六十三話 婚約者VS職員……俺も巻き込まないで?
長くなったので分割します。片方は21時に上げます。
三人と(一人ヤンさんが多少入っていたが)じゃれ合っていると、そろそろ調理を始めないといけない時間になったのでこの宿の調理室に向かった。ちなみに誰も手伝ってくれない。何故かというと、俺の手料理を食べたい、からだそうだ。普通、逆だろう……。
使う材料は二百グラムほどにカットした肉が五切れ。それと一口大にカットした肉たち。卵が何個かに、多めの様々な種類の野菜。
まぁ、その内、すでに野菜は一口ほどに切ったものを煮込んでもらっている。条件としては余った分は好きにしていいのと、煮込む時間×大銅貨二枚だ。
「ミレナの言うとおり野菜のシチューはあるんだけどな……」
そう独り言をこぼしながら卵を割って、木製のボウルでかき混ぜる。かき混ぜながらついでに煮込んでいる野菜シチューも確認。できるなら、もうちょっと時間をかけたいんだけど……今からそんな時間はないので我慢である。まぁ、これでも十分に美味しいと思うが。単に気分の問題である。
溶き終わった卵は一旦置いて、今度は肉を取り出す。……今回は切らずに行こう。
肉はそのまま格子状に切れ目を入れて、余熱で温めたフライパンで一枚ずつ焼く。五枚の肉全てにいい感じの焼き色がついたところで、一度フライパンから移動させる。
次に、ボウルから半分ほどの卵をフライパンに流し込み、その上にさっきの肉を一枚入れる。
フライパンの端の部分の卵を肉の上で重ねてくるっと返す。結構綺麗にできた。……漫画で読んだだけだけど、意外とできるもんだなぁ。
それを皿に盛って、残りも同じように作る。名前は……ステーキ肉入りのオムレツだな。トマトケチャップとかのソースがないのがちょっと物足りないが。
俺が作ると言ってもこんな時間じゃ凝ったものなんて作れないし、実際今のが俺の考えたメインである。あとは野菜のシチューとサラダで完成だ。まぁ、シチューには一口サイズのブロック肉を入れるけど。
メインを作り終えたら少し油を引いて、ブロック肉を焼く。それが焼きあがったら野菜シチューの中に優しく入れる。……ドボンと入れて、服が汚れたら困るだろ?
味を確かめてみて……よし。野菜の甘みがいい感じだ。
最後に葉物野菜なんかを切って、サラダにしたら終わりである。ちなみにシチューを仕上げている時にステラがやって来て、リアナが来たことを報告してくれた。その際にちょっと味見させてみた。
ステラの笑みは美味しいと語っていたので出来はいいのだろうが、どうせ後で迫られるんだろう。……私たちには? と。
まぁ、未来のことを嘆いてもしょうがない。あとで自分の作った料理を楽しもう。うん、そうしよう。久しぶりにこういうのを作ったにしてはいい出来だし。……アルトネアにいた頃はこっちの世界に合わせたものしか作っていなかったのでちょっと心配だったのだ。
全メニュー作り終えたところで、料理を持っていくためにもステラたちを呼んだ。これはリアナも含め、全員でやる。それぞれが視線を俺と料理に移動し、ステラたちは熱い視線を、リアナは好奇の視線を下さった。勿論、無視だが。
二つのテーブルをくっつけた上に料理を置く。俺は短い側に座ろうとしたら長い側に強制移動させられ、四人でじゃんけんが始まった。理由はどうせ、俺の両隣だろう。それを防ぐために短い側に行ったのに……。
じゃんけんで勝ったのはミレナとリアナ。ミレナはちょっと悔しがっており、リアナは勝ち誇っている。もうちょっと、平和に行こうぜ? な?
「……こほん。料理もできたことだし、ユートくんお願い?」
「はいはい。……いただきます」
「「「いただきます」」」
ミレナに言われ、俺がそう言うと夕食が始まった。まずは一口。全員が各々の好きなものを食べる。俺は野菜シチューのスープを。ちょっと、煮込みが足りない気がするが美味しい。久しぶりだったが、十分いけるようだ。
…………本音としてはステラたちに満足してもらう、だが、ミレナにバレてないことを祈ろう。後でややこしいことになる。
「……美味しい」
「本当ですね。シチューもこのオムレツも美味しいです。こんな料理を出されたら……本気になりますよ?」
せっかく、ミレナ、ステラ、クロエがそれぞれの形で味わっているところにそんな爆弾を落とされたら……ほら、皆警戒したじゃないか。それに対して飄々としてるあんたもあんただよ。
ねぇ、せっかくなんだからさ、料理を楽しもうよ。俺頑張ったんだよ? せめてそれは後にして。
「……ユートくん。結構頑張ったね」
「まぁ、な。久しぶりだったし、いい機会でもあったし」
「……そっか。なら我慢する」
ミレナは自然に肩に頭を置いてきた。何を想像したか知らんが、気に入ってもらえたようだ。俺を境に反対側にいるリアナはその光景を好奇の目で見ている。ステラとクロエはちょっと残念がっているが、我慢しているようだ。
その後は特に問題は起こらず、雑談といった感じで楽しく夕食を終えた。雑談と言ってもこの料理は何なのか、とかそんな感じだったが。まぁ、共通したところといえば四人とも満足していたことだろう。作った側としては何よりだ。
空になった皿を集めて返しに行く。四人とも動きそうにないので俺一人だが。皿を持っていって、調理室で洗って片付けて、部屋に戻った。
そこではミレナ、ステラ、クロエVSリアナ、という図ができていた。……まぁ、予想できてた。というか言ったしね、後にしてって。心の中でだけど。
「あ、戻ってきた」
ミレナが俺に第一に気づき、俺のところまでやって来て、腕を掴むとミレナ側の陣形に取り込まれた。左右ではステラとクロエが、前方はミレナがいる。腕を組んでいるステラとクロエは幸せそうだ。さっきのを取り戻すようにしている。
リアナはというと、ちょっと瞳が濡れている。視線も俺とミレナを同時に見ているが、明らかに俺の方が多い。
「ユートくんは私たちの為に今日の料理を作ってくれたの。そこにリアナさんが立ち入る隙はないわ」
「稼ぐ力もあって、料理上手。それに相手のことも考えてくれるなんて……そんな人を逃すと思いですか?」
なんか主にミレナとリアナがバチバチと火花をぶつけ合っている。ステラとクロエは俺に甘える感じで全く役に立っている気がしない。
俺としても不毛感が拭えないのだが……女の戦いという奴だろう、彼女たちが満足するまで付き合うことにしよう……付き合わされるが正しいが。
「ユートさん、私はあなたよりも少し年上ですが生娘ですし、家事もできます。それにある程度は強いですし、綺麗ですよ? それに想ったら一途なんです。……どうでしょう?」
「いや、どうでしょうって……会って数日の人相手にそんなことを聞かれても……そういつも言ってるでしょう?」
「では、長く一緒にいればいいのですね」
「ですが、私たちはあまりここに長居する気はありません。ここの迷宮をクリアしたら、他の町に行くだけです。そこで消える関係だと思いますが」
「ならば私もついていきましょう」
何故か今日は引こうという体勢に見えない。俺が返しても返されれる。俺の場合、下手なことを言ったり、敬語をやめればどうなるかは知っているので、俺も俺でこの姿勢を崩す気はないんだが……女の争いに、俺を巻き込むの止めません?
残念ながら俺の意見は受け入れてもらえないようで、ミレナとリアナの口争に度々口を入れねばならなくなった。
……そりゃあ、ある意味当事者ですけども。そっち側じゃないんだけどな。




