八十五話 自身無くすなぁ……
今年はこれで最後になります。ありがとうございました。
来年、またよろしくお願いします。
あれからすぐに寝てしまったステラたち。全員俺にくっ付いて甘えたまま熟睡しており、俺は色んな意味で中々寝れなかった。
……特にミレナさんよ、一体何を夢見てたんだい。妙に具体的な内容だったね?
そして今は次の日の朝。眠りが浅かったため、陽の光ですぐに目が覚めた。ちなみにまだステラたちは皆眠っている。
……寝顔は可愛いんだが、寝言は可愛くない。言ってる事に生々しいことが多かったのだ。唯一クロエだけはそこまで行ってなかったが、それでも際どい所まで行っていた。ステラとミレナは……言わないでおこう。
「……はぁ。なんかすごい疲れそうな未来が見えた……」
「どんな未来?」
「………………あぁ、起きてたのね」
キラキラとした目で俺を見てくるにはミレナ。何故か、と聞きたいところだが言ったら墓穴を掘りそうなので言わない。
……だって、目がそう言ってるもの。事細かに説明してあげる、って。
「……ユートくんがね」
「言わんでいい言わんでいい」
「ふふっ。ユートくん可愛いっ」
俺をからかって満足したのか抱きついてきて微笑んでいる。まさに悪魔の笑みだ。……ねぇ、冗談だからその目は止めて? その獲物を狙う目は普通男子がするもんなんだよ?
「じゃあ、どんな感じ?」
「すごく可愛い」
「んふふ。ありがとう」
言わせたくせに……何でもないから。ねぇ、今日テンション高くない? いくら訓練を開始するからって高くない?
俺とミレナの会話で目が覚めたのかステラとクロエがゆっくりと目を開けてこちらを見ていた。
「あー……おはよう」
「おはようお兄ちゃん」
「おはようございます」
ステラが上ってきてキスをしてくるとようやく笑顔を浮かべた。……ついでにクロエとミレナにもされた。皆とても満足そうであった。
…………満足そうで何よりです。
――皆が起きた事だしそろそろ準備とか始めたいんだけど……君たち、そこから退いてくれない? 俺も君たちも着替えとか何も出来ないよ?
「ふふふ……朝のスキンシップ」
「ねー!」
「…………はい」
「ちなみに……拒否権は……」
「「「ない(です)」」」
それからちゃんと起きたのは一時間くらい経った時の事だった……。
時間は昼過ぎ。昼食までを終えた俺たちは木製の武器と、一応の短剣を持って街の外に出た。街の中にも場所はあるんだが、なんだか嫌なのでこうして外に出たわけだ。それに思う存分できるしな。
俺の隣にはステラとクロエが。前の方にはミレナとリアナが。リアナは朝食の時に話を聞いてすぐに食いついてきた。なんか興味津々だった。
「んーここら辺でいいかな?」
「だな。準備したら早速始めようか」
俺は近くの木に水とかが入ったバックや短剣を置いて、木製の槍を携えると平原に出る。
まぁ、俺たちだったら基本的には模擬戦メインだ。基礎練よりも実戦が多かったし、ステラたちが強い分、俺はそれだけでも十二分に為になるのだ。
それぞれが違う分野で秀でているので、いろんな状況の戦闘訓練も出来るしな。
とは言え、今回は戦闘のエキスパートのリュートさんがいないので普通に模擬戦をして改善、次は違う相手と、という流れになっている。大体五週くらいかな。それを三セット程。
あとは内容、俺の疲労度から都度変更。
「やっぱり最初はステラだよな」
「いつものでいいよね。……私はお兄ちゃんに抱きついたら勝ち。お兄ちゃんは私に一発当てたら勝ち」
「まぁそれをクリア出来ていない以上それしからないけどな」
俺は槍を、ステラは剣を構える。今回の審判はミレナだ。と言っても開始の合図をするくらいしかやることはないけれど。
「――――初めっ!」
ミレナの声が掛ったがステラは動かない。まぁ、それもそうだ。何せ今回は俺が主体かつ、攻撃を仕掛けるのも俺だからな。
ゆっくり息を吐いて、神経を研ぎ澄ませる。ステラたちにはまだまだ勝てるところが見つからないが、今回はそれが目標だ。……毎回そうだけど。
「……行くぞ」
「うん。来て」
最初の踏み出しに風を起こし追加させて推進力を得る。まずは前、と行きたいところだけど……やっぱり右!
左足に強化を施して踏ん張る。勢いはそのままに右に転換。小さめの弧を描いて後ろから払い――避けられた。それもあっさりと。結構な余裕をもって。さっきまでは動きについていけてない感じだったのに……。
ステラは後ろ向きのままこっちにやって来て中段に回転斬りを放ってきた。何とかいなして後ろに大きく飛ぶ。……いつも思うんだけどさ、その身体能力はどうよ? そんな動き、全く予想できねぇよ……。
ステラの攻撃も外れたのに何故か嬉しそうだ。
「すごいすごい! お兄ちゃんの攻撃、すっごく速かったよ!」
「いや、ステラの動きの方が普通に凄いんだけど……」
だって、後ろ向きだぜ? 後ろ向き。是非斬ってくださいって言ってるようなものだろう。それを平然とやってのけるのだから……度胸が凄い。
その一言を言ったと思ったらステラが真っ直ぐに飛んできて、突きと袈裟斬りを合わせた連撃を繰り出してくる。
二撃――八撃――十四撃――二十二撃――全然止まらない。最初から俯瞰全視、高速多考、超感覚とか使えるもので一通りの強化をしてるのにそれすらも超えてくる。
止まらない連撃に槍で捌くのも難しくなり――結局は防戦一方。俺の攻撃は最初の一撃だけである。全く以っていつもと変わらない。
「やっぱりお兄ちゃん、強くなってるよ?」
「どこが、だよっ。まだ、まだ……防戦、一方、じゃ……ないかっ」
「ううん。前よりももっと……お兄ちゃんは強くなってる」
仕方なく挟まれる技と技の間以外ではステラの連撃は止まらず、むしろどんどん速くなっている。まだ速くなるのか、と俺は既に諦めモードに入りそうなんだけど……
そうしてステラは――――頬が赤くなっていった。って不味いっ!
そう思った瞬間には俺の槍はステラの木剣によって弾き飛ばされ、俺の認識に追いついたのは――ステラは木剣を放り投げ、俺に飛びついてくるその瞬間だった。
「えへへ~私の勝ち」
「はぁ…………俺の負けだよ」
ステラの勢いによって地面に押し倒され、ステラは俺に抱きついてぐりぐりと顔を押し付けている。頭を撫でると今度はぎゅぅっううっと強く抱きついてきた。
「ユートくん」
「どうしたミレナ?」
「お疲れ様。……ステラちゃんの言う通りユートくんは強くなってるよ。前ならあの連撃は止められなかったもん」
「まぁ、そうだけどさ……」
そう言いながらもミレナは膝枕をして俺の頭を撫でてくる。それに嫉妬したステラを少し強めに抱きしめてやると満足そうに表情を崩した。
さて、次は……と行きたいんだが、最初の踏ん張りの強化が足りなかったらしい。ちょっと捻ったみたいだ。軽いだけマシだが、今は治水とかで全力で治している。
「それが治るまではこのままだからね」
「あはは……やっぱりバレてたか」
「勿論。それと最後の方、殆ど息してなかったでしょ? 呼吸が少し荒いよ?」
「ちなみに……みんな分かった?」
「リアナさん以外はね」
ステラは勿論、クロエは気付いてたらしい。そのせいか、ちょっと慌てたそうだけど。それをミレナが落ち着かせたらしい。ちなみに次はクロエが相手だそう。
「クロエちゃん。早く終わらせて様子を聞きにくるよ? 頑張ってね」
ミレナはそう言うと、優しく頭を降ろして元の位置に戻っていった。ステラの方も名残惜しそうにしながらも俺の上から離れ、ミレナの場所に戻っていった。
俺の方でも怪我は殆ど治りかけているので、もう問題はないだろう。本当、魔法便利。まぁ、かなりの量の魔力を使ってるけど……。
起き上がってクロエの位置まで行き、槍を渡してもらう。その時に状態を聞かれたが、殆ど治ったことを伝えるとほっと安心したように胸を撫で下ろした。
「じゃあ……初め」
俺とクロエが位置に付き、ミレナの合図が聞こえた――――――――
「……私の勝ち、ですね」
――――――――気が付いた時には俺の懐でクロエが抱きついて問題がないか様子を見ていた。……えっと…………一体何があったのでしょう?
「……クロエさんや、一体何をしたので?」
「えっとですね……闇の精神系の魔法でユート様の思考を停止させて、そこから抱きつきました」
「……ちなみにどれくらい本気だった?」
「……八割くらい、かもしれません」
二戦目の結果――惨敗。文字通り手も足も出なかった。しかもその理由が俺の心配……俺の精神を粉々に砕き散りたいのだろうか。そんなに悪いこといたかなぁ……。
結果、その理由……酷すぎて涙が出そうです。
ゆっくりと腰を下ろす。クロエはそれに合わせて抱きついたままだったので、優しく頭を撫でてやった。クロエはとても気持ち良さそうに目を閉じている。
はははは………………はぁ、精神的に来るわぁ。




