居場所
美香はそれから浩史のアパートに入り浸るようになった。
体はまだボロボロだったので家事手伝いをする程度で大学にもバイトにも行っていなかった。
そして、美香は大学に退学届けを出した。
「そっか、辞めるのか。」
「はい、どうしても続けるのに自信が無かったのと、ここは私の居場所じゃないって思っちゃったんです。」
3年間お世話になった場所に失礼な発言かとも思ったが、それが素直な気持ちだった。
「残念だが、自分で自分の場所じゃないと気付くのは俺はいい事だと思うぞ?それは自分の場所を何となくでも分かってるって事だからな。」
「居場所…分かりません、未だに見つけられてない気もするし、やっと見つけた気もするし。でもそれがただしいのか分からないんです。」
「正しいも間違いも無いだろう。感じればいいんだからな。あの男の人のところに行くのか。」
「はい、助けて貰ったので、お礼もしたくて。」
先生はフッと笑った。
「やっぱり何か固いな。まぁそれも徐々にだな。いい生活送れよ。結城がお前に会えないままで寂しがってたぞ。あいつにも会ってやってくれ。」
「はい、先生、私は自分で思ってるよりも平凡な女でした。」
「ん?そうか?俺にはちょっと変わってるように見えるけどなぁ。」
そう言うと先生は豪快に笑った。
一連の説明とお礼が終わると、美香は研究室を出た。
ふと見ると優里が立っていた。
自分が言ってしまった事を思い出して、体がこわばった。
何か言おうかとも思ったが、そのまま素通りしていくことにした。
「私達お互いが羨ましかったのかもね。」
すれ違い様に優里が言った。
「え?」
「少なくとも私は羨ましかったよ。私には見えない世界を見てるんだなぁって思った。だから触れてみたかったのよ、あんたに。」
美香は何も言えなかった。
優里はしばらく美香を見ていたが、フィッと身を翻して歩いて行った。
「羨ましいか、私なんかを羨ましがるなんて優里も相当変わってるね…」
届かない小声で言うと
結城の待つ教室へと向かった。
でも美香は既に今夜、浩史に作る夕飯の献立を考えていた。
今回は書きたかった事を書けたのですが
自分としては課題の大きな作品となりました。
通りすがってくれた方、読んでくださった方、ありがとうございます。