八十二話 これで……大丈夫かな?
俺が目が覚めると既にステラたちは全員起きていて、俺を凝視していた。凝視と言ってもじぃ~~と責めるような視線ではなく、二次元表記でハートが浮かんでいそうな……という凝視だ。
俺と目が合うとにこりと微笑まれた。おはよう、と言っているようだ。返せと? せめて話なさいよ君たち。
「……おはよう。それでどうしたんだ? こんな時間に皆が起きてるのは珍しくないか?」
外を見てみればまだ朝早い時間帯だ。それでも日は昇っているし、外は騒がしくなっているみたいだけど……ステラやクロエはまだ寝てるはずなのにな。
「だって……またお兄ちゃんがいなくなったらって思うと……」
「深く眠れなかった、ってことか?」
「うん……」
よく見るとステラは瞼が落ちるのを抑えているようで、眠そうなんだが眠れない、といった状況らしい。
とりあえず俺は起き上がって枕をクッション代わりにして壁に背中を預けるとステラを手招きする。
四つん這いでやって来たステラを膝の上において、甘やかすと段々と目がとろんとしてきて瞼も落ち始めた。そしてすぐに穏やかな寝息が聞こえてくる。
「流石ユートくん。ステラちゃんの相手はお手の物ね」
「まぁな……それでミレナやクロエはどうなんだ?」
「ん~私は大丈夫だけど……クロエちゃんは?」
「……眠くはないですけれど…………甘えたい、です」
頬を赤くして恥ずかしそうに言ってくる。ミレナはクロエの背中を押して俺の横に移動させ、目で言ってきた。お願いね? と。
ステラを片手で押さえ、もう片方の手でクロエを抱き寄せる様にすると幸せそうに目を閉じた。……こちらからも寝息が聞こえてきた。眠たかったのね。
ミレナは毛布を俺たちに被せると自分も空いている場所に潜り込んできた。
「ユートくん、今日は――」
「分かってる。ずっとに一緒にいるよ。取り敢えず皆が満足するまでな」
「ふふっ。分かってるならいいの。でも……まずは二人を休ませましょ。昨日は殆ど寝れなかったみたいだから」
「だろうなぁ。ステラなんて眠たいのに眠れないみたいだったし」
ミレナは俺の手を取るでもなく、俺の肩に自分の頭を乗せてゆっくりとしていた。ステラの寝不足は不安から来るものなので、今押さえている手も外したらあまり眠れないだろうと、ミレナはただ寄り添っているだけにしたようだ。それでも十分満足そうだが。
「……ユートくんはさ、私たちのこと好き?」
「大好きだって、昨日言ったろ? 信じられないとか?」
「ううん。そういうわけじゃないんだけど……やっぱり不安で」
少し辛そうな表情のミレナ。ミレナはあまり自分のマイナスの感情は表に出さない。それはステラやクロエにしてもだ。俺にはその感情をぶつけてくれる辺り、嬉しいんだが……まぁ、辛いか。
それに似た感情を俺はかなりの時間ずっと感じてきたから理解できる。だからこそ、そんな風に思わせることに少しだけ……少しだけ、申し訳なく思う。
…………最初の頃に比べたら本当に変わったよ。さっきのだって数年前までは誰にも思わなかったって言うのに……
「……ミレナと地球にいたとき、憶えてるだろう?」
「うん。忘れない、忘れる訳がない。ユートくんと初めて一つになれたんだもん」
「あの時はさ、別に恋愛感情とかなかったんだよ。なんとなくやってしまった……って感じで」
ミレナはまたうん、と頷く。そして何も言わない。どうやら聞いてくれるようだ。まぁ表情が見えないので本当にそうなのかは分からないが。少し悲しそうだった。
「それから十三、四年……今じゃ凄く大切に想ってる。俺の両親に負けないくらいに」
「……」
「もう手放したくないし、手放す気もない。それが今の偽らざる本音だよ」
「……」
「けど、だからと言って甘える訳にはいかない。せめて隣に立って、皆を守れるように――今回のはその一環だったんだ。皆と一緒にいたいからな…………これでどうだろう? 少しくらいは不安が取れたかな?」
確認のため、ミレナに聞いてみると返事がない……。いや、途中から全く返事が無かったんだけどね。
それでミレナを見ると顔を伏せていた。体育座りで。よく見なくても耳が真っ赤だ。というか顔を隠している手も赤くなっている。気温的に赤くなんてならないので……照れてる?
「おーい、ミレナー?」
「……(ぷるぷる)」
「返事をしてくれませんかね?」
「……ちょ、ちょっと待って。嬉しすぎて緩みまくってる顔を見られたくないの。だからちょっと待って」
ミレナは早口でそう捲し立てて、プルプルと震えている。照れてるのは分かった。その顔が見たいのも事実だ……だけど、腕が使えないので俺はミレナが落ち着くのを黙って見ているしかない。
だって……しょうがないんだ。片手はステラで使っているし、もう片方もクロエに使っており、そっちは反対側なのでそもそも意味がない。手を放す意味、離した後のデメリットを考えるとね……出来ないよ。
――十分後。
落ち着いたミレナは俺のステラを支えている腕に抱きつき、絡めて、より密着してきた。ミレナご自慢の二つのあれに腕が挟まれている。落ち着いたと言っても顔自体はだらけていて、体重を俺に預けて体勢を崩すと余計にだらけてしまった。
本人に言ったら赤面しそうだが……今は止めておこう。ステラたちと同じ様に幸せそうだし。
「ユートくぅん、ユートくぅん」
「はいはいどうしました?」
「えへへ~」
……と、さっきからこの様にまるでステラみたいにミレナは甘え始めた。俺の名前を呼んでは表情を蕩けさせる……その繰り返しだ。
しばらくはこのままだろうし……さて、もう一人にもお話をするのかな?
「それで……クロエ、起きてるんだろう?」
「……」
さっきからね、こっちへの視線を隠しもしないのにさ、それで寝てると誤魔化せているんだろうか。髪を優しく梳くと……気持ち良さそうに目を閉じている。梳き終わった後に目が開きそうになっているのがその証拠だ。
「……私も、好きですか?」
「あぁ好きだよ。手放したくない。ずっと一緒にいて欲しい。子供みたいな本心だ」
ようやく観念したのか、目を開けて問いかけてくるクロエに即答で返してやった。一気に目を開けたクロエはその後、優しい笑みに変わり、さっきまで頭を撫でていた俺の手を恋人つなぎで絡めて掴んだ。
「私もずっと一緒にいたいです……この手は離さないでいてくれますか?」
少し強く握って返事の代わりにする。……口頭でもちゃんと言ったけどね。クロエは満足そうにして、ミレナみたいに寄りかかってきた。
さて……あとはステラか。まぁ話すとしても起きてからだし、どれくらいで目覚めるかな……。一先ずステラが目覚める前に部屋の外にいるリアナと話でもしようか。話し相手いないし。
「……私、結構気配を隠すの自信があったんですよ?」
「う~ん、それくらいならステラたちにはすぐに見つかるよ。俺よりも甘いし。それに俺だって気配を消すことは得意だし、なら見つけるのも普通にできるよ? ステラたちには劣るけど」
渋々とリアナは部屋の中に入ってきた。何とも不服そうだ。ちなみにミレナとクロエは甘え続けており、ステラは寝ている。皆、自由に行動しているようでなによりだ。
「何時からいたの?」
「ミレナさんが珍しく甘えているなぁ、というところからです」
「さっき来たばかりなのね」
「……本当に珍しいですね。そんなに周りの目を気にしないなんて」
「だよな。ちなみにこの時のミレナはステラみたいだからある意味、一番可愛いぞ」
丁度の位置にあったミレナの額にキスするとん~~っと目を瞑って頬ずりしてきた。ステラもこういうことをよくするので可愛く思える。
それといつの間にかステラを支えてる手がステラと指を絡め合っていた。……今日は良く絡めてくるね。そんなに一緒にいたいのかな? ……一緒にいたいからしてるんだけどね。
「なんか用事とかある?」
「いえ、特にないですよ。ただ、ユートさんが皆さんの機嫌をどうやって直すのか、見てみたかったですね。……二人は終わっていましたから」
「言葉と行動で示してるだけだって。……それに結構恥ずかしいんだぞ」
「私は中々無いので皆さんが羨ましいのもあるんです。私にもしてもらえるのかな、って……」
今の俺はこの三人で手一杯なので、流石にそれ以上には目を向ける余裕はあまりない。自分からやって来てもらうか、こうして話しかける機会がない限りは。
それからニ十分ほど経って元に戻ったミレナとクロエはリアナと少し話した後は俺の肩を枕にして眠るという器用な事をし始めた。相変わらず俺は座っているので眠りにくいと思うんだが……でもやっぱり、眠かったのねミレナも。
さらに二人が寝始めてから五分くらい経った頃にステラの目が覚めた。半分閉じた目で辺りを見渡すと、次に俺の方へ視点を移す。
「お兄ちゃん、ぉはよぉ~」
「おはよう。まだ寝てても良いんだぞ?」
「ううん。この後、お兄ちゃんに一人ずつ一緒に寝てもらうからぁ……その時にぃ」
どうやら俺はこの後の予定も決まっているらしい。確実に俺に拒否権はないのだろう。既に決まっているように言っていた口調にそれが表れている。
「……それでお兄ちゃん」
「ん? どうした?」
「今回みたいに一人で行動するのは止めて? ……残される私たちは本当に悲しいんだから」
くるりと向きを変えたステラは辛そうな顔でそう言ってくる。そう言えば……あの時も一人で行くのを止めてきたなぁ。結局一人で行って、三日くらい寝て、最終的には婚約者になったけど。
ステラは辛そうに、悲しそうに表情を崩し、目尻には涙まで溜まっていた。
その涙を指で拭うと少しだけ悲痛そうな表情は消えてくれた。それから俺はしっかりステラと目を合わせる。
「確約……は出来ないけど、約束はするよ。……それにこれからは誰かが一人はいるんだろう?」
「うん……うん……そう、だね」
「これはミレナやクロエにも言った事なんだけど……俺はずっと皆と一緒にいたい。だけど、それなら甘える訳にはいかないんだ。せめて隣に立ちたい。全員、俺の嫁なんだぞ、って堂々と言えるようにな。それに誰かを守るにはそれだけの力がいる……これは俺が一番よく知ってる事だしな」
「お兄ちゃん……?」
「俺はステラと、ミレナと、クロエと死ぬまでずっとに一緒にいたい……だから、心配するな、とは言わないけど信じて欲しい」
「うん。信じる」
「俺はステラが大好きだよ」
「――っ!?」
ステラは有無を言わさずに顔を近づけてくる。腰の辺りを支えるとすぐにキスしてきた。舌も入れてきて、甘えまくっている。
ステラの両手が俺の頭や首、背中を右往左往して、悩ましくうごめいている。ただし、それら一つ一つに愛情が籠っていて、気持ち悪い感覚はない。
そして、ステラのおねだりに応じること数分……。満足したらしいステラは胸元に抱きついてだらしがない笑みを浮かべ始めた。全体的に顔が赤く。
「……恥ずかしくないんですか?」
「いや、恥ずかしいよ。すごく恥ずかしい。穴があったら入りたい気分だ。だけど、皆が悲しむよりかは良いさ。これくらい……それでご満足いただけたのかな?」
「はい。いつか私も……と思えました。とはいえ、胸の中は少し苦しいですが」
「まぁ……頑張って?」
「他人事ですね」
「あはは…………」
最後は笑って誤魔化した。誤魔化せていないけど。ちなみにステラが抱きついてきたのは羞恥が六割、嬉しさ四割だ。
リアナの姿を確認した時に身体中が真っ赤になったからなぁ……。




