酔狂
絵というのは、1から100も200も作り出さねばならず、その戦いは1人で行う孤独なものだった。
美香にとってその苦痛は言い知れぬもので、よくタバコを吸いに廊下に逃げた。
表現したいものを表現するだけでは絵画の世界はやって行けない。
周りには似たような格好で全く違う色合いを出す同級生に囲まれている。
お互いが監視役の牢獄みたいなものだ。
その息苦しさは美香だけが感じている感覚なのか、それともみんなが感じている事なのか、美香には分からなかった。
「今日さ、飲み会あるんだってよ。」
隣で自分より数倍の繊細さを出している結城がポソっと呟いた。
「お前飲み会好きだろ。来るか?」
1人酒を煽りながら騒ぐ男女を軽蔑の目でみる、それが「飲み会好き」と言うのなら確かに美香は飲み会好きだ。
「今日はやめとく、もう買ったし」
そう言ってポケットからウイスキーの瓶を取り出して見せた。
「それで1人酒かよ、しけてんな。」
結城は興がそがれたとでも言いたげにハッと笑った。
別にしけてたっていい、誰にも邪魔されない場所で今日は酔いたかった。
帰宅するとウイスキーの小瓶を取り出して3口ぐびぐびと飲み込んだ。
食道の位置が分かるほど熱く焼けてるのが分かる。
美香は酔う時の為に聴く曲を選んだ。
NIRVANA
Marilyn Manson
Radiohead
MUSE
KORN
また3口ぐびぐびと飲み干すと
髪を振り乱して踊りだす
この瞬間が美香は1番好きだった
誰にも見られてない
気配もない
音楽と自分だけの世界。
CLUBにも1度誘われて行ったが
好みの曲がかかる訳でもなく
人の生暖かい空気と体温に嫌気がさすだけだった。
美香は倒れるようにしゃがむと
スケッチブックにチューブから直接出した絵の具を塗りたくり
1日のストレスを発散するように描き始めた。
美香にとって絵はストレスにもなり発散にもなった。