七十一話 ……いろいろ受け入れちゃったし
百二十七階層とかとんでも記録をミレナが叩き出してしまったので、ボスを倒して休憩したら戻ってきた。ステラたちと宿に戻ってこれからについて話しておかないと絶対面倒事になる。欠片の換金も明日にしよう。
俺とミレナが恒常の試練から出てくるとステラが凄い勢いで突っ込んできたので避けてそれから――なんて話もあったりしたが、長くなりそうだったのでここは割愛。
なんとかステラの機嫌を直して、宿に戻った。場所は俺の部屋である。ベットに俺を含めて四人、椅子にリアナが座る。……なんというか力関係がはっきりしてるな。
「さて……さっきも言ったけど、俺とミレナが行った時は百二十七層と歴代記録をあっさり抜いてしまった。面倒事に絡まれるのは嫌なので明日からは迷宮に行くときは多くて二人という事にしようと思う。ステラたちは一人でも良いと思うけど」
俺の近くの誰かさんが不満そうな顔を隠しもしないが仕方ないだろう。厄介事に巻き込まれる気配しかしないんだから。
それとリュートさんとかが行っても普通にクリアしてくると思う。まぁ、あの人ならもっと中心の方の迷宮に行ってるだろうけど。
「それは、いいのですが……ステラさんが機嫌悪そうですよ……?」
「ああ、うん。分かってる」
リアナが指摘した通り、ステラのご機嫌は現在斜めである。迷宮から出た時にあんな速さで突進されたら誰だって避けると思う。当たったら一発K.O.間違いなしだ。そうなってもステラは落ち込むだけだろうし……まぁ、どちらにせよステラがあの行動をとった時点で俺の未来はそんなに変わらなかった。ただそれだけの事だ。
ステラは俺の膝の上に乗っかって俺を見上げてきてるんだが、頬を膨らませて如何にも「ご機嫌斜めです!」と言いたげだ。傍から見れば単に可愛いだけなのだが。
俺はさっきから抱きしめてあげているのだけど、機嫌が直る気配もなく、ぴったりとくっ付いていながらも不満そうにする、という器用なことをしている。
ちなみにミレナとクロエも構ってもらえてないせいか、少し機嫌が悪い。まぁ、クロエは当然かもしれない。ずっと我慢してるし。ミレナは……まだいけるでしょ。ついさっきまで二人っきりだったんだから。
「ステラさん? どうやった機嫌を直してくれますか?」
「…………今日、ずっとこのままだったら直す」
「今日ずっと?」
「そう。今日は私を見て、私だけを見てくれたら明日からは直す」
ミレナとクロエを見ると仕方なさそうに首を振りながらも了承を頂いた。リアナは最初から好きにどうぞ、という体勢だ。
了承の合図として頭を撫でるとさっきまでの不機嫌顔はどこに行ったのか、笑顔いっぱいで甘えてきた。
今は昼時だし、今日は……まだ長いなぁ。悪いけど、三人とも自分たちの部屋に戻ってもらってもいいかな? この子、ちょっと視線をそっちに動かそうとしただけでむすっとするんだ。
「分かった。でも、私やクロエちゃんにもお願いね? リアナさんは交渉、ということで」
「ですね。そうさせて貰います。そういう事なので、どうぞごゆっくり」
三人が部屋を出ていくとようやくむすっとした顔を戻してくれた。意外と強情だよね、ステラって。
「……昔みたいにお兄ちゃんとの二人きりの生活に戻りたいよ」
「そんな昔じゃないけどな。まぁ、結果的に一時的にでもそうできたんだからいいだろう?」
寂しそうにぽつりとつぶやいた言葉に返すとステラは、ちょっとバツが悪そうな表情を浮かべる。
「私の我が儘だって分かってるの。皆に迷惑かけてるって。でも、やっぱり……」
まぁ、まだ存分に我が儘言っても構わないけどな。その対処をする覚悟込みで婚約してるんだから。ステラはちょっと我が儘なくらいがステラらしいし。程度は考えて欲しいけど。
落ち込んでいるステラに安心させるように抱きしめるとすぐに表情がだらけて、甘え始めた。そっちの方が見てて安心するよ。
「何なら今回みたいな二人っきりの日的な日を作ろうか。定期的、な? 勿論、ミレナやクロエもだぞ」
「うん! お兄ちゃん大好き!」
「俺もだよ」
「えへへ。ん~~~」
「……はいはい」
ステラにキスをすると幸せそうに顔を蕩けさせる。感情の起伏は激しいけど……そんなステラもステラだしな。今さら直してもらう必要もないしな。クロエの初々しさや、ミレナのヤンさんと同じである。
その日は思いっきりステラを甘やかした。一日の最後になるとかなりとろっとろっになっていて、違う意味で大変だったよ。
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翌日。目を覚ますと俺の上にミレナがいて、ステラの反対側にはクロエがいた。両方とも眠っている。ステラは全く目覚める様子がない。俺の傍でひっついたままだ。
取り敢えずミレナでも起こそうかと軽く頭を叩いてみる。「んにゃ?」と可愛らしい声を上げて、半眼のまま右、左、そして前を向いて俺を確認すると急速に顔を赤くしてしまった。ミレナの照れ顔いただきました、っと。
「おはようミレナ」
「……おはよう、ユートくん」
「照れてるミレナが一番可愛い」
「ほへっ!?」
そう言うともっと顔を真っ赤にして顔を隠す。白銀の髪のお陰で隠したとしても真っ赤なのは丸分かりだ。それを指摘すると反対側を向こうとするが、俺が手で押さえると一切の抵抗をせずに諦めた。
寝起きのミレナってすごい素直だから見るのも弄るのも楽しい。それに可愛いので出来れば毎回見たいものである。中々見させてくれないけどな。
今回は多分、夜遅くに忍び込んできたから起きる時間が遅れたんだと思う。ついでに俺も早く寝たので早く起きたというのも関連しそうだ。
うぅ~と唸りながら俺を睨みつけるミレナだが、単に可愛いだけである。頭を撫でるとこれこの通り。目を細めてうっとりしている。ついでに髪を梳くと気持ち良さそうだ。
され続けるとようやく目が覚めてきたらしい。首筋まで一気に真っ赤になった。
「ばかっ」
真っ赤な顔で言われても全く説得力がない。何度も言うようだが可愛いだけである。それに俺から離れようとしない辺り、されるのをせがんでいるようにも見える。
「改めておはよう。ユートくん」
「おはよう。それと今日だけど、そっちでなにかしたいことってある?」
「今日はクロエちゃんの相手をしてあげて。あれからずっと我慢してたんだから」
「あぁ、確かに。クロエにはもっと積極的になってもいいと思うんだけどなぁ。ミレナやステラまで行かなくてもいいけど」
「もうっ。ユートくんって、意外と意地悪よね。そこも好きなんだけど」
寝ているクロエを見ながら軽口を叩く。……にしても俺の欠点を好きと言えるのは正直照れる。他にも色々あるけどね。
まぁ、ある意味最大の欠点であろうミレナのヤンさんを受け入れてる辺り、俺も相当だな。
「ミレナって、ヤンデレの気質があるよな」
「言われてみれば確かに。高校の時なんてユートくんが他の女と話してるだけでも嫌だったし」
「監禁しようと思ったりは?」
「流石にそこまでは思わないけど、ユートくんは私のもの! っていう感覚はあったかな。ユートくんから離れる気も一切なかったし。……私って面倒くさいよね」
「その本人を傍に置いてる俺も大概だな。そこら辺はもう受け入れてるよ」
なんて会話をミレナとじゃれ合いながらステラとクロエが起きるまで続けるのだった。途中からはバカップルっぽい内容になってた気がするけど……。
ではステラとクロエ、どちらが先に起きたかというと……クロエだ。うちの妹、本当に良く眠る。眠り姫と言っても良いんじゃなかろうか。
まぁ、それは置いといて。起きてきたクロエに今日は一緒に過ごすことを話すと顔を赤くしてたたたっ、と自分たちの部屋に走り去っていった。……昨日から顔を赤くさせることが多いな。
クロエが走り去って数分後にやっとステラが起きた。甘えたのステラの寝ぐせを直して目覚めて貰う。何を思ったか知らないが俺を見て頬を染めながらチラチラと見てくる。
君、偶にあざとい行動をとるね。ミレナで慣れてるから効かないけどさ。
「あ、思い出した」
「何が?」
「昨日、ステラと話したんだけどさ、定期的に二人きりの日を作ろうってなって。ミレナはどう」
「賛成! なら昨日、今日とで、明日は私ね!?」
「おぉ……理解が早くて助かる」
ステラを見て思い出したことを言ったら速攻で食いついてきた。俺まだ、言ってる途中だったんだけど。
食いついたミレナはステラによくやったと言いながら頭をぐしゃぐしゃ撫でまわしていた。あぁ、せっかく整えたのに……。
そのお陰で崩れてしまい、再びステラの髪を整えることになった。本人は嬉しそうにしていたが。ついでにミレナのもさせられた。あなたのは起きた時に整えたでしょう。
「じゃあ、早速」
「そうだな。どうせ部屋にいるだろうし」
「クロエちゃんの面倒はお願いね? こっちはこっちでやっとくから」
ベットから起き上がって動きやすき服に着替える。……あの、お二人方。人の着替えを見るのは駄目だと思うのですよ。ちょっと、人の話聞いてる?
じぃ~~っと俺から目を逸らさない二人。ちなみに俺が二人の着替えを見てやろうか、なんて言うと是非! とか喜ばれて大変なことになるので絶対やらない。
着替え終えて部屋を出ようとすると今度は二人に引き止められ、順番にキスされた。キスを終えると手を振りながら、
「いってらっしゃい」
と言われた。気分は完全に新婚夫婦である。行くのは隣の部屋だし、会うのは違う女の子なんだけど。……現実だったら刺される案件だな。男性、女性問わずだ。
…………まぁ、うん。クロエを迎えに行こうか。詳細はその時に言えばいいし。




