現実は残酷に
競技場の会場から出ると、アレスが普段通りの顔で待ち構えていた。それだけでも僕は安心した。
彼は変わった様子がなく、どんな僕でも受け入れてくれていたから。犯罪に走ったらどうなるか、分からないけど。
「お疲れ、レイ……どうした?」
と、僕に顔を傾げた。
それは同じ見覚えのある顔だが、目が心配しているようだった。
「…何でもない」
これからの事を不安に思いながらも、僕は今目の前にいるアレスに集中した。
「レイに見届けると言った身でもあるからね。それに友達なら、行動に理由などいらない。困った時はお互い様…って、いつか言いたかったのだ。レイとならそれも悪くないかも」
と、アレスの折角の決め台詞が最後の一言で、台無しになった。
アレスらしいとも言えるけど、彼自身も元気そうだとよく分かった。ならなおさら、僕だけがここで立ち止まっている訳にはいかない。友達として、友達の荷物は一緒に背負うものである。
「やっぱり、アレスらしいな…」
と、僕は呟いた。
アレスが更に笑顔を見せた。
「レイの顔が元に戻った…本当に安心した。よかった」
流石にそこまで言われると僕は恥ずかしくなって来た。素早く体を回転させると、僕は前に歩き出した。
「アレス、行くぞ。食堂も混み始めるだろ?」
「あー待って。早い早い」
と、走りながらアレスが追って来た。
先程まで気持ちに浸っていたアレスは、突然行くと言われて驚いたようだった。
食堂は以前と何も変わらず、と言いたかったが、少しだけ変化があった。何と料理の出され方が以前より、丁寧になった。特別委員会の委員となった事もあり、無闇に行動を取れないのだろう。僕がジーク達との関係を持ったから。
食事中は一息付ければ、ほっと出来ると思った。が、向こうからイーシアさんが歩いて来ているのが見えた。兄である司書のマークスさんは去ったようだった。何故か顔色が悪くて、元気そうではないとその歩き方からよく分かった。そのままにしてもよかったけど、どうしても気になったので僕は口を開いた。
「どうしたのですか、イーシアさん? 顔色が悪いですよ」
イーシアさんは顔を上げると、予想通り体調が悪そうだった。そして、不安そうに視線を下ろした。それは僕がこれまで見て来たイーシアさんとは、どこも似ていない姿だった。
隣のアレスは、全てを僕に一任しているようで端でこちらを眺めていた。だが、何かが悪いのだろうとは、気付いている様子だった。
「ごめんね、レイ。ザック達から伝言を言われたの。もう、君とは関わらない、って。これは全てあの決闘のせいだと思う。こんな事になるとは思わなかった…」
それは劣等生のリーダーである、ザックからのメッセージだった。
優等生の仲間入りを果たした今は、劣等生からしたらただの敵でしかないだろう。そして、もう一方の優等生からも今は、敵認定されている。完全に僕は挟み撃ちされたと言う事だ。何とも悪い状況にいる。
でも、今は目前の問題に対処しないといけない。
僕はイーシアさんに笑い掛けた。何とか安心させたい事もあり、ここで自分が不安そうな顔を見せる訳にはいかなかった。
「大丈夫ですよ、イーシアさん。まだ何かが終わった訳ではないのですから。それに僕も一人になった訳ではないので。イーシアさんや、アレスなどがまだいます」
と、僕はイーシアさんを直視した。
イーシアさんはゆっくりと視線を上げた。
「本当なの?」
と、その視線はアレスに向かった。
何か躊躇う事なく、アレスはイーシアさんの思いを受け取った。
「僕が常にレイの側にいます」
「でも、レイが無理をしすぎたりしない?」
と、今度は僕を見て来た。
その視線は先程より、力強くなっていた。多少の不安要素は払拭出来たようだった。
「そうなった時は、イーシアさんが僕に教えて下さい」
僕はイーシアさんに頼む事にした。少し図々しいかもしれないけど、彼女にしか頼めない。
イーシアさんにいつも通りのオーラが戻って来た。
「任せなさい。この私がレイをちゃんと監視するから…まずは、しっかり昼食を食べる事」
と、イーシアさんは自分の胸を叩いた。
その姿はアレスのように何とも、頼り甲斐がある。
僕も仲間と呼べる本当に助けてくれる、人がいるのだった。だから、今は僕から離れた人もいつかは帰って来てくれるかもしれない。
それか、こう言う言葉も僕のただ夢でしかないのかもしれない。




