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劣等の使い方

 僕は食べ終わると早々と、彼らの元を離れた。そのまま自室に帰るのも面白くないので、学内を周る事にした。


 自分の横を去って行く生徒は、誰もが荷物を手に持っていた。その事から詠唱魔法では収納がないのだ、と思った。それか使える人が少ないのかもしれない。


 今度は自らの足ではっきりと進んでいたので、誰も僕を気にしないようだった。丁度、移動時間である事も被り、一人で歩いているからと言って劣等生とは分からない。僕をよく知る新入生以外。





 教室を窓から眺めながら、僕は歩いていた。すると、聞き慣れた声が聞こえて来た。僕がその方向に進むと、座学をしているアレスがいた。先程まで質問に答えていたようだった。正解した事で人々が、声を上げていた。


「流石、賢者のアレスだ」


「アレスだから、分かるのだろう」

 と、アレス本人は嫌いそうな事を次々に述べていた。


 僕はアレスの気持ちがよく分かった。これは学生の対して、やり過ぎである。


 すると挙げ句の果てに、授業を教えている先生さえが、その勢いに乗った。

 手を盛大に叩きながら、その言葉を言う。

「アレス・フェッツ君は素晴らしい。皆も彼を見習う事だな」


 先生はそう言う事で、更に優等生の中でも格差を付ける作戦だった。それに講師から褒められる事は、才能を認められた事。アレスは明らかに一目置かれているようだった。



 そこに僕が入れば、僕は劣等のレイと見下されるだけだろう。そして、アレスとの差を口々に言われるだろう。劣等のレイの隣人が、賢者のアレス。アレスが仲良くしてくれても、他が僕に嫉妬する可能性は非常に高い。訳の分からない事を言われるだろう。だから、今日はまだその戦場に立ちたくなかった。


 アレスは恥ずかしそうに頭を撫でていた。その姿は何とも彼らしいとしか、言えない。

「…そんな事はないです」

 と、呟いてから彼は着席した。


 その呟きだけでも、いつも通りの彼らしかった。だからこそ、他に影響されずに育ったのかもしれない。彼の謙虚さが、自分の身をこの世界で守っていたのだった。




 アレスは自分の手柄を見せびらかさない性格だけど、それにムカつく人は出て来そうだ。どの世界も自分より出来る人をひたすら恨む者は現れる。自分からその現状に抗おうとせずに、ただただ他人に責任を押し付ける人。そう言う人は成長しないのだった。


 だが、その問題も僕が出席すれば、自然に終わるのだと思った。彼らは僕に視線が行くと、アレスの事など余り気にしなくなるだろう。どの道、出席するのなら、面倒な事を纏めて終わらせる方がいい。断然、効率がいいのだった。


 なら、僕が標的となる事に何の問題もなかった。劣等と言うレッテルの正しい使い方と言える。自分は幸運な事に劣等と言われないほどの、無詠唱魔法(真の力)を持っている。自分の理想とする世界を生み出すためには、自分を犠牲にする事など容易いものだった。自分が守りたい他の誰かが、傷付かないのだったら。



 僕がそう考えていると、視線を感じてすぐにしゃがんだ。覗き見している事が講師にばれたようだった。今の所は声を掛けられないから、そこはいいと言える。僕は屈みながら、アレスの教室を通り過ぎた。そして、背後を一度振り向くと歩き出した。幸いこの辺りの廊下は他の生徒が見当たらないので、変な目で見られる事はなかった。





 また散歩を再開すると、中庭のベンチで楽しそうに座っている女子生徒がいた。本を読んでいる姿は上級生のようだった。劣等生とは違い、そのオーラに品がある。


 僕はその生徒を見て、上級生と下級生の違いがよく分かった。これまで見下される事が多いので、わざわざ生徒の服をじっくり見て来なかった。


 全員黒い上下を着ているが上級生が黒いベルト、下級生が白いベルトをしているのだった。


 自分の服を見ると、やっぱり白いベルトをしていた。劣等生と優等生の差別があるとしても、制服では分からないようになっているのだった。それがいいかは分からないが、あからさまに差別をすると「王立魔法学園」のイメージが落ちるのだろう。だから、顔や名前を覚えられるのかもしれない。


 ザックはよく考えたら、黒いベルトだから上級生。だから、劣等生(彼ら)のリーダーを務めていたのだろう。下級生として在校していた時も、授業は受けれなかったのだろう。だけど、イーシアなどの支援者と出会えたのかもしれない。


 そして、先生は黒いローブを着る。それは担任も学園長も同じだった。生徒が講師を見つけやすくするためだろう。同じ服を着ていれば体格では、講師に見える生徒もいるから。



 僕はそこで優雅な一時を過ごす上級生を見習いたい気がした。どこか別の場所に、大樹があるのならそこで昼寝をしたい。猫のように日に当たりながら。




 だけど、世界が僕を許さないだろう。自分を取り巻く全てを解決しないと、その日は訪れない。


 当分は夢であると僕は思いながら、また進んだ。この学園の綺麗な面と汚い面、両方を見るように。

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