六十六話 ……あれ? いつもとそんなに変わらない?
水、金の定期更新と、一話ゲリラの週三話で頑張ろうと思います。
「むぅ……」
「……ユートくん、なんで血の匂いがするのかな?」
クロエと憩いの空間に来て早々、抱きついてきたステラと近寄って来たミレナからあっさりバレた。君たちなんでそんなに鼻がいいのさ。しっかりと匂いだって落としたはずなんだけどな……。
ステラは不機嫌な顔で、ミレナはにっこりと笑顔で詰め寄ってくる。……うん、怖い。特にミレナが怖い。まぁ怒ってるのに笑顔、というのは誰であっても怖いものである。
淡々と何をしたのか、注意されるのだ。もうね、逃げ出したくなるよ。他と違うのは俺にはその選択肢がないということ。
そして、クロエが耐えきれずに口を滑らせてしまった。……仕方ないよ。二人の視線には俺もそろそろ耐えられなかったし。
イケメンたちとのいざこざは置いといて。俺とクロエはあの後宿に戻った。部屋で違う服に着替えると、血の付いた服は大きめの袋に入れて燃やしてもらうことにした。俺もクロエも物を燃やすことなんて出来ないので宿の人に頼んだ。
理由は勿論、これ以上被害が増えないようにだ。
それを終えたら未だ怒りが収まっていないクロエを宥めて、ステラとミレナに言わないように約束した。これ以上の面倒事は避けたいし、俺としては奴らに仕返しはしたのでこれ以上はやりす過ぎかな、と思うのだ。
クロエが落ち着いてきたら、早足で憩いの空間までやって来た。と、いう訳だ。
クロエはいざこざも含めてステラとミレナに伝えると二人の表情には怒りと哀しみが表れ、一直線に俺へと向かった。
「ユートくん」
「はい」
「私とステラちゃんが今どんな心境かわかる?」
「大変怒り、悲しんでいるのが分かります……」
ふふふ、と笑うミレナの目には正解、と書かれている。が、一切表情が変わらないのがものすごく怖い。ステラはずっと不機嫌なまま俺を見つめている。
こちらもこちらで無言の圧力……やっぱり罪悪感が強い。
「半分正解。……それでどうしてそんな大事なことを黙ってたの?」
「それは……」
「私がその人たちに仕返しにでも行くと思ったんでしょ? 読まなくてもわかるよ。けどね――」
今まで表情が変わらなかったミレナは苦しそうに顔をしかめてステラと同様に抱きついてきた。
「ユートくんとそいつらとなら、ユートくんを選ぶ……それくらい分かってよ……」
抱きついたミレナは抱きつきながらも俺が刺されたところを撫でている。慈しむかのように優しく……。
……………………えと、その…………心配かけてすいません。
「心配かけてすいません……」
「本当ね…………さて、ユートくん」
「……なんでしょうか?」
さっきまでの悲痛な顔はどこに行ったのか、今日一番の笑顔を見せながらこちらに笑いかけてくる。……あ、ダメだ。これ……公開処刑されるやつだ。
「ユートくん……何がいいと思う?」
「何がとは……なんでしょうか?」
「決まってるじゃない……心配かけたお・わ・び。分からない訳ないよね?」
ミレナがクロエの方を向くとクロエはさっ、と後ろに下がった。そのまま頭を下げて静止……これからは一切関与しません、と。俺が全責任を取るのね。分かってたけど。
「ねぇ、何がいいと思う?」
「……お二人が満足できるやり方でいいんじゃないでしょうか」
「どうして?」
「いや……俺は二人の望みが分からないので、素直に言ってくれればありがたいかな、って」
強制的に膝立ちにされた俺はステラとミレナから見られる。それはもう、全てを見抜くような勢いで。ミレナの場合は、本当に見抜きそうだ。
数分間、その体勢のまま見続けられて、ようやく二人が離れたと思ったらミレナが俺の顔を掴んで覗き込んできた。
「ふふふ……ユートくん、私の目的の一つにユートくんとの仲を知らしめる、っていうのがあるんだけど、知ってた?」
「そりゃ、あれ程せがんできたし分からない方がどうかと思うけど……」
「この町で最も人が多いのってどこかわかる?」
「……ギルド及び迷宮の通りです」
やべぇ……この人、容赦する気が全くねぇ。完全に俺を死地に送り込もうとしてやがる。そんなにお気に召さなかったのか…………普通に考えてそれで済むならいいのか……?
ミレナは嬉しそうに頷くとステラの方を向いて目を何かを問いかけた。ステラは即頷いて、俺の方を見ながら返答を待っている。
クロエは……俺の後ろで何とも言えない表情でいるそうだ。ミレナが教えてくれた。
「じゃあ……よろしくね」
「……了解です」
二人に立ち上がらせられると、ステラは再び抱きついてきて、ミレナも俺の胸を手を当てるようにして、寄り添ってきた。ちなみにここは外で人もそんなに多くはないとはいえ、全くいない訳ではない。
つまり、この光景を見た人たちは面白そうな表情で俺をずっと見ていた。始終全てである。そう遠くないうちにこの話は広がるだろう。……野次馬って、そういうもんだからさ。
それとクロエは罰として宿の部屋にて待機。また、今日は俺に甘えるのは禁止となった。最初は落ち込んだが、仕方ないと受け入れたのかとぼとぼと宿の方へ帰っていった。
そして、俺たちはギルドの方へと向かう。何をするかって? ……愛の告白、そんなところだろうか。ミレナと再会した時からこの人は自分と俺が相思相愛で、ラブラブだということを知らしめるために大勢の前で似たような事を言ってきた。
俺はそういのが苦手なので今まで回避、もしくはプライベートの時などにしてきたんだが……まさかそのつけがこんなにも大きいとは。俺は明日から一人でまともに出歩けるのだろうか?
……さて、俺たちは今ギルドの前にいる。正確には通りを挟んだギルドの前だ。そして、この辺りでは俺たちの姿を見ようと今まで以上の人が集まってきており、中には殺気を隠している冒険者や、ギルド職員、リアナの姿まであった。
現在は俺の隠蔽コンボの魔法で気配を隠してる。お陰で誰かにバレるという事はないんだが……
「……なぁ、ミレナ。俺が悪かった。後でいくらでもお願いは聞くからせめてここは止めてくれ」
「んふふ。お願いは後で聞くのは当然よ。でも……だ~め。私とステラちゃんの心配を埋めるんだったらユートくんにはそれなりの誠意を見せて貰わないと」
「ステラは……?」
「私ね……不安だったの。何年もずっと一緒にいたのに、信頼されてないのかなって。だから、それが欲しいの」
ミレナは余裕な顔で、ステラは少し不安そうな顔で言葉と一緒に返される。両サイドから腕を抱きしめられ、逃げ道は完全に無くされる。まぁ、前提に二人から逃げられないというのもあるし……あの、本当に駄目ですか?
「ユートくんは十歳の時のことを覚えてる?」
「あ、あぁ。ステラのことだろ? あれは忘れられないな」
「その時の気持ちを思い出してみて」
「…………あぁ、うん。最初から俺に反論の余地なんてない訳だ。俺はあそこに行く以外の選択肢は存在してなかったわけね」
あれを引き合いに出されるか……でもまぁ、一歩違えば似たような事になった可能性もあるし、そうされたら抵抗が出来ないじゃないか。
少し前から丁度通りのど真ん中に大きな円が出来て、俺たちの登場を今か今かと待っている野次馬が八割。俺の首を書こうとスタンバってる冒険者が一割強。あと一人はある意味、恐ろしい表情でいる女性が一人。
…………よし、これが終わったらすぐにこの町を出よう。そうしよう。じゃないと俺の命がいくつあっても足りない状況になる。
それを提案したらミレナとステラは受け入れてくれた。だから、頑張ってね、とも。
急に俺たちが浮き上がっと思うとふわふわと人々の頭上を移動していって円の真ん中の上で静止する。そこからゆっくりと下に降りると、空間を断裂させてあえて俺たちの認識をずらした。
お陰で俺のは必要ないけど……なんでそんなことを?
ミレナが俺の腕から離れて目の前に移動する。ステラも同様にミレナの隣にいる。この構図は……嫌な予感しかしない。ミレナさんや、あなたはまだ俺には足りないと申されるか。
そこでミレナが魔法を解除したことで周りの視線が一気に俺たちに集まる。俺とミレナたちが向き合っている状態……傍から見ればどっちを選ぶのかという構図。騒がしかった野次馬どもは一斉に静まり、この結果を見守っている。……いや、何人かは、振られた片方を狙っているようだ。
「さぁ……ユートくん。私とステラちゃん、どっちを選ぶの?」
ノリノリだ。ミレナはノリノリでこの状況を楽しんでる。俺が二人を選ぶと分かっていてこの後の展開も分かっている上でこんな茶番をする……俺はステラを選んだほうがいいのかな?
いくらなんでも、ねぇ……悪ふざけが過ぎるんじゃないかと。
「ステラ。俺はステラが好きだ。だから、ずっと一緒にいてくれ」
「……はいっ」
ステラと抱き合ったことで色々と歓声が上がる。野次馬はおおぉーっ! という公開告白に対しての興奮で、冒険者たちは俺たちにもチャンスが、という雄叫びを。一人は……スルーの方向で。
…………よし、帰ろう。すぐにここを離れないと俺が大変な目にあう。
「あの……ユートくん、私は?」
「どっちか選べ、そういうことだろ?」
「それはその……そうなんだけど」
「で、俺はステラを選んだ。それじゃあ、ダメなのか?」
ついさっきまでの立場が逆転してる? 知ってるよ。だけど、今のミレナは絶賛混乱中でそれどころじゃないと思う。ステラみたいに素直に言ってくれれば良かったのに。あんなことするから……。
ペタン、と座り込んだミレナを見た冒険者たちがすごい勢いで走ってくる。さて、お遊びはこれくらいにして……逃げよう。
再び気配を消し、ステラに頼んで人通りが少なくなる場所にまで連れて行ってもらうことにした。ちなみにミレナは俺に引きずられるようになっている。
恐らくギルド前が今一番人口密度が高いので、それ以外は殆ど人はいない。冒険者たちはその周辺から探るはずなのでしばらくはこれまい。
項垂れているミレナを見たステラは非難の視線を向けてくるが……フォローはするので勘弁してほしい。あなたの一撃はシャレにならんのですよ。
「茶番はこれくらいにして……本音を言ってくれないか?」
「……」
「おーい。ミレナさーん」
一切の反応がない。顔を持ち上げてみると……目に光がなかった。マジかぁ……隣からの視線がさらに強くなった。
……そうね。分かってるよ分かってる。何とかするよ。まぁ、この一連の原因を探ると俺でもミレナでもないんだが……もうちょっと、やっておくべきだったか?
「…………ばか」
「え?」
「ユートくんのバカっ!!」
目に光が戻ったミレナは今度は涙目で俺を睨みつけてきた。お、おぅ。ある意味、逆ギレっぽい気がしなくもないが……これでようやく本音が聞ける。ミレナは殆ど、本音を話してくれないんだよなぁ。自分のことは棚に上げるけど。
「なんで、なんで私を選んでくれないのっ! ユートくんのことを一番知ってるのは私なのに! 一番想ってるのは私なのにっ! なんで!? どうして!?」
「……ミレナは他人からの評価がないと駄目なのか?」
大分ヒステリック気味になっているが……まぁ問題はない。それよりか、こっちの方が大事だ。一度、確認したかったんだよね。なんでミレナがこっちに来てからはずっと他人からそう見られようとしてるのか。
「ふぇ?」
「俺だって未来の頃を知ってる。あの時の未来は自分の気持ちを偽ってなかったと思うんだが、どうだ?」
ヒステリックさはなりを潜めて、呆けたはミレナは次に考え込むように俯いた。俺にとっては信頼してるからこそ出来る手なんだよなぁ。
他の人に聞いたら色々と言われそうだ。だが、俺にとっては覚悟の表れだし。自分の人生を預けるんだ。それくらいは聞いておきたい。
「他人からの評価は気にしない。それでいいだろ? その方がミレナらしい」
「でも……」
「まぁ、込み入った話は後で。それよりもこんな俺だが……いいのか? 大事なことだからもう一度聞く。俺でいいのか? 俺の人生を一部でも背負う覚悟はあるのか?」
考え始めたミレナをステラと一緒に見守る。残念ながらステラは少し前に似たようなことでクリアしている。それでいつも以上に甘えたになったが、覚悟はある。恐らく今俺が行方不明になっても冷静に見つけ出すくらいはするだろう。
「…………………………ユートくんがいい。ユートくんじゃなきゃやだ」
「なら……俺の全てはミレナのものだ。好きにしてくれていいよ」
ミレナを抱きしめるとミレナはしがみつくように強く抱きしめ返してきた。ステラも手招きするとやって来て、ぎゅっと抱きついた。
ミレナが落ち着いてきた辺りで一度離れる。何というか俯瞰視で周り見てみると冒険者たちが血眼になってミレナを探してる。
えぇ~そんなにミレナが欲しいのだろうか。違う恐怖を感じるぞ。
「ミレナ、ステラ。取り敢えずこの町を出ようか。今すぐに。それにここの迷宮じゃ、物足りなかっただろう?」
「まぁね。それ以上の人と何度も戦ってるからかな」
この後はクロエと荷物を取りに宿に戻って、すぐに出発だ。なんか嫌な予感がするし。ついでにあんなことをしたら俺がこの町にいられない。
俺はミレナとステラの手を取って宿に向かって歩き出した。いつも以上にご機嫌なミレナとステラだった……。
読んでくれてありがとうございます。




