劣等生と魔法
他の生徒が去った後に、アレスが僕を見た。
「そろそろ行く、レイ?」
何ともすっきりしている口調に、僕はまだ少し驚いた。それはアレスならではの変化にも見えた。
他人から言われ続けていた賢者から、本当のアレスになれたようだった。過去の事情など関係ないと言う風に。
僕は彼が縛られていないように見えて、友達として嬉しかった。
「そうだな…だけど、彼らと行かなくてもいいの?」
と、一応確認をアレスに取った。
揺るぎない力強い瞳を、アレスは向けて来た。
「いいさ。本当の友達でもないから」
「アレスも意外と言う人なのだね…」
と、少し笑みを浮かべる事で、嫌味ではない事を明らかにした。
アレスが同じように返した事で、僕の意図を理解してくれたようだった。
「全てはレイが背中を押してくれたからだよ」
そう言うアレスを見て、僕は彼が果たしていい方か、悪い方、どちらに変わったのかが分からなかった。アレスが変わる事はいい事だが、それで人間関係が崩れなければいい、と願うばかりである。
突然人が変わる事は、多少の影響を誰にでも及ぼすから。まだ若いから何も気にしなくていいのかもしれないけど。
「役に立てたなら、よかったよ」
と、僕は言葉を述べた。
僕はアレスに教えられて、競技場に移動した。ホームルームもそうであったが、アレスがいなければそこから行ける自信はなかった。入学式とは違い、別の道を進む事もあるからだった。だから、スムーズに最短距離で行く事が出来た。
時間的にはまだ余裕があったが、もう競技場には沢山の生徒が集まりつつあった。僕とアレスを見つけた先生と思われる人物が、やけに大きな声を出した。
「これは、劣等のレイ。そして、アレス君。レイなどといれば、君の成績が落ちるかもしれないな…」
と、脅しとでも捉えられる言葉を述べた。
アレスは先生を見ながら睨んだ。二人とも戦闘態勢に入りそうなオーラがあった。もう、アレスは無視をするのが嫌になったのだろう。
「僕を脅すと言う事で、よろしいですか?」
「いやいや、賢者のアレス君。そんなに怖い顔をしないでくれ。昨日とは何とも態度が違うね。魔法使いとしては、正しい姿のように見えるけど……そこの誰かさんが悪いようだ」
と、わざわざ僕が全て悪いように物事を運ぶ。
一気に周りが殺気立つのが見える。それは正気の行動ではない。
頃合いを見て、先生が笑顔を浮かべた。僕だけがそれが偽物と分かるように、何ともわざとらしい顔である。
「ようこそ、私の授業へ。今日は魔法訓練をする。と言うか新入生は主にそれをするだろう。私は先生の、コセール……これは一度しか言わない。劣等には名前が聞けたかい?」
と、名前の所だけを早口で言った。
何かをされると警戒していた僕は、しっかりそれを聞き逃さなかった。
「コセール先生…ですか?」
「ふん。劣等のくせにはよく出来るのではないか? 授業にわざわざ足を運ぶだけはある」
と、こちらをコセール先生は嫌味も込めながら、褒めていた。
「ありがとうございます」
僕はその作られた隙を逃さずに、笑みを浮かべた。
辺りの温度が変わるのが、肌で感じ取れる。
これは何とも性格が悪いと自分でも分かる。だが、これもこれで一つのやり方だ。




