夕食は寮生と共に
僕は制服を脱ぎ捨てると、無詠唱魔法で汚れを落として、収納魔法に仕舞った。
少し悩んでから、今後は黒服の上下を着た。出来る限りの物を収納魔法に入れていたのは、虐めの餌食になる可能性が非常に高いからだった。所有者が目を離した時に、加害者からしたら絶好のチャンスと言える。
だが、本当はただ最初から入れているので、取り出すのが面倒なだけだった。
だから、自室は何とも殺風景な部屋である。
自分の物は机にも飾られていない。いつでも出て行けそうなほど、生活感はない。僕は自分の物が収納魔法に入っているので、そう言う感じの寂しさは感じることはない。
一応、カモフラージュのためにクローゼットに、鞄を置いている。当然、講義を受けるまでは何も入っていない。どこかの安い店で買ったので、切って捨てられても困る事はない。いつでも直そうと思えば、直せるから。だから、虐めが成立しないかもしれない。
窓の外で小鳥が飛び立った後に、扉が開く音がしてそちらに視線を移した。僕とは対照的な白色の服を着た、アレスがいた。清潔感のある、彼に合う色だった。
「制服と似ていて、格好いいよ。レイ」
と、彼は言って来た。
「ありがとう…今から、夕飯?」
アレスが夕食と言う言葉に反応したのが、目に見えた。何とも嬉しそうに、待っていましたと言う風にこちらを見た。
「そう、夕食。楽しみだな」
僕はアレスが意外と食にしか興味のない人だと知った。昨日は各自の部屋に弁当が渡されただけなので、他の寮生と食べるのは初めてである。食後に新入生の歓迎式があったけど、僕の事は視界の中にいないようだった。
でも、アレスは側にいてくれていた。本当にアレスがいる事で僕はこの寮で、何とか居場所を見つけれている。丁度いい所でアレスが止めなければ、僕はどこかの押入れで生活を強いられそうだった。
今日の夕食も、昼のような事をされるのだろう。
アレスと共に食堂に足を踏み入れると、沢山の目がこちらを見る。それは僕に対する嫌な視線である一方、アレスへの尊敬の眼差しもあった。
そのまま夕食を取りに行くと、また僕の食事が乱暴に出された。カウンターから落とさずに乱暴に投げるのは、逆に高い技術だと思えた。何故ならここで落としたら、投げた本人が掃除をしないといけなくて、面倒であるだろう。
アレスの方は何とも丁寧に出されていた。そして、入れられている量も明らかに違う。周りから嘲笑が聞こえて来た。
僕の方を心配そうに見てからアレスは、強い眼差しを向けた。
「…レイを劣等だからと言って、虐めないで下さい」
アレスの一言に人々が笑うのを止めた。アレスの声からよくない事だと、知ったのだろう。
だけど、後ろの方では面白くなさそうな、顔をする人達がいた。彼らから見たら、僕がアレスをいいように利用しているように見えるのだろう。
「すいません、アレスさん……おいっ、劣等のレイ。その皿を渡せ」
と、アレスに怖じけた食堂の一人が、僕に乱暴に言って来た。
無理矢理、皿を取るとまた乱暴に引かれていた分を乗せた。名前を覚えられているのは光栄だけど、何とも荒い口調である。流石にアレスも困った顔をしていた。が、気付いている人はいないようだった。
席に着くと、アレスが僕に小さく囁いた。
「ごめん、レイ。あんな事を言われるとは、思わなかった」
僕はアレスに笑い掛けた。標的になっていないアレスに、迷惑を掛ける気にはならなかった。
「大丈夫だよ、アレス」
だけど、アレスは頑なに僕の言葉を受け入れようとしなかった。そして、頭を左右に振った。
「嫌だよ、レイ。僕は困っている人を放って置くなんて。もう、嫌なのだよ」
と、アレスはあたかも昔にそうしたかのように、言った。
段々、自分がアレスを困らせている気がした。
「なら僕が困った時に、アレスに相談するから。これで、いい?」
アレスは僕を直視した。
「ちゃんと僕を頼ってね」
「はいはい、分かってるよ」
と、僕達は笑い合った。
そんな時に背後から、話し声が聞こえて来た。
「あの劣等、賢者のアレス様を困らせてるぞ」
「そう言う奴には、制裁を下すべきだな」
アレスの熱狂的な信者と思われる、生徒達が話し合っていた。
生徒とは思えないような過激な言葉を使っていた。本当に彼らは制裁が心から好きである。何で武力以外での解決を思い付かないのだろうか、と聞いてみたくなる。
「劣等が、賢者といつまでもいれると思うなよ」
「生意気な奴には、俺らが教える必要があるのだ」
と、何かを企む言葉を述べた。
寝ている時は、刃物や魔法に気を付けよう。
アレスから見たら、上の空である僕に彼が手を振って来た。
「おーい。レイ。大丈夫?」
僕ははっと彼を見た。
「あぁ。今は食事に集中するよ。味は美味しいね」
食堂の人の態度は最低だけど、味は悪くないと僕は思った。それにアレスが前にいる今は、普通にしている方がいいだろう。
「うん、そうだね」
と、アレスが言って来た。
いつまでも彼の笑顔を保ち続けれるかは、誰にも分からない。
僕も出来る限りの事をしよう。友達として。




