94億 息子が生まれて「すいません」
午前8時半
「課長、報告します。昨日の夕方6時に息子が生まれました!」
月曜日の朝、俺は喜んで直属の営業課長に自分の息子の誕生を報告した。
その後の返事は一生忘れない。
またこの返事は俺がこの会社を辞める決意をした理由のベスト3つに入る。
「なんだ、その話はもう聞いたよ。そんなことよりノルマがあるから早く仕事にかかれ」
であった。
もちろん仕事の前なのでまともな反応は最初から期待してはいなかったが、まさかこんな冷たい返事が返ってくるとは予想だにしなかった。
人間と言うものはいろいろな状況にある程度は対応できてるように便利に設計されているがいきなり限度を超えるような状況に陥るとすんなりと反応できなくなるものである。
このときの俺も全く同じで
「はい、すいません。すぐに仕事にかかります」
と言ってしまった。
息子が生まれたのに
「すいません」
と言ってしまった。
情けないが相手が無茶苦茶な反応ならこっちまでが無茶苦茶の対応になるものらしい。
俺は考えた。
仮にもし自分に部下がいて彼の初めての出産の報告を受けたら自分が上司として何と言うであろうか。
「そうか!それはめでたいなぁ。今日はお祝いだ。みんなで朝から飲みに行こう!支店長には俺が言っておくから心配するな!」
とまではいかないまでも縁起事を好む証券業界なのでそのくらいのことはしてあげたいぞ。
普通。
まぁそれはともかく人間ならば最低
「おめでとう」の一言が出ないかな?
そんなにハードルの高い要求ではないはずだ。
その非常識極まりない能面のような営業課長の顔を見ながら
「鬼か、こいつは?」
「一体どんな環境で育ったのか?」
と思うと腹が立つとともに人間として情けなく悲しい思いをしてその場を去った。
この件に限らず証券業界にはちょっとまともな感情が欠如していたり世間知らずな人間がいた事は否めない。
元からそういう人間だったのか、この会社に入ってそういう人間形成をされたのかは明らかではないが、多分ある程度の下地があって入社とともに完成品となったのであろう。
後日このやりとりを両親に話したところたった一言
「あー、そんなアホなこと言うやつを課長にするような会社はすぐ辞めたほうがいいな」
であった。
これがまともな人間の反応であろう。