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93億 会社を辞めることへの憧れ

午前8時朝礼にて


「はい!皆さん報告です。今月末付で2課の田口くんが会社を辞めます。皆さんで快く送り出してあげて下さい」


「えー、田口さん。やめて次はどうされるんですか?」


「はい静かに、でその後は外資系の証券会社のメリル・リンチ証券に勤めるそうです」


「えー、先輩いいなー」


「外資系か」


「給料いいからなー」


「今週末は送別会ですので参加できる人は是非来るように。以上」


「ええなぁ、こんな投資信託地獄から脱出できるんやなぁ・・・」


「ほんまに羨ましいわ」



証券マンは全員がバンジージャンプの踏み切り台に立ってるようなもんで


「先輩の誰それが辞めて独立した」

とか

「外資系証券会社に行った」


とかの話を聞くと先に踏み切り台を蹴ってジャンプした先輩が本当に羨ましく思えた。


これを例えると小学校の時に予防注射の順番を待っていて、すでに終わったやつに

「どうだった?痛たかったか?いいなぁお前は既に終わったんだよな」

なんて聞くあの心境と同じである。


しかも当時の外資系証券会社の月給は最低でも100-120万円であつたからさらに羨望の眼差しで見られる。


いつも朝みんなで社員寮から車に乗って通勤するのであるが車内の話題はいつも

「誰が先に会社を辞めるか」

であった。


今考えると会社を辞めることぐらい全く大した事では無いのだが当事者のときにはそういうわけにはいかなかった。


カルト教団の信者が抜けれないのと同じ理由である。


「こんな拷問みたいな仕事はもう辞めたいのですが」


「仕事に全く意義を感じません」


「今やってる仕事に何の意味があるんですか?」


などとたまりかねた課員が上司に相談することがあったが(まぁこれ自体が大間違いであるが)その時の課長の回答は常にハンコで押したように

「どこの会社も内情は同じでこんなものだよ」

とか

「社会人は我慢も大事だよ」

とか

「会社を辞めてもいいことないよ、それより君は辞めた後どうするんだ?」

などと無責任極まりない答えばかりであった。


そんな偉そうなことを言って

「お前はやめた経験があるのかよ?」

「他の世界を見たことがあるのか?」

と聞き返したくなる。


つまり相談相手には全くならなかったように記憶している。


それはそうである上司は部下に会社を辞められたら自分のマイナスになり、ひいては出世に影響するので決して「やめろ」とは言わなかった。


つまり自分の損得勘定だけで部下の相談に乗るわけであるから前向きな意見は出てこないのは当たり前である。


あれほど毎日のように

「ノルマができないやつはすぐに辞めてしまえ!」

と大声で叱咤してたのがまるで嘘のようである。



それとなぜか「会社を辞める」と言う行為そのものが我々にとって途方もなく罪悪感があった事は否めない。


理由は何かこの無意味な仕事にみんな置き去りにして自分だけさっさと非難するような気持ちがあったからである。


勇気を出してその気持ちに決別して思い切って転職したり独立したりする先輩がいるととてつもなく羨望の眼差しで見てしまうのも仕方がない。


よく歪んだ宗教団体の実態をテレビで見ていて

「馬鹿だな、あんなに辛い修行や戒律、寄付金があるのならさっさとやめればいいの」

になんて思うことがよくあったが何の事は無い自分たちだって全く同じであった。


つまり完全に「木を見て森が見えてなかった」のである。

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