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学園の食堂

 食堂には疎らだが未だ人がいた。授業のない在校生。上級生である気がした。アレスなどの新入生、下級生はまだ取る授業が沢山あるようだったから。

 僕はアレス達も先程、ここでお昼を食べたのだと思った。何を食べたかは分からないけど、楽しめたらいいな、と考えた。


「おい、劣等生だぞ」


「わざわざ大群で押し寄せるなど、余程暇な奴らだ…」


 僕らが大群で押し寄せると、嫌でも人々が見ているとすぐに分かった。時には囁き声が聞こえて来た。

 こんな時に大群で来る人は分かりやすいだろう。誰もが嫌そうな顔をする。


 が、劣等生(彼ら)が気にする様子はない。彼らが結ばれた絆が、彼らをこう言う視線から立ち向かえた。僕の周りにいる人は、誰もがいい顔をしていた。誰も尻尾を巻いていない。

 僕は彼らの雰囲気に巻き込まれそうな気がした。そのオーラに影響されて。だが、何とか自分の気持ちをしっかりさせた。





 券売機から買った定食のチケットを置くと、僕の頼んだ定食が出された。大きな音を立てて、盛られた料理が溢れるように。それは明らかにこちらを嫌っている態度だった。僕は落ちそうだった定食のトレーを手で受け止めた。


 すると周りから声が漏れる。

「あいつ、劣等生のくせに受け取ったぞ。大抵の落ちこぼれの新入生など、落とすのにな」


「新入生のくせに生意気だなぁ」



 僕が立ち止まっていると、後ろのザックが申し訳ない顔をした。

「これが劣等生(俺ら)のやられる普通の事だ…ごめんな」

 と、謝った。


 リーダーであるザックが何故わざわざ謝るのかが、分からなかった。彼は加害者ではなく、被害者なのに。僕に同情してくれる、優しい者なのだろう。アレスのように。


 僕は何も返さずに、手元を見た。

 やっぱり、出される物もケチられている。劣等生だからと言って、同じ値段を出してもやけに量が少ない。既に食べている優等生(者達)の皿と比べると、大きく違う。

 僕は気にしないが、これはやり過ぎだろうと思った。



 溜め息を抑えながら、僕はトレーを取ると歩き出した。どこに行けばいいか分からず、左右を眺めていると、ザックが首を動かして付いて来て、と言って来た。そのまま後を追うと、食堂の端に連れて行かれた。予想通り、虐められているような場所である。

 劣等生と呼ぶ時点で、優等生と先生方は知らないままに虐めているのだが。



 席に着いて一口食べると、味は美味しかった。学食だから虐める者も、味を悪くする事は出来ないのだろう。そんな事をすれば、他の奴らからも苦情が出る。

 劣等生(僕ら)への気持ちが込められていないとしても、美味しいのは皮肉なものだ。本当に美味しいものは入学前に食べた、あのカツサンドだけだろう。


 周りを気にせず話しながら食べる、ザック達を見ながら僕は静かに食べていた。食事中は話し掛けられない限り、自分から話さない。食事に集中したい性格だから。見ている所、ザック達といれば余り絡まれないと思った。ザック達もこの環境が嫌だから、会話をして気を紛らしているようだった。




 背後から足音がして、ゆっくり振り返ると定食の具材だけを乗せたトレーを持つ、食堂の女性がいた。ザック達を見た所、よく知る知り合いの関係のようだった。


 最初にザックが声を掛けた。

「イーシアさん、こんにちは。彼が新入生のレイです」

 と、僕を紹介した。


 イーシアさんがこちら見た。長髪に大きな瞳を持つ、綺麗な人だった。


「イーシアです。こんにちは、レイ。何かあったらいつでも相談してね。君達の相談者をしているし…はい! 今日の少なくされた分。子供はよく食べないといけないのよ」

 と、イーシアさんがトレーを僕らの机に置いた。


 嬉しそうな顔でザックが、イーシアさんを見た。

「いつもありがとうございます、イーシアさん。だけど、大丈夫ですか?」


 僕らにイーシアさんがウィンクをした。少しお茶目なようだった。


「大丈夫。元は君達が払ったものだし、誰も余っていたら食べないよ。本当に悪い人達がいるよ…だけどレイはこの学園を嫌いにならないでね。いい事もまだあるから」


 イーシアさんの言葉に僕は小さく頷いた。




 彼女は本当に心が澄んだ人である。僕が決して真似出来ないほど。


 そんな事を言われたら、憎い人も憎めなくなりそうだった。ザック達は彼女がいる事で、綺麗な心のままいれるようだった。まだ、暴力的な問題に発展していない辺りから、そう思った。


 彼女は彼らの温かい太陽見たいな存在だった。

 それかもしくは、彼らのような劣等生(星々)を照らし続ける月のようである。

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