六十九話 ……入れない
久しぶりに一人過ごす夜……という訳でもないが、それでも久しぶりな感じがする。常にステラたちと一緒にいるからだな。ずっと一緒にいるのも悪くはないんだが、こういう時間があるとすごく助かる。俺は中々そんな時間はなかったからなぁ。
勿論、隣部屋はステラたちなので若干騒がしいのだが、気にならないと言えばならない。静かな空間で一人……なんか落ち着く。
寝る時まで騒がしいからなのか、こう静かだと隣にステラたちがいると分かっていても、新鮮に感じるな。
ベットに倒れこんで仰向けになる。一人で暮らしていたあの頃が懐かしい。そう言えば夜中に一人で黄昏こともあったなぁ。……まぁ、若干ネガティブになるのは止めておいて。今はこの空間を楽しもう。どうせ、明日にはわちゃわちゃするのだから。
「……さて、久しぶりに見てみようか」
心の中でステータスと言ってみる。すると頭の中に文字が浮かび上がって来た。
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『ユート(四ヶ谷祐人) 男 十三歳 能力‐46
9 愚者
【体力】‐894/894
【力】‐482
【耐久】‐867(+30)
【敏捷】‐974
【魔力】‐2632
【精神】‐2810(+50)
【スキル】‐超精密操作、俯瞰全視、高速多考、超感覚、槍術、交渉、家事、自己回復、魔力掌握、魔力高速回復、隠蔽、影、流し、杖術、精神強化、誘惑耐性
【魔法】‐水属性、光属性、風魔法、氷属性』
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……………………ふむ。最後に見てから数か月という所だし、成長速度としてはまぁ分かる。大体こんな感じだろうって、予想も出来てたし。
だがなぁ……スキルの最後の二つがすごくこの数か月間を如実に表している。精神強化と誘惑耐性、どちらも心当たりが多すぎて何がきっかけで取得したのかが全く分からない。
俺はこれを見るたびに大体動揺してしまうのだが、見事今回も動揺させられた。ある意味、嫌な方向で。今までの雰囲気が一気に台無しになったよ。せっかくいい感じでしんみりしてたのに。
「ははっ。なんか色々台無しな気分だわ」
――まぁ、こんな日々もありだけど。
その言葉は呑み込んで、再びベットに横になる。さっきんまでの感傷は既になく、あるのはステラたち。精神的に追い詰められてた俺が今や婚約者持ち……その言葉がよぎっただけで笑えてきた。
十年弱で色々と変わりすぎだと思うが――なんかあってる、ような気がしなくもない。
自己の振り返りも出来たし、寝るとしよう。どうせ何か起きる明日を待って……おぉ、なんか詩人っぽい。吟遊詩人とかになるつもりは毛頭ないが。
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翌日。俺は自分の身体への衝撃で目が覚めた。なんだと思って目を開けて見ると目の前にはワインレッドの髪が。ベットの側には他に三人ほど立っていた。
「……朝から他人の部屋に何の用ですか?」
「おはようお兄ぃちゃんっ」
「はいおはよう」
笑顔で俺の質問を遮って来たステラの髪を撫でながら梳くと気持ち良さそうにして大人しくなった。それでその光景を見たミレナとリアナは柔らかく微笑んだ。
……いや、ほんと何しに来たのさ。挨拶ならどうせするんだし、他に目的があるだろう?
「ユートくんはどうしてるかなって」
「は?」
「昨日、ユートくん一人で感傷的になってたから大丈夫かなって、様子を見に来たの」
ほう、壁越しでもあなたのエスパーは機能すると。なんともとんでもない能力だこと。これからはそれも含めた上で考えないとな。よし、新しい情報が手に入った。まぁ晒しても安全な情報なんだろうけど。ミレナに限ってそんなへまする訳がないし。
「ふふっ。ありがと」
「はいはい。それで?」
「えへへ~」
珍しくそんな笑いをしたと思うと俺のところまでやって来て自分の頭を押し付けてくる。クロエも反対側に移動して同じように。リアナはそのままだ。
……あぁそう。俺の様子見すらも建前と。単にいちゃつきたいだけだ、と。
丁度ステラの髪を梳かし終えたので、それぞれの髪も梳いて整える。その間、三人は俺に引っ付いたままで離れようとはしない。……ステラさん。あなたはもう終わったでしょう? 離れてなさい。
「やっ」
たった一言。一蹴された。昨日一緒に寝れなかったのが原因なのか、離れる気が全くない。そろそろ着替えたいんですがね?
「もう少しこのまま~」
「いいじゃない、ユートくん。それにこの展開も予想済みでしょ?」
「まぁ、そうだけどね……」
それを了承と取ったらしい、三人とも俺の腕を取ったり、抱きついてきたりしている。これ、ステラたちは良いんだろうけど、リアナは嫌なんじゃない? こう目の前でいちゃつかれると。
そこんところ、ミレナさん説明よろしく。
「昨日話してみたんだけど、覚悟自体はあるみたいだから……最初は耐えてもらおうと思って。自分の欲に」
「へぇ……自分の欲を制御できてないような人がそれを言うのか」
この人……前から自分の欲を抑えてるイメージが全然ないんだが。所構わず爆弾落としたりしてたし、何よりこの世界に来てから全然抑えられてない気しかしない。ステラは小さい頃からずっと甘えて来てるし……クロエくらいじゃない? ある程度は自分を抑えているのって。
「あら、ユートくん、私やステラちゃんだって十分抑えてるよ? じゃなかったら今頃襲ってるに決まってるじゃない♪」
「…………確かに」
確かにこの人……最後の最後で我を通してきたわ。結果的に圧されてしまったわけだが。あの時は気迫に負けたわけだし、今は物理的なものでも勝てない……襲われるというのは間違いじゃないな。
かと言って、それとこれとは別だが。もっと分別を持って欲しい。
「いやよ。そんなことしてユートくんと離れ離れになったら後悔するもん」
「そうですか……」
二人の答えも同じようで、行動で示してきた。
事情は分かった。リアナがそれをやるって言うなら俺は止めない。リアナが決めたことに口出しする権利は俺にはないし。あってもしないけど。
「さて、大体の事は分かったから……取り敢えず部屋から出ていって。全員ね」
「い・や。ユートくんと一緒にいるってさっき言ったばかりだし」
「ほぅ……じゃあ、このまま一緒にいて俺は一切口きかないのと、着替えたあと存分に甘えてきてもいい……好きな方を選んでいいよ」
「むぅ。私たちを扱うのが上手くなったね」
「何年の付き合いだと思ってるんだ?」
ステラとは十年以上だし、クロエは短いながらもミレナのお陰でそれに近いくらい分かる。ミレナに至っては世界すら超えてきたじゃないか。
それに毎日、甘えて来られたら嫌でも対処法なんて分かって来るもんだよ。
「素直に喜んでいいのか……手強くなったと取るべきか……」
「いいからさっさと行きなさい」
三人ともまとめて抱きしめると身を任せて、離した後は素直に部屋の外に出ていった。途中、リアナが残ろうとしたが、俺とミレナで外に出した。……意外とこの人も狙ってるよな。ミレナとは違う視点で。
動きやすい服に着替えて部屋を出ると速攻でステラとミレナが腕を取った。いや、確かに存分にどうぞ、とは言ったけど随分がっつくね? 着替える前に抑えてるって言ってなかったっけ?
「ユートくんが許可してくれたのにそれを使わなくてどうするの?」
「……言い分は分かったから。ちゃんとクロエにも譲ってあげてよ」
「ローテを決めてるから大丈夫」
もう対処は決まってるのね。俺としてはもう何も言う事はない。言ってもどうせ聞かないだろうし。特に白銀の髪の子とかは。でしょ、ミレナ?
「もちろん。分かってるじゃない」
より密着してきたミレナは満足そうに表情を綻ばせている。隣にいるステラもミレナとそう大差ない。クロエは自分の番が来るのを待ってるし、リアナもリアナで隙を伺ってるようだ。
……さてさて、昨日の時間はどこに行ったのか。全く以って騒がしい。
朝食を食べた俺たちはその足で迷宮、恒常の試練に向かった。両隣にクロエとステラを侍らせ、その後ろにはミレナとリアナ。四人全員が美少女・美人というなんとも羨ましい状況に殺気を向けてくる人が一定数いた。大体は無関心だけど。それだけ迷宮攻略に忙しいのかな?
どう攻略するかを皆で話しながら進んでいく事しばらく。恒常の試練に着いた。
迷宮の入り口はリューアに比べると小さい。まぁそれでも通常の洞穴よりは大きいが。それとここから入っていく人はそんなに多くない。せいぜい二、三十人というところ。
その理由としてこの恒常の試練、入り口がヘルセテの色んなところにある。そのお陰で大量の人混みに巻き込まれる心配がないそうだ。
「……リューアのようにならなくて本当に良かったよ」
あの時はミレナの機嫌が悪くなって後が大変だった。俺としてはこれからもなるべく人が多い迷宮には立ち入りたくない。
それと特に門番的な人もいるわけでないのですぐに迷宮に入れる。……相当数ある入り口に門番とかをつけるのは面倒なんだろう。経済的にも、労働的な意味でも。
では、さっそく―――――
「…………あれ?」
迷宮内に入ったはずなのに、何故か入り口の前にいる。流石の事態にミレナもきょとんとしている。俺もそうだ。
もう一度、入ってみる。もう一度、もう一度、もう一度…………
「ミレナ、どう思う? この現象について」
「この迷宮はそれぞれの難易度に転移するのよね? だったら皆での総合力がこの迷宮のキャパを上回った?」
「やっぱりそう思う?」
俺としてもそれぞれの難易度があるんならこのパーティでの総合力がその限界よりも大きかった、という感じだ。資料にこんな現象はなかったので確証はないけど……一応確かめてみる?
ミレナに聞いてみるとミレナも頷いた。——そこで三人ほどの空気が変わる。具体的に言うと目がマジになった。未だ迷宮のボスにも会ってないのに……。
「勝った人がユートくんと二人きりになって迷宮の検証に行く権利があります。行きますよ……じゃーんけーん!」
ステラ、ミレナ、クロエの三人が互いに互いを牽制しながらじゃんけんをする。今回もリアナは待て、ということだろうか。大人しく待っている。
「……リアナはしなくていいの?」
「私はまだ踏ん切りがつかないので……それにしても砕けてますよ、口調?」
「あぁうん。面倒だしいいかなって。クロエの時もそうだったし」
「……そう言えばクロエさんは王女様でしたね。ミレナさんは貴族のご令嬢で、ステラさんも同じような立場。すごいですね?」
「俺も思った。本当、豪華な顔ぶれだよね」
リアナと話しながら待っているとじゃんけんで勝ったらしいミレナが意気揚々とやって来た。ステラとクロエは随分と残念そうだ。
「ユートくん行きましょ?」
「分かったから、その鋭い目つきは止めて」
そんな浮気を目撃した恋人みたいな視線を向けられても……まぁ、言い訳してもミレナは聞いてくれないので仕方ないのだが。
ステラとクロエも残念そうにしながらも俺に随分と厳しい目つきを向けて来られた。三人には後日、デートの約束を取り付けて機嫌を直してもらった。特にミレナはこの後のことで二人よりも早く直った。




