付いたのは、結構堪えたよ。特別委員会の委員となったからには、そのままでは困るので勝手に色々運ばせた。授業にでも使ってくれ。
その腕章は常に付ける事。授業にもちゃんと出ろ。出ないとまた決闘させるかもしれないぞ。
それでは、また会おう。
特別委員会、委員長。ジーク・アーネストより』
と、何とも普通な手紙だった。
案外、彼の性格はそこまで悪くないのかもしれない。
自信がありすぎて、公私混同させている。眼鏡を掛けた変わった少年であり、元はいい奴と言える。ジーク・アーネスト。名前通り、勝利を求める正直で信頼出来る人、なのかもしれない。本当の事は分からないけど。
手紙には好き勝手、自分の思いを書いていると嫌でも分かった。だが思いの外、近くにいつまでも戦い続けれそうな、人がいた。本心を誰にも見せない所は、騙すのが凄く上手そうだった。トリックスターのように。
一つ言うとしたら、決闘など面倒だからまた会いたくもない。出来れば一生会いたくもないし、会わないと思う。学園と言う閉所に強制的に入れられていない限り。
気になっている様子のアレスにも手紙を読ませると、困った顔をしていた。
「…何ともその人らしいね。だけど、部屋を修理してもらって、勉強道具なども増えているからそこはいい所?」
「いいのはいいけど、まだ信用出来るかが分からない」
アレスが僕を見た。
「なら、これから見極めたらいいのじゃない? まだ卒業まで時間があるようだから」
アレスの言う通り、上級生のジークであったとしても明日卒業する訳ではない。まだ時間的余裕が残っていた。
「そうか…そうだよね」
と、僕は考えて安心した。
黒色の腕章を手に取ると、三叉槍が見えた。自分が特別委員会の委員になるとは考えられなかった。ジークはまだ頼れるけど、入学式で見た他の委員の生徒は信じにくい。ジーク以上に偏った思想になっているとしか、思えないから。
だけど、今から言っても何か変わる訳でもない。
僕は黒色の制服に、腕章を付けた。同じ黒色で二つの違いが分からないが、白い三叉槍が目立っていた。遠くから見たとしても、よく見えるようになっている。
「うん。似合っているよ、レイ」
と、アレスが僕を見ながら言った。
「どこまでレイが行けるかが、楽しみだな。きっとここで止まる人ではないと思うよ」
現時点からもう未来の事を、アレスは考えていた。未来に何が起こるか分からないとしか、僕は思わない。明日死ぬ運命かもしれないし、何か大きな事を成し遂げるかもしれない。全ては自分の運が関係している。
「まだ考えるのは、早すぎるよ。なら、僕はアレスが近い将来に有名になると思う」
「そうか…レイが頑張るなら、僕も頑張らないとな」
と、アレスが呟いた。
僕とアレスの目線は、どこか遠い未来を眺めていた。
訪れるか分からないけど高い確率が来そうな、その未来を。




