王都への旅路
「で、お兄ちゃんはどのような用事で王都に行くのだい?」
と、隣に座る、馬車の御者のおじさんは言って来た。
親が用意してくれた馬車は、ゆっくりとだけど確実に首都へと向かっていた。少しずつ変わる景色を眺めていると、そうおじさんは口を開いた。
僕は外を眺めながら、答えた。
「王立魔法学園にです」
「そうか。あの魔法使いが集まる学園に行くのか…わしは魔法の適性がなかったから、行く事などなかったわい。わしの代わりに楽しんで来てくれ」
おじさんはあたかも凄く楽しそうに語っているが、王立魔法学園は詠唱魔法の出来が全てを語る。小さな社会が出来ていた。大人になるための社会勉強のために。
だが、単なる格差社会を子供の時から、生んでいるとも言える。そう思えば、決してわくわくで楽しい学校生活が待っているとは思えない。
幾ら自分自身が自分に嘘を付いて、過ごしていたとしても嫌な気持ちがゼロとは言える訳がない。
だけど、最後まで応援してくれた、この世界の親のためにも頑張らないといけない。この馬車代だって、辺境の地に住む親からしたら、きっと安いものではないはずだ。
どの世界でもお金が全てものを言う。そして、この世界では魔法と言う、特殊な価値が存在する。子供ながら、どうしても溜め息を付きたくなった。
もっと楽で気軽な人生などあるのか、と叫びたくなる。
「楽しみではありますが、初級魔法しか使えないので…ちゃんと付いて行けるかが不安です」
と、僕は素直な気持ちを表した。
「でも、お兄ちゃん。初級だとしても、使えないわしからしたら凄い事なのだぞ」
「そうですか? 僕も心から出来れば、楽しみたいと思いますけど」
おじさんの励ましがあっても、中々素直には喜べなかった。そこで、おじさんとの会話は自然と止んだ。僕も何となく、この話題は余りしたくなかったから。
馬車はまたゆっくりと道を進んで行っては、森の中へと入った。
いきなり、おじさんの近くに矢が放たれた。
森の中にいる人からの警告である、とすぐに理解出来た。
「おじさんも少年も命が惜しければ、その積荷を俺達に寄越す事だな」
と、剣を手に持った男が茂みから現れた。
後ろに武装した仲間を引き連れながら。きっと森の中に未だ、矢を放った者がいるはずだった。
僕はこれが元の世界なら、死を悟って後退りしていたと思った。丸腰の自分に包丁を持った人が突進したり、銃の引き金を引かれる事と同じ事だから。
だけど、今回は死など覚悟しなかった。自分には、自分の命を守れる武器がある。それは無詠唱魔法と言う、自分だけが扱える武器だった。
だから、悪党の彼らを捕まえればどれぐらい稼げるか、を先に考えていた。
そんな僕の気持ちを知らないおじさんは、体を震わせながら、僕に言った。
「わしが何とか彼らを止めるから、お兄ちゃんは逃げてくれ」
と、生存率が低そうな囮作戦を打ち出した。
僕はおじさんを安心させるように、頭を左右に振った。
「それはしなくて、大丈夫です。僕に全てを任せて下さい」
男は動かない僕らに苛ついた様子だった。
「お前ら、命が惜しくないのか? ふん、これで死んでも自分の行動に後悔するのだな」
と、男は笑い声を上げながら、叫んだ。
僕は注目を浴びるように、立ち上がった。
「お前ら盗賊なんかに、渡す物など一つもない」
「餓鬼のくせに生意気だ。お前が先に死ぬのだな」
と、男はその剣で僕に切り掛かろうとした。
が、僕が瞬時に不可視の盾を作ったので、男の剣は防がれた。僕は彼らが唖然としている隙に風の刃を作り、倒した。
そして、呻く彼らに近付くと僕は収納魔法で回収して行った。武器も消えた事で、ここであった戦いの跡が、跡形もなく消えた。
「…お兄ちゃんは実は最強なのではないか?」
と、馬車を進めながら、おじさんが聞いて来た。
僕は頭を触りながら、答えた。
「どうでしょう…ですが、魔法は全然使えないので、最強とは言えないと思います」
「そうかい……なら、わしがお兄ちゃんを最強と認めよう。この目でその戦いを見たからな」
と、おじさんは笑い声を上げた。
僕はなんかそれが面白く見えて、一緒に笑い出した。人から認知されない最強になっても、おじさんのように見てくれる人がいるのだ。
盗賊と遭遇した森を抜けると、王都の門が見え始めた。僕とおじさんはやっと目的地が見えた事で安堵した。
門の検問所で手続きをしていると、一人の衛兵が声を掛けて来た。
「あの森には盗賊がいるのですが、よく無事でしたね」
僕とおじさんは顔を合わせた。
「「その盗賊なら、倒しました」」
討伐されたと思わなかった衛兵は驚きを示した。
「え? あの…どなたかと旅の道中でお会いしたのですか?」
と、僕らが倒したと予想していなかった。
なので、僕は詠唱せずに収納魔法から盗賊と、彼らの武器を纏めて取り出した。いきなり現れた人と荷物に、衛兵達は驚きで倒れ込む。
僕はそんな彼らを見て、本当に国防が行えているのか、不安になってきた。
その後、盗賊討伐の懸賞金をもらい、彼らの武器を引き渡された。が、血に塗れた武器などいらないので、それもお金にした。
そして、近くの宿に転がり込んで、僕は明日の入学式に備えた。
王立魔法学園は強制的に入学させるので、入試試験はなかった。代わりに魔法の実力試験などはあるけど。