休校日の教室
美香には既に社会人になっている彼氏がいた。
サークルで知り合って付き合い始めて3ヶ月になる。
美香から惚れ込んで付き合う事になったのだが、何かとお互いの歯車が合わず、体の関係もまだ無かった。
「SEXってなんだと思う?」
「なんだよ突然だな。」
結城は美香がいきなりそう言ったので少し戸惑った顔をした。
美香は別に誰彼構わずそういう事を聞く体質ではないが、結城とはそういう事を自然と話せた。
結城は人体の構図に非常に興味を持っていて生理の原理などを女に聴いて回るような変な所があった。
「なんだろーなー、快感をお互いに与え合う信頼みたいなもんじゃね?」
「信頼ねぇ…」
誰も居ない教室の汚い床に美香は寝転んで、そのままタバコを口に持って行った。吸う時で1箱は行ってしまう、そろそろ本数を減らすべきかと悩んでいた。
結城は隣りに座り込んで自分の絵を眺めた。
「わかんねー事多いから俺ら絵を描いてんのかもしれねーな。」
それも一理あった。世の中には言葉で表せないものが多すぎる。
美香はそれを表したくて絵を描いてるのかもしれない。
「わかんない事かぁ、分かんないんだよねぇ、SEXも付き合うって事も、小さい頃からそうだった。お母さんと寝るのは好きだけど、お母さんの鼻息が顔にかかると気持ち悪かった。先輩の事もめちゃくちゃ好きになったのに、いざ付き合ってくれるってなると何をしていいのか分からない。触れ合うのも言葉の掛け合いも、全く上手く行かないのよねぇ。SEXって女が男に虐げられる行為みたいで、なんか好きになれない。」
SEXして
キスして
見つめ合って
抱きしめ合って
認め合って
そう言った事をみんな簡単にやっているのに、何故自分はそれが出来ないのだろう。
疑問は次から次に溢れ出すのに、答えは見つからなくて、疑問ばかりが膨らんで行くような不愉快さを美香は感じていた。
「20超えたら色々分かると思ってたけど、20超えても何も分からなかった。てか分からない事が増えた。」
美香は体を起こした。
「お前さぁ、難しい事にしてしまってんだよな、何もかも。それじゃぁ生きづれぇだろ。もっと力抜けよ。」
結城もタバコを吸いながら美香をみる。
「なんでだろうね、結城にはこんなに話せるのに、先輩にはひとつも話せないの。舌が凍りついたみたいになっちゃって。」
「ハイハイ、お前俺の話聞いてないだろう。また疑問が増えたじゃねーか。」
「はは、そうだよね。」
美香は話ばかりして関心の絵から逃避している自分に気付いた。
「そろそろ…取り掛かろうかな…」
重い腰を上げると絵に向き合う。
キャンバスに向かうと筆はひとつも動いてくれない。疑問や表現したいものはたくさんあるのに、授業で習った事や常識という感覚が邪魔して自由意志が無くなってしまうようだった。
描きたいものはあるのに喉の所で戸惑って結局腹部に戻ってしまう。
美香の体は言ってしまえば常に欲求不満だった。