朝のひととき
「……ふぅ」
朝の静かな電車の中でサラが憂いげについた溜息に、ハインツは目ざとく反応して問いかける。
「どうかしたんですか?」
「ちょっと疲れちゃって……でも、明日は休日ですから、頑張ります!!」
「……っ…!…そ、そうですね」
小さくガッツポーズをしたサラにハインツは真っ赤な顔で相槌を打った。
そうして電車を降りると、サラよりも大柄で人ごみをかき分けるのに手間取っているハインツが追いつくのを待ち、2人で並んで歩き出した。
「シュヴァルトマンさんは、甘いものお好きでしたよね?」
「え?えぇ、まあ」
「実はカフェの新作ケーキ、私が考えたものを置いてもらえることになったんです!」
サラはお菓子作りが趣味というのが幸いして、自作のケーキをカフェでメニューとして置いてもらえることになったのだった。
「それはそれは…おめでとうございます!」
「もしいらっしゃったらぜひ食べてください」
「もちろんです!」
サラは返事を聞いて微笑み、手を振って外国語学部の校舎へ入っていった。
「…おい、ハインツ」
「いつからそこにいたんだ…」
ハインツの良き理解者・トマスはサラの背中を見送っていたハインツの肩に手を回した。
「彼女とはどんな感じなんだ?ん?」
「茶化すな。」
普段は誰にでも親しげのある笑顔を振りまくハインツも心を許すトマスの前では素の自分をさらけ出せる。
「お前のことだから天使の笑顔で猛アプローチしてるかと思ったのに、全然だなあ」
「…うるさい…彼女の前だとうまくいかないんだ…未だに彼女のこと、何も知らないし…朝とカフェでしか会えないし……」
「……そんなお前に、俺からプレゼントがある」
そう言ってトマスが差し出したのは劇場のチケットだった。受け取ったハインツは目を丸くしている。
「どうせデートにも誘えてないんだろうが。
チケット高かったんだから成功させろよ?」
トマスが普段はおちゃらけているものの、こういう時はかなりしっかりした優しくて良い奴だということをハインツは知っている。そして彼のこういうところが好きなのだ。
「ありがとう。」
「おう!」
ハインツは今日もカフェへ行って渡しに行こうと決意したのだった。