七十四話 なんか違う意味で大変だったんだけど……
今回は少し少ないです。
目が覚めて辺りを見渡してみるとミレナが自分の身体を俺に押し付けた状態で眠っていた。それ以外では人影は見えない。
だが……身動きが取れん。この子、しっかり俺の身体を押さえてやがる。寝てるはずなのに何という力……。うちの子たちって、器用なことをよくするよね。ステラ然り、クロエ然り。
頭を軽く揺するとミレナの目がゆっくりと開いた。寝ぼけているようで、辺りを見ながらキョロキョロしている。
「おはよう、ミレナ。いい加減、離れてくれないかな?」
「……あ~ユートくんだぁ。ぎゅ~~~~~っ!」
若干、寝起きのステラに近い状態のミレナは俺を確認してすぐに抱きついてきて、キスされた。昨日散々されたのに飽きる様子は皆無だ。俺の言葉は聞こえていないらしい。
……く、苦しくなってきたから離れなさい。ほら、早く。
視線でそう訴えるとむすっとしながらもミレナは離れてくれた。頭を撫でると即座にでれっと表情を崩して幸せそうだ。
…………どうやら、昨夜の言葉は予想以上に効果があったらしい。今さらに少しの後悔がある。出来ればいつものミレナに戻って欲しい。
そこで大きな音を立ててドアが開く。部屋に入って来たのはステラとクロエと、リアナ。リアナは数日ぶりだな。本当に待っていたとは思わなかったよ。
ステラは俺の所までやって来るとミレナを退けた。それで俺の上に座るとぴとっとくっ付いた。えっと……どうしたの?
「どうした?」
「……髪を梳いて」
ステラが言うので言う通りに梳いてあげる。ステラは目を閉じて身を任せている。……何だろうこの感じ。いつもと違うよ?
クロエも俺に抱きついてきているし。いや、積極的なのは良いんだけどさ、数日前と全然違うよね?
「ユートさん。少し相談が……」
「この空気で自分の事を通すか。それで……これは? ステラとクロエがいつもと違うんだけど」
騒がしく来るのではなく、静かに甘えてくるステラと、積極的に甘えてくるクロエの事情をリアナに聞く。本人はこんな雰囲気でも自分を通す強者だけど。まぁ、当然無視するよ。後で聞けばいいし。
「単純にユートさんに甘えたいんですよ。なんでももっと好きになった、とか。ほら、私は答えましたよ。それで私の相談――」
「なるほど。ありがとう」
「……ユートさんって、私に意地悪じゃありませんか?」
不服そうなリアナなんだが……すまん。今はこの三人をどうにかする方が優先なんだ。話なら後で聞くから。そう伝えると渋々ながら頷いた。そして、少し離れたところで待機する。
髪を梳き終わるとステラはぐっと顔を近づけてきた。ようやく目が覚めたミレナは頭に? を浮かべている。それでも俺の傍を離れないが。
「お兄ちゃん、大好き」
「……俺も好きだよ」
「――――えへへ~」
表情を崩したステラはいつものような感じで抱きついてきた。クロエが服を引っ張ってきて、何かを訴える様に見つめてくる。反対側からはミレナがクロエと全く同じ行動をしている。いつの間にかステラも同じ行動を―――って待て待て。一人ずつにしなさい。俺は逃げないから。
落ち着かせようとしても落ち着く気配がない。ちょっと面倒になってきたので三人一緒に抱きしめるとようやく落ち着いた。
そして、最終的にミレナとクロエは手を握って近づき、ステラは俺の膝の上でだら~んとすることで落ち着いた。
「……相談ってなに?」
「いえ、相談と言ってもデートをしませんか? というお誘いです。三人を見てると羨ましいのです」
お願いです、とキラキラした目で言われる。ん~…………まぁ、前に似たようなことしてるし、別に構わないんだけど……一応、君たちはどう思う?
「お兄ちゃんに任せる!」
「私もです」
「いいんじゃない? ちゃんと待ってたみたいだし」
三人とも概ね賛成のようだ。若干、俺を握る力が強くなったり、体重をさらに預けたりしてるけど。多少の嫉妬はあるらしい。
二人に一度手を放してもらって、頭を撫でると表情が少し崩れて体重を預けてきた。……流石に三人分となると少しキツい……
「……良いよ。日時は明日にしてもらうけど」
「それは構いませんが……どうして、三人に伺いを?」
「いや、ほら、俺は別に良かったけどステラたちは納得してなくて機嫌を悪くしたら後が大変じゃないか。そういうのを前もって潰しておこうと思って」
リアナは納得したという感じで安心したように息を吐いた。どうやら緊張してたらしい……そんな要素、どこにもないけどね。
むしろ、今の場面なら俺が罵倒される場面だと思う。失礼だと。ステラたちにも、リアナにも。
リアナは落ち着くと「失礼しました」と言って部屋を後にした。リアナが部屋を出ると三人がこっちを見る。…………お好きにどうぞ。
「ユートくん、私たちの考えてること分かるの?」
「そんな……甘えていい? って目で訴えてきてるし……分かるよ。何年もの付き合いだし。ミレナはまだ足りないのかな? って思うけど」
「うん。足りない。ずっとユートくんとイチャイチャしていたい。……だめ?」
「……お好きにどうぞ」
倒れようと思ったら――倒された。ベットに横になると、三人が覗き込んでいて笑みを浮かべている。……あのね、好きにしていいとは言ったけど限度があると思うんだ。そんな満面の笑みを向けられても今の状況を考えると……正直、怖いんだよ。
ねぇ、ちょっと話聞いてる? 皆さん。
「だって……ねぇ。ユートくんってばあんなこと言ってくれるんだもん」
「元気を下さいますし」
「いぃぃぃぃぃっつも我が儘を聞いてくれるし」
「「「もっと好きになったんだよ?」」」
答えてない答えてない。俺の質問に答えてないよね。単に自分の意見を言っただけだよね? あぁ、くそ。逃げる道がどこにもない。そもそも腕を取られている状態で逃げられる訳がないんだけどもさ。
それと妙にシンクロしないでくれる? 君たち、こんな絶妙な合いの手とか練習すらしてないよね? ぶっつけ本番でできるのかなんか怖いんだけど……。
あ、そう言えばクロエと出掛けた時にアクセサリーを買ったんだった。渡す時間と機会がなくて忘れてたけど。
それをステラとミレナに渡すと二人とも嬉々として受け取り、早速付けて俺に見せてくる。クロエも青の耳飾りを付けていたので褒めると嬉しそうに抱きついてきた。
よし、これで今回は大丈夫かな。……回を重ねるごとに凌げるかどうか心配になってきてるけど……。
「ユートくん。襲っていい?」
「ダメ。…………………………………………………………今はな」
「お兄ちゃん!? いいの!? 襲っても?」
「だから、ダメだって言ってるだろ!」
若干興奮気味のステラにダメだと告げると残念そうにしょぼんとする。そのステラを近くまで引き寄せて、頬にキスをする。
取り敢えずこれで我慢な、と意志を伝える。するとステラはキラキラと目を見開いて唇を合わせてくる。むちゅ~~~~~~~~~~っと言えるような奴を。
ステラのその行為によって三人の話し合いが始まったり、リアナが適宜にご飯を持ってきたりと、俺はベットから殆ど動くことがなかった。……マジな方で。
三人が話し合いをしている中でリアナが話しかけてきて、明日の予定はどうするかとか、ステラたちの身につけているアクセサリーが羨ましいとか、話し合いが終わるまでちょっと相談し合った。彼女の精神は鋼鉄か何かで出来てると思うんだ。
……それによって三人の機嫌が少し悪くなったんだが――――予想通り、大変だったよ。機嫌を直すことが。




