一方的な決闘
ジークは依然余裕そうな顔をした。
「お前に最初の一撃は許してやろう」
と、自分がどこかの王であるように、言った。
何故、僕がこんな奴の許可がいるのかが、分からない。
が、ここはジークを更に怒らせよう。そうすれば、彼の集中力は見る見る消えて、魔法も乱れる可能性がある。わざわざ褒めたくもない人を、褒めるのも大変だが。
「ふん。それはありがたい」
「貴様。劣等生のくせに、いい気になっているとただで済まないぞ」
と、ご丁寧に警告をしてくれた。
どちらがいい気になっているかは、見て分かると思うのだが。一番相手を侮辱している自分に、何で彼は恥ずかしくならないのだろう。もしかして、全て正しいと考えるタイプなのだろうか。
でも、知った所で僕が優位になる訳でもない。どうせ、いらない情報でしかないのだから。
「それはそれは。なら、やるぞ」
と、僕は構えた。
「言うまでもないぞ。いつでも掛かって来い、この劣等生が」
ジークは威勢のいい言葉を掛けて来た。本当に教育がなっていないと言いたくなる。
なら、見せようか。僕が今、この学園で出来る所までを。でも、それが本当の実力ではないけど。
何も特別な事をしない状態で、詠唱魔法を発動させた。
「【火玉】」
掌に小さな火の玉が現れる。これだけでは、何の攻撃にもならない。
当然、ジークは笑い出す。彼が劣等生はここまでしか、出来ないと思っているから。
「何だ、先程までの言葉はどうしたのだ? これでは、何の攻撃にもならないぞ」
と、観客の笑いを取っている。
見た所、全員が僕を指差して、笑っているのだろう。これはいいのだ。そう思わせる方が、後が面白いから。
次に僕は、火玉に無詠唱魔法で強化と飛行を発動させた。これでジークに届く前に掻き消える事はない。そして、風の刃も面白半分で付与させて見た。
僕の魔法に油断していたジークは、ふよふよと飛ぶ火玉を完全に無視していた。何故なら、初級魔法は当たっても無害であるほど、威力が小さいからである。火傷にもならない、役に立たないものと言われる。だけど、強化を付ければ、そうとも限らない。
火玉から発せられた熱に気付いたジークが、一歩後ろに下がった。
「熱っ」
少し間を置いて、今後は風の刃で切られた傷が現れる。紙で切った時のように、すぐには傷口が痛まないほど鋭い切り口だ。これが実戦なら、気付かない内に地面に倒れて、やられていたと思う。
「痛っ」
観客は突然騒ぎ出した、ジークを笑った。彼らから見ればただの初級魔法で騒いでる、可笑しな奴にしか見えないだろう。
これで、ジークの集中力は更に乱れる。自分を支持していた者が、今度は自分を笑う方に変わったから。笑われると言う事は、見下されると思うのだろう。
「煩いっ。この俺がこんな攻撃で倒れる訳がないだろう」
と、分からない恐怖を抱えながら、ジークは叫んだ。
自分が彼らより出来ている事を証明するために、何としてでも弱い所は見せられないから。こう言う時に、仲間と言うのは何とも扱いにくいと思う。
「そうだそうだ。あんな奴など、やってしまえ」
「いけいけ、ジーク様」
などと、彼らは周りからの応援で更に追い込まれる。だけど、彼が仲間を切る事も出来ない。精々、本心を隠しながら、この状況に争うしかない。
「散々、私の事を馬鹿にしたな。もう、手加減出来ない」
と、ジークが色々言い始めた。
何か自分が関係ない事も、僕のせいだと責任を押し付けられている気がする。本当に最初に出会った時のアレスより、質の悪い被害者妄想を持っている。
お前は自分の感情をより上手にコントロールする所から、始めるべきだ。その後にこんなお遊戯の魔法大会でも、開催したらいい。と相手に正面から言いたくなる。言って仕舞えば、彼は凄く暴れ出すと思うけど。
ジークは手に杖を持つと、目を閉じて語り出した。
「【炎よ、光よ。我の元に集まるがよい。この不届き者を成敗する、その力を。そして、その者に知らしめよ。どちらが秀でているかを。現れよ、炎の鳥】」
何か面白い事をすると思って見ていたけど、僕なら詠唱している間に倒せそうだった。何とも体が空いている。それなら、魔物に途中で倒されて死ぬだけだろう。杖も折って仕舞えば、魔法が使えなくなるだろう。何とも非効率的なやり方である。
「これがジーク様の象徴とも言える、魔法。炎の鳥。これまで何人もの悪を捕らえるために、使われて来た。やっぱり、美しい」
と、誰かが呟いた。
やっぱり、詠唱が長いから最後の言葉だけが、この固有名詞となっているようだった。劣等生を悪人呼ばわりされるのは、いい気がしない。
そんな事で正義を気取っているとは、お子ちゃまじゃないか。
競技場に光り輝く、炎の鳥が現れた。
これは綺麗と言うより、無駄としか言いようがない。この光を作るだけでも、ジークは魔力を浪費している事になる。
なんて無意味なものを作ったのだ。それに攻撃力もなさそうだ。自分が凄いと見せ付けて、相手を落とす作戦なのだろうか。オーラ見たいなものは漂って来るが、少しひりっとするだけで何の役にも立たない。
「何、効かないだと? お前は不正を行なっているな」
と、またまたこう言う人は思うよりに進まないと、不正である事を好む。
ジークの方が何度も不正を行なっては、親に揉み消してもらっていただろう。僕の両親にそんな力、ある訳がない。
見ていてもつまらないから、僕はこの悪趣味な芸術とも言えない、魔法を早々と消す事にした。周りも騒ぎ出した頃だし、丁度いい頃合いだろう。
「【火玉】」
僕はそれに今回は、風の刃は加えなかった。
炎の鳥に向かって発せられた魔法は、鳥に当たると掻き消えた。同じように炎の鳥も、粉々の欠片に散った。




