限界
服装、そんなもので自分を飾って何になるのだろうか。
服装なんてのは虚像であって真の自分なんて表してはくれない。
その日、どんな服を着ても着心地が悪く
ブラジャーとショーツで鏡の前に立ったまま放心していた。
服選びひとつで神経がすり減る。
大学というパレットの上で流されそうになりながらも必死で自分というアイデンティティを持たなければならない。
美香は自分が完全に消えてしまうような恐怖を感じた。
破れたジーンズに白いTシャツ、解れが気になるジャケットを急いで羽織って大学とは反対の場所へ向かい出した。
歩き出しても目標がある訳でもなく、宛もなく歩きながらコンビニに入ってウイスキーを買った。
結局自分が逃げる場所はウイスキーしかないのだと自嘲気味に笑った。
どこにも寄りたくない。
公園へ逃げ込むとウイスキーを3口いつも通りにぐびぐびと飲んだ。
公園には親子連れも多かったが
行き場を無くしたような人達も溜まっていた。
自分はその行き場のない1人に見えるのだろう。
何かが限界だった、張り詰めた糸が切れそうな、迷いと突き付けられる現実の間で頭の中が煮えたぎっていた。
「息が出来ない…」
しかし絵は遅れている、そろそろ本気で完全させないと穏やかで評判の先生もいい加減怒るだろう。
酔った訳ではないが、足元がふらふらした。
大学に着いてもどうしても絵に向き合う事が出来ない。
逃げるように先生の研究室に入った。
「どうした、絵が進んでないようだな。」
先生はコーヒーを出してくれると自分の分も机に置いた。
「はい。なんか、上手く言えないんですけど色んなものが迫ってくるようで、自由が効かないんです。自分が自分じゃなくなるみたいになって。」
「おいおい、かなり重症だなぁ。美香さんは真面目だから追い詰める所まで追い詰めると逃げられなくなるぞ。息抜きをしろよ。」
「息抜きの、やり方すら忘れました。」
美香の体は硬直して震えていた。
「そうか…あまり自分を追い詰めるなよ?少し授業休むか。そんな状態じゃ絵なんて描けないだろう。」
悔しくて次から次に涙が零れた。
帰宅の準備をして帰路につこうとすると優里が声をかけてきた。
「お、今日もサボりだな。」
タイミングの悪い冗談だ。
「ごめん、今日具合悪いのそっとしといて。」
「まーた考え過ぎたんでしょ、気楽でいればいいのにさぁいつも美香は」
「うるさいって言ってるの!分かんないの!?あんたはいいよね!お気楽極楽でさぁ!将来も何となく決まっててさぁ!いいよねそう言う呑気なの!」
いつもは喉の奥で我慢していた言葉が溢れてきた。
「家に帰ってもお父さんもお母さんも優しくしてくれるんでしょ!その服だってどうせ買って貰ったんだ!雑誌からそのまま出てきたような格好してさ!馬鹿じゃないの!?」
1番の馬鹿は私だ
それが分かっていながらも止まらなかった。
全て吐き出して興奮と息切れで荒い呼吸をして何とか自分を落ち着けた。
「私はこの服も自分のバイト料で買ってるよ。雑誌から抜け出したような格好だって美香みたいに野暮ったい格好よりマシ。あんたから見たらお気楽極楽かもしれないけど、私だって人並みに迷うし悩むよ。
あんたさぁ、自分が1番可哀想だって思ってるんでしょ。そんで自分が1番かっこいいと思ってる。飛んだ勘違いだから。いつも不満気な顔してさ、何でも分かったような振りしてるけど、何にも分かってないじゃない。知ったかぶりしてるだけで気持ち悪いよ?暗いから気になっていつも声かけてたら、この始末か。なんかあんたなんかに声をかけてた自分がバカバカしくなってきたわ。」
優里はそのまま立ち去った。
的を射ていた。全部その通りだ。
吐き出した毒の苦さと
自分の恥ずかしさが喉に絡み付いて
美香はその場で吐いた。




