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その恋、機械仕掛けにつき。  作者: chick
第一章 ハインツ・シュヴァルトマン
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日記 5月18日

5月18日 快晴



今日、運命の人に出会った。


路面電車の中でこくりこくりと舟を漕ぐ美しい人に一目で心を奪われてしまった。


降りる駅も同じで彼女に続いて電車を降りると、彼女の目の前を自転車が通りその拍子に彼女が抱えていたレポートが地面に散らばった。


僕はとっさにレポートを拾うのを手伝った。どうやら彼女は外国語学部のようだ。彼女がレポートを拾っていると、明るく長い茶髪が風に揺れて美しかった。


思わず見惚れていると、彼女と目が合った。気まずそうに笑う彼女に心臓がどうにかなってしまいそうだった。きっと僕は変な顔をしていたことだろう。


拾い終えて僕にお礼を言う彼女に対し、僕は緊張のあまり余裕がなかった。早口でさっさとその場から立ち去ったことをとても後悔している。

思えば、あのとき名前や学年を聞けばよかった。そうすればもっと彼女を独り占めしておけたのに。


その後、今朝のやりとりを見ていたトマスから彼女の事を聞くことができた。どうやら彼女は学内では結構な有名人らしい。あんなに美しければ当然のことなのだが、みっともなく嫉妬してしまった。反省だ。


彼女はサラ・ミヤコ。

ハドイツェル人と東の小国、桜花帝国人の混血らしい。そのためハドイツェル語と桜花語に長け、将来通訳になるために外国語学部に在籍しているとのこと。

また、大学から少し離れたカフェでウェイトレスとして働いているらしいこと。

現在は恋人はいないらしいこと。


僕は午後の講義を早退して彼女の働いているというカフェへ向かった。

この時の僕は自分でも不思議なほどワクワクしていた。まるで、誕生日プレゼントの包みを開ける時の子供にでもなった気分だった。

案の定彼女はなんとも可愛らしい制服に身を包んで働いていた。


あまりに僕が彼女を見つめていたからか、マスターが彼女を僕の元へ来させてくれた。僕に彼がまるで神のように思えた。


僕はまるで偶然再会したかのようにとぼけてみせた。あれほど彼女を目で追っていたのに、だ。

しかし彼女はそんな僕に再度礼を言ってきた。彼女は見た目だけでなく中身も美しかったのだ。


それだけではない。

彼女は今朝の礼だと言って僕にケーキを差し出した。すぐに受け取ってしまっては、と遠慮してみると案の定彼女は受け取ってくれと言ってきた。

しかもマスターには内緒で、彼女の独断でプレゼントしてくれたらしい。天にも登る気持ちとはまさにこのことだった。


そして極めつけは去り際、彼女はこっそり「レポート頑張れ」と僕に言った。憂鬱な気持ちが一気に晴れて、何百枚でも書ける気がした。


会計も彼女だった。コインの受け取りの時に手が触れた。叫び出したい方気持ちを抑えて恐る恐る彼女の予定を尋ねた。もし他の女だったら僕のことを変質者か何かだと思うだろうが、彼女は素直に答えてくれた。


今週は毎日カフェで働いているらしい。

僕の行きつけの店ができた。

明日は午後からの講義は無いはずだから、また課題を持って行こうと思う。




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