【第四話】退屈な日々に終わりを告げる
◇
今日の夕食も東山の姿は見なかった。
エリナからの命令。東山が今書いている小説をコピーして渡す。
(大丈夫簡単なことだ。ちょうど東山にコピーとっていいか頼んでみよう)
そう思い俺はさっそうと夕食を済ませ、二階の東山の部屋に向かった。
(そういえば、東山が来てからまだ部屋見たことなかったな。)
俺は扉を軽く三回ノックした。
「東山ちょっと聞きたいことあるんだけどいいか?」
そう扉の前で東山に問いかけると中からうめき声のような声がした。
「うーーん。入って・・・」
入出の許可が出たので俺はお邪魔した。
「失礼しま・・・・」
俺は目の前の光景を見て呆気にとらわれていた。
制服は椅子の上にお団子のように丸まっており、その他衣服や下着などはベットの上に山のように散乱。
そして床いっぱいに敷かれた「人をだめにするもちもちクッション」が置かれており、その周りを囲むように菓子のごみが散乱していた。
まるでかたずけが重度にできない男子大学生の部屋みたいだ。
東山は机に向かって書き続けていた。
「で、なんのようですか。風神君」
「ああ、そうだった。
忙しいとこ悪いんだが今書いているところまででいいから印刷してくれないか?」
俺は東山にねだるように頼み込んだ。
「どうして?風神君は小説が好きなのは知ってるけど私の作品を頼み込んで読んだりは今まで一度もなかったよね。
急にどうしたの?」
東山は作業をしながらそう俺に問いかけた。
「友達が大ファンらしくてぜひ投稿前の作品を少しだけでもいいから読んでみたいって頼まれたから聞いたんだ」
「へー、まだ私みたいな新人の小説をファンって言える子がいるんだあってみたいね」
東山は本当に疲れているのだろう。
昼間カフェであった時より目に疲れが来ているような表情だった。
「なぁ東山せめてエピローグだけでもいいから。
頼む!」
そう言って俺は東山の前で手をこすり合わせて頼みに頼み込んだ。
「分かった。明日の朝台所に置いておくから明日にでも友達にみせてあげて。」
東山は画面越しだったが俺にそう言った。
「まじか、ありがとうな東山。
じゃあもうそろそろ風呂入って寝るわ。
小説のコンテストが終わったらかたずけくらいしろよ。」
「分かった約束する」
俺は部屋からすっと出た。
かすかに聞いた。俺が部屋から出るとき確かに聞いた。
「次の大会だけは負けれない」
そう確かに呟いた。
俺はその東山の声からしてなにも頑張っていない自分が腹立たしくも何もできない無力さの葛藤に呑まれていた。
次の日、確かに台所に昨日東山が言っていた通り俺が頼んでいたものが置いてあった。
俺は遅刻しそうだったため急いでそれをカバンにつめて浜渦荘をでた。
その日昼休み、俺は頭がいっぱいだったので弁当を買うのを忘れてしまった。
だから今日の昼食を買うために俺は唯一の友達であるイロハと食堂へパンを買いに来ていた。
「今日もすごい列だな。」
「そうだね、りゅうやは何買うか決めた?」
「そうだな、やっぱり安定のメロンパンかなぁ」
「へー、僕は新作の生クリーム小倉パンにするよ」
この俺の唯一の友達であるイロハ。本名、茂垣彩巴。
俺はイロハと下の名前でよんでいる。
向こうも俺のことを名前でりゅうやとよんでいる。
イロハの事を簡単に説明するならばたいていの女子どもよりも女子力が高く、外見やしぐさまでもが女子と見間違えるほどだ。俺がそういうやつと友達になりたいわけではない。
たまたま入学時から席が隣だったから仲良くなったのである。
もちろんそれ以外の同クラスの男子や女子どもとは話すどころか自分から目もあわせないようにしている。
食堂は校舎から一回でて体育館を通過したところにある。
うちの食堂は高校にもかかわらず夜も開いている。
昼食がパンの時はいつも部室棟裏にある廃イス置き場で食べている。
単純にだれも人がこないし、教室より風通しがいいからだ。
イロハが嬉しそうに生クリーム小倉パンをもって俺の後ろを歩いている。
俺も久しぶりのボッチ飯じゃないので気分が上がっていた。
廃イス置き場で話し声が聞こえた。
俺は部室棟の建物に隠れて静かに耳を澄ませた。
「まったく、いつになったら持ってくるのかしらあいつ。」
「リエナ。あの風神っていうやついつも一人だけどあいつに東山の原稿なんてもってこされるの?」
「大丈夫、こっちには彼の図書カードともう一枚、切り札がある。
だいいち、男子が好きそうな恋愛の話もいったし、絶対にもって来るでしょ。」
「まぁ、そんな女子いないんだけどね」
話の内容からして確実にリエナとあの憎きリアナの会話である。
「おーーい、りゅうや。そんなところでなにこそこそして・・・・んーーーー!!」
「シー。黙ってろ」
俺は大声で俺を呼ぶイロハの口を手で封じ込めた。
「今何か聞こえた?」
「さぁ、猫なんじゃない?」
「まぁいいわ。これで私たちが一番になれる。
次にコンテストは私たち姉妹の勝利ね。」
「ええ、前の新人コンテストでは負けて書籍枠取られちゃったけど今度は絶対に私たちがとる」
《東山咲姫を絶対に潰す!!》
俺は悪心のこもった会話を聞いて耳が鼓膜がそして心がエグられた。
そして俺はふっとイロハの手を緩めた。
「行くぞ、やっぱり食堂で食べよう」
「あ、ああ。わかった」
これであの時の違和感が分かった。
なんでエリナが東山の原稿を欲しがる理由が・・・。
ということは俺は東山を貶めるための陰謀に手を貸していたことになる。
俺はそれを確信した時、胸が張り裂けそうになった。
昨日机に向かって一心不乱で書き続けている東山のあの情景があの表情があの熱心さが俺には直視できないほど眩しかった。
応援しているつもりがまさか東山をくるしめ、このまま不幸なエンドロールに向かおうとしているなんて俺は思ってもいなかった。
自分のやったことが腹立たしくなった俺は手に持っていた空のカフェラテ缶を無言でつぶした。
「どうしたりゅうや、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。ちょっと自分が許せなくなっただけだ。」
「悩んでいるなら相談。でしよ?」
「じゃあ今、歩きながら相談、早急を要するからな」
「了解。相談内容は?」
「クソな女を二人ほど懲らしめたい。
どうすればいい?」
「うーん。僕なら相手の嫌がることをして完膚なきまでに勝利する。かな。」
「なるほど・・・・わかった。」
俺はこの時、頭の中で最善か分からないが上手く行きそうな計画が浮かんだ。
一瞬ためらったが数秒で決断した。
その日の放課後。
俺は昨日の夜、またリエナに昨日のカフェに来るように言われていたので授業が終わり次第、直ぐ向かった。
再びあのオシャレな扉を開いた。
「いらっしゃいませ。何名様で?」
俺は「二名」といおうと手を前に出して指で2を表そうとしていた時だった。
「もう来てるわよ。
また、文句言われるのはごめんだからね」
声が聞こえる方向を見た。
視線の方向には既に座っているリエナの姿があった。
そしてまたいつものパンケーキを食べていた。
俺は「先に来ているので」とだけ言って店内に足を運んだ。
俺は何も言わずリエナの向かいに座った。
「で、昨日言ってたもの持ってきてくれた?」
「ああ、頼んだらコピーしてくれた」
俺は怒りを抑えながら笑顔を作り、カバンから封筒を取り出した。
「へー、以外と早かったんだね。」
そう言ってリエナは俺の方を嬉しそうに見た。
「きっとあなたの事、信頼しているのね」
リエナはそう言って俺に先に注文しておいた、コーヒーを俺の前に押し出した。
俺はコーヒーを一口飲んだ。
「そうだ。俺は東山に信頼されているし、俺も東山の真っ直ぐな心を信頼している。」
「へー、随分と仲良しなのね」
「だからな、許せねぇんだよ。
そうやって頑張っている奴を貶めようとする奴はな。」
「何言ってるの?」
リエナはわざとらしく動揺した。
これは彼女なりの演技なのだろう。
どこか仕草が堅苦しくぎこちない。
「ごまかしてるんですか?
昨日、部室棟裏の廃椅子置き場で偶然聞いたんだよ。お前とリアナが何やら物騒な事話してたの丸聞こえだったんだよ。」
そう声を苛立てて言った。
するとリエナは焦っているのが丸分かりのように汗をかいている。
「で、でもぅ。
しょう・・・、証拠がないでしょ。」
「確かに証拠はないな」
「そ、そうでしょ。
所詮あんたの戯言よ」
そう言ってリエナは直ぐに余裕な態度をとった。俺は胸ポケットからモノを取り出した。
「お前が俺を奴隷にするために人質に取っていた貸出カードだ。
今日新しく作り直してもらった。
そしてもうひとつ一番俺を脅した要因の「(俺の事を好きだという人なんて居ない)」そうだろ?それも昨日聞いた。
つまりお前が俺を縛る2つの要因は消え去ったということだ。」
そう言ってリエナの目の前小さなクッション裏地の付いた黒い袋を置いた。
「で?これが何なの?」
「わかんないのか。
これのおかげでリエナ、お前は俺の提案を絶対に断れなくなったんだ」
そう言って俺は黒い袋の中の物を取り出し、机の上に置いた。
「あんた、ガチで普通じゃないね」
「お前よりかまともだよ」
そう俺が机に置いたのは悪心籠る2人の会話が入っているボイスレコーダーだった。
エリナはボイスレコーダーを見て、凍りついたように固まったまま汗をかいていた。
「さて、リエナ。
これで俺がお前の命令を聞く理由は全て無くなったな。」
そう俺はリアナに言った。
「やってくれたわね。」
凄い剣幕でリエナは俺を睨んだ。
「さて、どうしようかなー。」
そう言って俺はエリナをじらした。
だがこれも演技に過ぎない。
もう俺の計画は完全にハマっている。
あとは煮るなり焼くなり好きにしろ状態だ。
「さてとリエナ、現実の話をしよう。
お前とリアナは話を聞く限り小説家だろう?
ならこの事が世間に知られたら今後の活動がしにくくなると思うんだがなー」
そう言って俺はリエナを脅した。
「で?何が言いたいの?」
俺は悪く微笑んだ。
「今度はお前が俺の奴隷になれ」
そう言うとリエナはパンケーキと一緒に着いてきた、ナイフを握りしめた。
「もういいや。
わかった私の負けだよ。」
そう言ってリエナはナイフから力を緩めた。
「では、一つ俺の願いを聞いてもらおうか。」
リエナは俺の方をじっと見たまま再び硬直していた。
そして俺は勢いよく立ち上がった。
「俺と勝負してくれないか?」
その提案はあまりにも適当過ぎた。
「いいわ。
で?何で勝負するつもり?」
俺は再び椅子に座り、コーヒーを一口、口に含んだ。
「俺の友達にちょっと賢い奴がいてな。
そいつに聞いてみたんだよ。
どうやったら正義の鉄槌を下せるかな?って聞いてみたんだ。
そしたらな自分の嫌がることをすればいいって言ったんだよ。
俺もその意見に賛成した。
そして俺とお前、共通かつ嫌がることが見当たらなかった。
だからどうしたものかなんて考えたが、結局見つかんなかった。」
「で、なにがいいたいの?」
そう言ってリエナは首を傾げた。
「リエナ、俺もこの大会に出る。
そして、お前たち二人に完璧に勝利する。
だからだ、俺からのお願いはこの一つだけだ。
この大会から辞退するなよ、俺に負けそうになってもな。」
リエナは苦笑いを浮かべた。
「ほんとに私に勝てる、いや、そもそも同等に戦えると思ってんの?」
「まぁ、初めから勝てるなんて思っていねぇよ。
こちらとてマジモンの小説家とガチンコ勝負なんてしたことないしな。
でも、なんだろな。
俺がお前に負けるビジョンがみえないんだよな。」
「そうでしょね、だってあなたは・・・・」
リエナが何か俺に言ようとしたとき、彼女を呼ぶ声が聞こえた。
「リエナーー。何してるの?」
彼女を呼ぶ声の方向に視線を動かした。
一瞬では誰かわからなかった。
ポーニーテール・・・こいつの友達か?
疑問が浮かんだが金髪ということである一人の人物が頭の中に生まれた。
(まさか・・・・リアナか。)
だがリアナが自分をよんでいることをリエナは知らなかった。
俺はこの今の状態を彼女に見られて何を思われるのだろうか?
きっとどんなことを思われても俺はいやだと思う。
だから俺は他人のふりをしてこの場を立ち去ることにした。
そうやって意識を別の事に使っていると俺にしつこく信号を送っている声がした。
それに俺は答える事なく席を立ち、横目でリアナの位置を確認し彼女に見つけられないように遠回りして店からでた。
リアナは無事リエナを発見し、さっきまで俺が座っていた席に座った。
「なにしてたの?今日は編集社に行かないといけなかったでしょ。
さっきママから連絡があってリエナにかけても全然でないって。
で?何してたの、こんなおしゃれなカフェで?」
「ただ、有名でおいしいパンケーキを頬張っていただけだ。」
「へーー。」
リアナは自分が質問したのに安易な答えで返した。
じっとスマホの画面を見ているとリアナは目の前に置いているコーヒーをじっと眺めている。
「ねぇ、リエナ。」
「なに?」
「このコーヒー誰の?」
リエナは少しだけ返答に間を開けた後、口を開いた。
「ああ、それは私が頼んだやつ」
リエナはすぐにそう返答した。
「じゃあ、わたしが飲んでも大丈夫だよな」
そういってリアナは少量コーヒーが残っているカップを口に運んだ。
「だ、だめ!!」
そういってリエナは慌ててリエナはリアナの奇行を止めた。
「ははは!引っかかった。
これあの子のでしょ。知ってるんだよ最近よく放課後二人で一緒にいるの見るもん。」
「だからなによ。」
「リエナはさ昔から自分を隠すのがうまいんだよね。
でもさ、私の前ではびっくりするくらいわかりやすいんだよね。」
リエナは恥ずかしさで顔が真っ赤に赤面した。
「あのさ、もしかしてなんだけど・・・・・」
_____リエナってあいつの事好きなの?
その問いにリエナは無言で頭を上下に動かした。






