八十話 ふふふ……。
黒兵の欠片を袋に入れて先を進む。この手の迷宮は全部そうらしいんだが、階を重ねるごとに広さが少しずつ小さくなっていく。
ということは階数が少ない程その広さは広大になっていくということ。ミレナと行った時のことを考えると十八程度じゃ、まだまだ広いだろう。あそこでも時間単位で掛かったし。ゆっくりだったけど……。
「どれくらいで見つけられるかね……」
そう独り言ちながら目先の二股の道を右に進む。地図を作ろうにも全く地理を知らない以上、最初は勘になる。外れたら外れたで違う道に行けばいいし。
そこから幾つかの分かれ道を通り、その結果は――行き止まり。まぁ、普通こんなものである。迷わずに行けるミレナたちはいつもながら凄いと思う。
その後も残りの道を探してみたんだが、見事に全滅。全て行き着く先は行き止まりだった。それで元の二股の所まで戻って来たわけだが……敵がいました。今度は二体一組。
片方は盾を装備しており、もう片方は二刀だ。配置が懐かしいものに思える。……まぁ、ミレナに瞬殺されたのと殆ど同じだし……俺は普通に脅威だけどね。
槍を構えながら馬鹿な事を考えてみる。それで何かが好転する訳じゃないが……良い感じに緊張せずに済むしな。
盾の方の黒兵はガシャンガシャン音を鳴らしながら距離を詰めて来て、二刀の方は壁を併走しながら斬りつけてきた。……身軽って言っても限度があると思うんだ。
俺は後方に下がりながらその剣を弾き、一撃入れる。二刀はひらりと避けて盾の後ろに隠れてしまった。連携はそこそこ良いらしい。
「まぁ……丁度いい。攻防の訓練が同時にできる」
俺は捻りを加えた鋭い突きを盾にぶつける。反動で盾が外れたところに刃を入れ込んでみた……が、駄目だった。二刀からそれを受け流される。
今度は受け流された勢いに乗せて振り下ろす。しかし、体勢を整えた盾持ちから受け止められて、逆に体勢を崩された。
攻守が変わって二刀が俺の懐まで迫り、剣を突き立ててくる。俺は光の壁を作ってそれを受け止め、体勢を直す。
これはあいつ等が強いのか、俺が弱いのか……後者だな。まだまだ攻撃が遅いし、軽い。ステラのに比べるとまだまだ軽い。比べる相手が違うって? まぁ、隣に立とうと思ったらねぇ……まだまだ。
防御だけ出来ても意味が無いんだよなぁ……それすらもまだ中途半端だけども。言ってて悲しくなってきた。
次は氷の礫――『氷翔』を複数生み出してそれぞれ二体に投擲。その対処の途中に俺は二刀に迫り、片手を切り落として、大きく袈裟切りに。盾には少し圧縮した空気の球を足元で爆発させ、大きく体勢が崩れたところで胴体を真っ二つにした。
「……やっぱり練度は低いよな」
二体の黒兵を脇に退けたところで二体は壁と地面に吸い込まれていき、残ったのは欠片が二つ。それを袋に入れて俺も端に座って少し休憩っと。
……光の壁も氷翔も圧縮空気の球もまだまだ甘い。判断がってのもそうだけど、展開速度はクロエやミレナなんて更に早いし、もっといい結果を出せていた。
比べたところで月とすっぽんなのは変わらないけど……良い例があるだけまだマシか。少なくとも目指す道が見えているんだからな。
……本当、まだまだだよ俺は。
戦闘の反省を終えたらまだ行ってない二股の左を進む。……まぁ、こっちが正しいなんて保証はないんだけどな。そもそも俺が最初にいた所にも前と後ろにあったし。
――…………一時間。おそらくそれくらい経っただろうか。この迷宮って陽の光が入ってくるわけじゃないから時間間隔が分からないんだよね。
まぁ、問題はそこじゃなくて――目の前にあるんだけどさ。
俺の目の前には大きめの広間がある。よく中ボスとかがいそうな感じの。で、その広間にはニ十体近い数の魔物がいる訳で……彼らの目は全て俺に注がれている。
ちゃんと隠蔽してたんだよ? だけどね、なんかバレてるみたい。流石にこの数は~と思うんだけど、今の俺には丁度いいし……槍を構えて一呼吸。
まずは魔物たちの中心らしき場所に『暴風』を展開。暴れ狂う風で魔物たちは散らされ、俺の近くまでやって来たゴブリンとスケルトンを叩き切る。そして俺は近くの魔物に向かって特攻する。
風が収まったことで魔物たちは即座に二体、もしくは三体の集まりとなる。……人型ってさ、面倒なんだよね。他の魔物よりも頭が回るから動物とか虫系の魔物よりも厄介さは一段上なんだ。強さは個体差があるけど……。
あと謎なんだけど、迷宮の魔物って種族関係ないみたい。だって、今相手にしてる三体の魔物だってゴブリンに二体にコボルドって……種族が違うんだ。それでも連携は普通に良い。
余計な考えは一先ず隅に退けよう。考えたところで分かる訳ないし。
それぞれに止めを刺し、次のグループに向かう。今ので二つ目のグループだけどまだ数はある。具体的には二体のグループと三体のグループが三つずつ。
まぁ、一グループじゃなくて複数のグループになっているけど。相手取っても最低四体だ。
「ま、何とかなるかな」
溜息を吐いて目の前の状況を整理する。どうやら(俺も魔物も)加勢は来ない気配なので一人でするしかない。一体たりともこの広場から離れる気がないからね。あの魔物たち。
俺は大きく二つに分かれているグループの中で少ない方に向かう。二体が二つと、三体が一つだ。合計七体だが。
ちなみにもう片方は見ているだけだ。なぜ襲ってこないのか、不思議でならない。
敵は黒兵一、スケルトン三、ゴブリン二、フロッグマン一。……やっぱりまずはフロッグマンだな。気持ち悪い。
見た目がカエルを無理やり擬人化させた感じでそこから駄目なのに、身体の筋肉はムキムキだ。軽くホラーである。またちょっと表面がテカっているので女性陣は拒絶一択だろう。男でも嫌だ。
触りたくもないので風の槍を鋭くして心臓の頭の部分に複数発射。風穴を空けたフロッグマンはその場に倒れた。
連携しながら連続する攻撃を躱しながらスケルトン、黒兵、ゴブリンの順番で残りも倒した。…………無駄に連携が良いよね。どうしてか俺は気になるよ。
「はぁ、はぁ……。疲れたぁ~」
それから最後のグループもなんとか倒して、現在は広場の隅で横になっている。八体の方も無駄に連携が良かったから一対多という状況の訓練は出来たけど、その分疲労が半端ないよ……。
しかも恒常の試練って一桁の層だと転移陣ないし、結構進まないと何階層かに一つしか無いんだよね。……中々に面白い状況である。
………………あとどれくらい掛かるかな? 早く終わらせないと大変なことにしかならないから……それでもやる意味は十二分にあるけども。
休憩もとったし、そろそろ次に進もうかな。
装備の確認をして、自分の体調も問題ないことを確認すると、軽く埃を払って広場に来た道とは反対側の道を進む。さぁて、この先はどうなってるかな?
――……。
――…………。
――………………。
――……………………。
一時間。一時間経った。十八階層、結構早く移動したのに戦闘も含めて全体的に四時間くらい掛かった。広かった。ちなみに一階層になると全域を調べようと思ったらこの数倍は時間がかかるそうだ。
しかもあくまで俺の主観でしかないので実際どれくらい経っているか分からない。既に夕方だったらどうしよう……間違いなくステラたちの機嫌は最底辺だろう。
「……それでも見つからなかったらどうしようかと思った……」
俺の目の前にあるのは下の階層へと続く階段。十八階層の八割くらいは調べたと思うので、多分この階層には転移陣はない。よって次の階層にあることを祈るのみだ。
無ければ次の二十階層だが……そうなると俺も覚悟せねばなるまい。彼女たちのご機嫌取りというこれ以上の試練を。
「お願いだからあってくれよ……」
そう願いながら階段を降りる。――降りたとしてもまた探さないといけないのでちょっと面倒くさいが。
まぁ、降りたと言っても特に景観に変わりはないので一層をクリアしたという達成感はそんなにない。達成感一割、ステラたちの不安四割、この先の不安五割、と言ったところか。
既に一層クリアしているので自分を鍛えるという目標自体は達成している。あとは如何に早く戻れるか、それだけだ。
まぁ、多分、それが……一番長いんだろうが。
襲って来た魔物は魔法を使って、死体を隅に退け、欠片を袋に入れる。……残念だが、これ以上を経験するとほぼ瞬殺できてしまう。今までのはあくまで訓練だからな。いや、実力はここら辺だけどさ。
如何すればいいか、身体が勝手に動いてくれるのだ。ある意味楽なものである。……それよりも陣はどこだぁ~。
結論。この層にも無かった。十九階層ではね、走って調べたんだよ。相当疲れたけどね。合計で三時間くらい掛かったけど殆ど埋めれたし……その結果、無かったのだ。無かったのだ!
あぁ……これは確実に時間切れだ。帰ったらステラたちの機嫌が目に浮かぶよ……。
もう諦めた俺は現在二十階層手前の階段の前で少し長めの休憩を取っている。ちなみに何を諦めたか、それはね……次の層がボスそうなんだ。
ボスのいるそうって低いそうだと、層自体が一つの部屋になってるから探索の必要がない。それに確実に転移陣があるからこれ以上、急ぐ必要は無いんだよね。
だから諦めたってのは、転移陣を探すこと。もう探す必要ないからね。
ステータスを見てみると多少上がっていた。消費した魔力も七割方回復してる。これならボス相手にも大丈夫だろう。集中力もこれで最後だと思えば乗り越えられる。
「これで最後……実際には最後じゃないけどなぁ。取り敢えず恒常の試練は一区切りできるし、頑張ろう。……この先も、終わった後も」
意を決して階段を降りる。いつもと違うのは階段の先に扉があること。道を塞ぐくらいに大きいんだが装飾とか、なんか……ボス、という感じではない。
いや、そんな扉があったら全力で避けるけども。そんなのに今の俺が勝てる訳ないじゃん。ステラたちの一人すらいないのに。いくら頑張ってるって言ってもまだまだ弱いしな。
扉を開ける――いや、開けるというほど力を入れてない、というか自動的に開いている。
俺が開いた扉を進んで部屋の中に入ると先にいたのは――――大盾と大剣を持った巨躯の黒兵だった。とても見覚えのある二体である。




