暗躍する者達
「では、あの件はお願いします」
と、ロンレッド伯爵ディールク・ソングルボズは自分の前にする人物に、頭を下げた。
目前の男性は口角を上げながら、大人しい口調で答えた。それは誰もの安心させるような音色を持っていた。
「どうか、ご安心ください。全ては順調に行きます」
「はい、感謝しています」
と、ディールクは頭を下げた。
男性は小さく頭を左右に振った。
「それは私に言う事ではありません…」
ディールクは何かに気付いたようにまた頭を下げた。
「はっ。失礼しました。ーー全ては神のまにまに」
男性はしっかりと頷いた。
「ーーそして、祝福を」
「乾杯っ」
「乾杯…」
と、二人がガラスを打つ音が部屋に響いた。
「でだ、リーゼ。あれはどうなのだ?」
と、普段の打ち合わせで王は前に座る、リーゼ・ワークストンを見た。
第二騎士団では珍しく女性団員である、彼女はすぐに資料から顔を上げた。本来なら資料がなくても済むのだが、それは雰囲気を出すために持っているとも言えた。その数枚のレポートだけでも、第二騎士団の全員の努力が込められていた。特に第二騎士団長と期待のエースである、同僚のクリス・テールズが深く関与していた。
二人も報告に来れるにも関わらず面倒だから、と言う理由でリーゼが行く事に実はなっていた。密接な関係だからこそ、許された事であった。王も、彼らが常に全ての事に目を光らせてくれていると知っているので、全てを許していた。
「王都使長であるのなら、何やら裏でコソコソしていると報告が上がっています。最近は理由もない外出が急激に増えている様子です」
と、リーゼは一応あれがだれかの確認を取った。
もしここでお互いの認識が違っていても困るからだった。それは王さえ理解していた。
王都使長。それはこの王国で広く信仰されている宗教の地域ごとの最高責任者の呼び方だった。その人物は王都を仕切っていたため、そのように呼ばれていた。それが役職名でもあった。彼らは最使長の下に付き、信者の管理を行っていた。
この宗教が歴史上では最初に、魔法と言うものを唱えたと言われている。そして、魔物を人類共通の敵としてその討伐の必要性を訴えていた。彼らは長年人々を癒す聖女や、神の血が流れた神子を探す事をして来た。それはこれからも行う事だった。
王は髭を触りながら、目を細めた。それが考える時によくする顔でもあった。
「ううむ、そうか…一応、気を付けていてくれ。だが、過度な刺激には気を付けてな」
「はい、最大限の配慮を行っています」
と、リーゼが頭を下げた。
王国としても影響力が高い、その宗教から悪い印象を持たれたくなかった。もし、敵認定されれば、自分の懐の中に爆弾を抱えているようなものだった。信仰深い民に武器を突き付けられるのは、嫌なのだった。だから、最大限警戒しながらも、配慮もするよう王は言った。
「何か悪い事が起きないといいのだがな…」
と、王は呟いた。
それを聞いたリーゼは冷静に返した。
「どうでしょう。そう言う事を言えば、逆に悪い事が起きそうな気もしますが」
王は笑いながら、リーゼを見た。
「そうだな。なら、出来る事をするだけだ」
「はい、そうです。私達にはそれぐらいしかする事が出来ません。ですが、それが一番得意と言えるかもしれません」
「流石、第二騎士団だ。これからも沢山必要とする機会が増えると思うよ」
「はい、いつでもどうぞ。我々はいつでもお力になれるように、励んでいます」
と、リーゼは頭を下げた。
「そうか。第一騎士団が武、第二騎士団が事務、第三騎士団が魔法。今後もこの三つにも沢山お世話になりそうだ。日に日に誰もが成長していくのは、見ていて面白いな」
と、王は目を細めた。
リーゼは笑みを浮かべた。
「止めてください。そんな事、いつか死にそうな顔です…」
「おっと、そうだな。気を付けるよ」
と、その空間には普段らしい景色が広がっていた。




