キャンバス
大学のキャンバスというのは、混沌としていて美香は苦手だった。
大学生活を充実している者
疲れきって未来が見えない者
何となく大学に来ている者
その様相は美香が習っている絵画のポロックを思わせた。
美香はその中の未来が見えない者の1人だった。大学4年になっても自分の道など見つからず、好きだというだけで選考した絵画の世界でもどちらかと言えば落ちこぼれの分類に入っていた。
美香は先輩に教えて貰った巻煙草が嗜好品になっていた。
それを草の上にあぐらをかいたまま巻く。
体に害しかない煙を吸い込み、吐き出すと視界が一瞬だけヤニ臭い煙で覆われ、それがボロボロに引き裂かれたような色彩を統一化させているようで落ち着く。
煙が去ると目の前にきらびやかに今の時代の色を着飾る女が立っていた。
「またサボってる〜。」
無邪気で何の警戒もなく近付いてくるようなイタズラ風な話し方だ。
美香は鼻につく話し方だと思う。
「サボってないよー、今お昼じゃん時計見れば分かるし。」
鼻持ちならないと思いつつ、つい笑顔で返してしまう自分に、廃れ切る事が出来ない何かを感じていた。
「1本ちょうだい。」
優里はサークルで知り合った女だったが、美香とは真逆の位置にいる、男と大学とパーティーを楽しむ女だった。
「これさ、いつも巻いてるけど何か入ってるの?」
「入ってないよ。純正タバコ。」
「なんだ、つまんない。」
優里の半端に悪ぶろうとする様子を絶望的な気持ちで見ていた。
実際ハッパでも入ってたら口に持って行きもしないだろう。悪になろうとする女がこんなに軽々としている訳がない。
「そんなものより最高のドラッグ持ってるよ。」
そういうと比較的男らしい格好をしている自分のパンツのポケットに手を突っ込んだ。
「え、なになに?」
その期待した優里の目の前にウイスキーの小さいボトルを突き出して見せた。
「酒ほど人をダメにする薬はないでしょう。」
そういうと1口煽って見せた。
「えー!つまんなぁーい!」
優里は仰向けに倒れると綺麗な柄のスカートから零れる足をばたつかせて見せた。
男がどうすれば喜ぶか、優里の一挙一動は全て分かっているような動きをする。
1口飲んだウイスキーは空きっ腹を気持ちよく焼いていく。美香はウイスキーをグラスに注いで飲む事はない。ボトルから飲んでストレートを流し込むのが好みなのは、まさにドラッグ的な扱いだった。
「んじゃ私は教室に戻るよ、先生に絵の遅れを指摘されたばかりなんだよね。」
寝転ぶ優里を1人残すと草を払いながら立ち上がった。
「付き合い悪いぞー!」
そんな言葉が聞こえてきたが、美香は無視した。
どうにも優里の活発なテンションには付いて行けない。かと言って1人にもなりたくないので声をかけられれば雰囲気よく接してしまう。そんな中途半端な自分に時々嫌気がさす。
教室に戻ると既にみんな自分の絵に向き合っていて、美香は少しだけ急いで自分の絵の前に立った。