六十八話 この町でもあまり変わらない気がする……
途中からVSというよりも俺について話し合い始めた四人。俺についてああだこうだと言うならば、せめて本人がいないところでしてくれないか?
しかも馬車の中で終始、その調子だったので俺としては恥ずかしさの極みを体験してしまった。
その上、その俺を見て明らかに喜んでいる女性面々。ねぇ、一体何が面白いのさ? 野郎の赤面姿なんて誰得だっていうの。
「私たちが得してるよ?」
「……あぁ、そうね。ステラたちが得してるね」
得してるって言っても相当限定的だけどな! 五人以下とか切り捨ててもいいと思うよ。真面目にこの調子で迷宮国メルガスで第二の町、ヘルセテに着いた。……着いてしまった。
リアナがここに来る前に御者へ既に話を通してあったみたいでヘルセテはリューアから三日ほどの距離にある。
ちなみにメルガスの特色として、首都に近づく程迷宮の難易度も上がるそうだ。ステラたちにとって丁度いい場所が見つかるといいが……その時には、俺は必要ないけどな。パーティメンバーとして。
まぁ、断固として外してもらえない気がする。ステラたちに丁度いいとなると、俺にとってはかなりハードなんだよね。
ヘルセテに来るまでにいくつか町を経由しながら来たのでリューアに比べるとまぁまぁ上がってるんじゃなかろうか。果たしてステラたちにとってどれくらいの難易度なのか……俺としては早く馬車を降りたい気分だけどね。
ヘルセテまで三日掛かった。だったら、どこか町か村にでも泊まるだろう? メルガスは迷宮の数が尋常じゃないので、村一つに迷宮があるときもある。なのでリベルターレ以上に村が無数にあるんだ。必然泊まることになる。
実際は、町を二つほど跨いできたわけだけど……町って、人が多いじゃない? それでこの馬車って貸し切りじゃないから他の人も乗ってくるわけよ。ヘルセテまでのね。
客として考えたらよりわかると思う。入った馬車の中で複数の美少女を侍らせてる野郎を見たら……取り敢えず捻り潰したくなるよね?
以上、俺が馬車から早く降りたい理由だ。ステラたちからは恥ずかしさを食らい、残りの乗客者(それも屈強そうな男)からの貫くような視線と殺気、俺はね今すぐにでも出たいんだ。
…………残念ながら検問の順番待ちなので、もうしばらくはこの地獄が続く。
「……もういい、寝よう」
「ユートくん?」
と言っても本当に寝るわけじゃない。目を瞑って意識をぼんやりさせのだ。そうすればステラたちからの話を気にしなくて済むし、殺気なんかも気にならない。
―――――――あの、ミレナさん。それとステラも。人の頬を摘まむのは止めてくれません? 君たちのは普通に痛いからね?
「……で、なによ?」
「いきなり目を瞑ったからどうしたのかなって、思って」
「この空気に耐えきれなそうだから少し目を閉じて休もうと思ったんだけど」
そう答えると俺の視界がブレた。次の瞬間には、俺の頭部はミレナの肩の上に乗っかっていた。
……これで休め、ということらしい。あまり長いと首が痛くなるんだけど。それにそうしなくても俺は大して―――やっぱりピクリとも動かねぇ。
「休むならこの状態で、ね?」
「はぁ……そうさせてもらうよ」
俺の頭を優しく撫でているように見えるミレナの手はその実、相当な力で抑えつけているようなもので、多少に力を入れても俺なんかじゃビクともしない。まぁ、撫でてはいるんだけどね。抑えつけてる方が割合大きいだけで。
それを続けられると休めないのでミレナの手を軽く叩いて合図をする。ミレナはすぐに力を抜いて普通に頭を撫でるになった。……そこは変わらないのね。
改めて目を閉じて意識をぼんやりとさせていく。感じるのは両隣のクロエとミレナの感覚と膝の上に座るステラの感触。あとは肌を撫でていく空気。
……状況は違うけど、学校の昼休みに屋上で軽く昼寝をした時となんか似てるなぁ。そう言えばあの時から結局今のようになったんだっけ。あの時はまさかこんな事になるなんて思いもしないよな。
―――……
―――…………
―――………………
…………頭を揺さぶられた事で意識が段々とはっきりしてきた。そうそう、今は馬車の中だった。そこで軽く休んでたんだ。いい感じの微睡だったからちょっと忘れてたよ。
「おはよう」
「おはよう、ミレナ」
目を開けると俺の視界は上に向いていて、横からミレナが俺をのぞき込んでいる。白銀の髪が陽に当たって少し眩しい。
少し辺りを巡らすとあの屈強な男たちがいない。いるのはステラたちを除いて、数人の女性だけだ。
上を見るとワインレッドの髪が見えた。どうやらステラから膝枕をされてたらしい。膝枕してる本人が少しうとうとしてるのがちょっと台無しだが。
「そろそろ私たちの番だよ」
馬車の進み具合を聞こうとしたら先回りして答えられた。
起き上がるとステラが身体を預けてきて、すぅすぅと寝ている。ミレナ曰く、俺を膝枕してから少ししたらこんな感じだったという。
そのミレナはステラを挟んだところに座って外を眺めている。反対側では、クロエもうとうとしており、リアナがその面倒を見ているようだ。
「……じゃあ、他に乗ってた人たちは?」
「ユートくんが休んじゃったあと、きょうせ――苦い顔をしながら外に出ていったよ。ここまで来たら歩いたほうが早いからね」
今、強制——―なんと言いかけた? 深追いする気はないけどあまり無茶なことはしないでくれよ。いろんな意味でな。
微笑ましい視線が外野から来てるのがわかるが、今は無視だ。殺気や貫くような視線を比べたら全然マシだ。最早慣れっこである。
どれくらいか、と詳細な時間を聞くと十分から十五分程度だそうだ。寄り合い所までの時間も考えると三十分近くはこのままらしい。
「リアナさん、クロエも私が面倒を見ますよ」
「……お願いします」
「おーい。クロエー」
リアナに身体を預けていたクロエは俺の呼びかけに反応して横になった。俺の膝の上でポジションを見つけたら少し丸くなった。
少し微睡んだことで大分疲れが取れたのか、身体が少し軽い。……なんというか、おじいさんみたいな感想だな。この世界じゃ、まだ十三歳なのに。肉体的なものは、だけど。
「ユートくんはこういう視線は大丈夫なの?」
「……まぁ、もう受け続けてきたから慣れたかな。十年以上も同じようなことを経験したら……ね」
そう聞きながらもミレナはすりすりと寄ってくる。二つの瞳がなにかをご所望なので、頭を撫でてやると満足そうに目を細めた。外野からはもう一人——―リアナの方に視線が向く。珍しくミレナも頷いていた。
…………まぁ、クロエの面倒を見てくれてたし、お礼くらいはした方がいいのかな……?
クロエが知ってか知らずか、もぞもぞと動いてより丸くなる。それによってリアナが近づいてくれれば触れるくらいは出来そうだ。
リアナに手招きをすると自分に指を向けて「私?」と首を傾げたあと、少し遠慮気味に近づいてきた。
「……これがお礼になるかわかりませんが」
「――あっ……」
ミレナと同じ様にリアナも撫でると一瞬驚いたように目を見開いた後、味わうように目を閉じていった。その後少し目元が緩んだので、お気に召したらしい。
外野の女性陣はうんうんと満足そうに頷いている。……ほんと、なんだろう、この人たち。なんか違う意味で居心地が悪い。
検問を抜け、町の中を通り過ぎ、ようやく寄り合い所に着いた。この間、外野の女性陣からは満足そうやら、微笑ましそうやらの視線が常で、偶に小声でなんか聞こえるのですごく居心地が悪かった。
内野の女性陣はと言うと、リアナは最初ので満足したのか、あれ以降は離れてたんだが、ミレナは……水を得た魚みたいに甘えてきた。ステラとクロエはお昼寝中だった。
「いいものが見れたよ。頑張ってね……ユートくん?」
外野女性陣のリーダー的な人からの言葉だ。馬車を降りて別れる時にそう言われた。話をしっかり聞いてたらしい。
ステラたちは名前を呼ばれた事で複雑な顔をするも、なんだがにやけている。少し前に他の女性から何か言われていたのでそれが理由だろう。
で、寄り合い所とはいえ町の中でそんな事があった。当然、男からの視線もあるだろう。結果的に俺への殺気が集まった。
……ひとまずギルドに行こう。迷宮に関する情報が欲しい。リューアでのような事はごめんだ。……別にギルドのせいじゃないけどね。情報収集を怠った俺たちの怠慢が原因だったわけだし。あと、早くここから逃げたい。
それでギルドに行くんだがやっぱりというか……ミレナが腕を組んできた。俺は今さっき殺気を受けたばかりだというのに止める気はないようだ。ステラとクロエは俺の後ろにいる。馬車の中で甘えたでしょ? というのがミレナの言い分だそう。
二人は、ぐぬぬ、と悔しそうにしながらも言う事は聞いている。俺の近くにいることに変わりないが。それだけでも周りから嫉妬の視線をもらうことは間違いない。
「ようこそ。ヘルセテギルド支部へ。なんのご用件でしょうか?」
「迷宮についての情報をが欲しいんですが」
職員さんに話を聞いてみたら二階の資料室だという事でそちらに行くことにする。……それにしてもさっきの挨拶、すごい久しぶりだな。リアナとの時は俺たちを見て少し笑った後、「……ようこそ」だった。
王都のギルドに初めて行ったときから考えると……およそ三年振り、ということになる。
まぁ、そんな事はいいか。ステラたちには宿の手配をお願いする。調べ物までいちゃつかれたら調べる物も調べられない。
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調べて分かったことはまず、ヘルセテでの迷宮は恒常の試練、という名らしい。洞窟のように降りていく形式だが、迷宮に挑む個人か、パーティの総合力を凡そ判断してそれに合わせた難易度の階層に送られるそうだ。
名前の通り、常に試練――危険な状況下で進む必要があるそう。
とは言ってもいくつかの階層ごとに迷宮前まで戻れる転移装置みたいなのがあるそうで、そこまで大きな心配はないそうだ。……迷宮的に、人が入ってこなくなったら困るから、なのだろうか?
まぁ、それでも実力以上の階層に送られてしまって死んでしまった、というのはよくあるそうだが。
だが、常に試練なので、その見返りも結構いいものが多い。それも実力が上の者であるほど。強者にとっては絶好の金稼ぎ場という訳だ。現に、一定数の実力者はここをメインの狩場にしてるそうだ。
そりゃ、一回の探索で何百万も稼げたら、ねぇ? 気持ちは分からなくもない。
ちなみにこの迷宮での最高到達階層は百十四らしいが、まだ下があるらしい。……そういうことならステラたちも退屈せずに済むのかな。
最後にこの迷宮ではゴブリンとか、黒兵といった人型の魔物が出るそうだ。複数の種類が出てくるのはメルガスでも少ないらしいし。ステラたちは特に人型を得意としているので、ある意味楽勝かもしれないが。
「これくらい、でしょうか?」
「えぇ。これ以上は自分たちで集めないと」
本当にギルド職員を辞めてきたらしいリアナに手伝ってもらったので、一時間とかからずに調べたいものは終わった。元職員だから助かったのだが、辞めてきて本当に良かったのだろうか? あそこ、かなり給金はいいと思うんだが。
「大丈夫ですよ。たくさん言い寄られて参ってたのもありますから」
「……『も』ってことは他にも理由が?」
「孤児院のシスターからそろそろ相手を見つけなさい、って注意されちゃいまして。それに打算抜きとも。そうなると……ユートさんくらいしか」
さぁ、ここまで好かれる理由、俺にあると思うか? いや、ないと思う。だって、好かれる行動をした覚えがないし。職員と換金に来る人、って関係だったよ。たとえ、換金額が大きかったとしても。
それにそこだった場合、打算ありきだし、打算無しとなると本格的にねぇ……思い当たる節がない。
ちなみに俺をその人に話したら連れてこい、と言われたらしい。……絶対行かないよ? そもそもオーケーを出す気すらないし。今の俺はステラたち三人が限界です。そして、それ以降に増える予定はありません。
改めて遠慮の姿勢を見せるのだが、全く以って諦めてはくれないらしい。
ギルドを出ると丁度やって来ていたステラが飛び付いてきた。……この子、自分の妹ながらにして行動が大胆だよね。人前で堂々と抱きついて来るなんて、そうそう出来るもんじゃないよ。
「危ないだろ」
「えへへ~。ごめんなさーい」
ニコニコ笑いながら腕を組む体勢に移る辺り、全然反省はしてない。というか、今までも全く反省してなかったし、言っても本当は無駄なんだけどね。口調も反省の色なんて一ミリたりとも見えない。
ステラに引っ張られるように連れられて、この町で泊まる宿に連れて行ってもらった。てっきり、俺たちとリアナで分けると思ったんだが、意外にも部屋分けは俺、ステラとクロエ、ミレナとリアナだった。
…………これもこれで、なんか怖いけど。信用がない? これに関してはその通りだ。一体、ミレナがどんな策を考えているのか、俺には分からないし。
まぁ……久しぶりに自分を振り返れるのは嬉しいけど。




