六十二話 婚約者VS職員 ……帰っていいかな?
俺とミレナが戻ってきたところで、ステラがギルドに行こうと言い出した。なんでも早く宿に戻っていちゃいちゃしたい、と。ミレナがステラと目が合っていたので最初からの予定ということか。クロエもなんかワクワクしてるし。
……俺は頭を抱えたい。こんな人が多いところでそんなことを言われたら……ほら。周りから殺気が飛んできたじゃないか。俺に向けて。
ミレナの精神は二人と合流するまでに回復したようで、俺の隣をクロエに譲った。……自分で言ってて、違和感しかないんだが、どうすればいいのだろう?
腕を組んでいるステラとクロエは大変機嫌がいい。ミレナもミレナで俺の傍から離れる気はない。
その状態でギルドにつくと二つの感情が込められた視線が主に俺に降り注ぐ。その正体は殺気と好奇心。どれが誰かなんて言うまでもない。前者は他の男性冒険者、後者はギルド職員たちだ。
そして、受付では俺を確認してから速攻、というべき速さで自分の仕事を片付けたリアナがこちらに手を振っていた。瞬間、三人が一気に警戒する。
…………もう帰っていいかな?
面倒事を避けるために彼女の受付とは違う受付に行ったのに、すっ、とそれはもう自然な流れで担当が変わった。
おいこら。自分の持ち場でいいだろ? わざわざこっちに来るなよ。職務放棄って知ってる?
「ユートさん、皆さん、こんにちは」
「……ええ、こんにちは」
「今日はどのようなご用件でしょうか?」
「欠片の換金に」
「分かりました。お預かりいたします」
言葉の交わしにはそんな変なところはない。だが、それ以外でステラ、ミレナ、クロエVSリアナという図式になっているのは誰でも解っており、その行く末をリアナの同僚までもが楽しそうに見ている。
……それを職務怠慢って言うんだぞ。仕事しろ仕事。特に職員ども。
ステラたちから欠片の入った袋を受け取ったリアナはすぐに後ろに入っていった。これで多少は休めるか。
欠片と換金したお金を持ってくる必要があるので少しは気分が落ち着くと思ったら、リアナが戻ってきた。その目はまっすぐ俺を見ている。既にステラたちなど眼中にないようだ。
「……素晴らしいですユート様。欠片の数もさることながら、質も良いものがたくさんあります。見た限りではウェルズ、ミトラノア……黒兵もいましたね」
「そ、そうですか」
「ということで早速ではありますが、この後宿の方に失礼してもよろしいでしょうか?」
今回のも殆どがステラたちだというに……。一応、説明してみるが無駄な気がする。でもね、無駄でもしないと後ろの三人からどんなことを要求されるか……それよりも絶対、拗ねる。それはもう確定的に。特にステラは絶対に拗ねる。
そんなことはごめんなので、試してみる、というわけだ。言い訳はできるからな。
「ダメです。それに今回の殆どはステラたちの成果です。私のではありません」
「ですが、少しはユート様も倒されたのでしょう?」
「まぁ、そうですか……」
「あの量、あの質から考えて数万ルーツは確定だと思います。それはここでの平均と比べたら普通に高いですよ?」
確か、一人当たりの平均は五千ルーツ前後だっけ。確かに多少は高いが……多少だよ? 俺のみに目をつけるほどじゃないよね? 俺よりも稼いでる奴なんて全然いるぞ。後ろの三人は別として。
だが、ニコニコとリアナは表情を崩さずに今度はステラたちの方を見た。
「では、婚約者の方々に聞きます」
「何でしょう」
「今回の報酬は皆さんで山分けですか、それぞれの活躍によってですか?」
「山分けですね」
「ちょっと待て。それはさすがに――」
「ユートくん、ちょっと静かに」
ミレナに制されてしまった。しかも顔を胸でホールドされるという状態。俺からリアナの表情は見えないが、なんとなく雰囲気から笑みが引き攣っていそうだ。
この婚約者、容赦ないなぁ。それとステラ、俺の手を自分の胸につかづけるのは止めなさい。俺が殺される。クロエもだ。
視界が塞がれてるところを好機と見たのか、ステラとクロエが行動を起こしてくるが、俺が疲れるだけなのんで、せめて泊っている部屋に入るまで待ちなさい。どうせ、帰ってからもせがんでくるんだろ?
結局、換金が終わるまでミレナに抱えられたままだった。呼吸くらいはできるのだが、全体的に柔らかい。それに伴う嫉妬の奔流。俺はどうしたらいいだろうか?(二度目)
「……で、どうなった?」
「あっ、ついに私にも」
「いえ、違います。ミレナに言っているんです」
「夕食だけはとる、という形になりました」
とりあえずリアナの間違いは訂正して、ミレナに結果を聞いた。どうせ、俺の意見なんて入る余地のなかったことなんだ。結果を聞いてどうするか対策しておきたい。
夕食、ね。今日は全員の復帰祝いということで(強制的に)俺が作ることとなっている。一人分増えるのは問題ないが、また面倒事になりそうな予感しかしない……。
三人が攻略したのが合計で数時間程度なので、今は昼の時間帯。帰りの食料を買う時間を多くして帰ってからは一人で料理を作るのに専念させてくれるかなぁ。
「そういうことになったので、よろしくお願いしますね。それと今回は欠片が二千六百二十三個。合計額は二百七十一万七千三百七十一ルーツです」
それと皆さんのカードに山分けした状態で、ユートさんのはいくらかを国王さまに提出しておきますね、とリアナに付け加えられた。
そこは素直に礼を言っておくが、三人が悔しそうな表情になっていた。……いやいや、君たち。君たちには管轄外なんだから目を向けなくてもいいじゃない。皆には皆の役割があるんだから。
「うぅ。なんか悔しくて……」
「はいはい。皆の方が好きだよー」
若干棒読みになったが、そういうとステラとクロエは抱きついてきて、自分の感情を発散させている。ミレナはむぅ、とむくれたが二人と同じ行動しているため、全く何も感じない。
………………ただ、周りからの視線は物凄い集まってるが。殺気に怨嗟と色々な感情が濁流となって襲い掛かってくるこの状況からは逃げていいと思う。今すぐに。
「じゃあ、私たちはこれで」
「はい。夕食、楽しみにしています」
なんとなく、違う意味を含んでいそうなリアナの言葉を尻目に、三人を伴ってさっとギルドを出た。今回は前回と同じ様にリアナに突っかかる人は少ないみたいだ。
代わりに、結構な量の殺気とかが飛んできてるけど。
食材の買い出しは省略していいだろう。終始、三人といちゃついていた、それだけだ。三人のお陰で少し多めに、値段も多少下がったのは嬉しい誤算だが。
それにどや顔をするミレナの髪を撫でると気持ち良さそうに身を任せたあと、一気に恥ずかしがる姿がみれただけでもいいか。
そして今は、料理を作り始めるまでステラたちから強制的に部屋へと連行されたあとである。調理する許可はすでに取ってあるので問題はないが……俺の言うことを皆は聞く耳を持ってくれないようだ。
ベットに腰掛け、膝の上にはステラが座り、後ろから左右をミレナとクロエからホールドされて身動きができない。
ちなみに俺が部屋に入ってからこの体勢に至るまでの間、十秒とかかっていない。無駄な技術だ、と思う。だが、ステラたちに取ってはそうではない、のだろう。
「……夕食の準備に取り掛かりたいんだが」
「だ~め。夕食はシチューとか、手軽にできる奴でいいからぎりぎりまではこのまま」
今の状態としては前からステラに抱きつかれ、左右にはミレナとクロエを抱き寄せている感じだ。第三者が見れば「この野郎!」と切れられること間違いなしだ。……即座にステラたちから最低でも半殺しにされるが。
もうなるようになれ、と達観した精神で時間が過ぎるのを待っているとステラの力が急に強くなり、ベットに横にされた。目の前にはミレナ、ステラ、クロエと左からの順で目の前にある。
今度は一体何を求めてきたんだい?
「ユートくんはあの女よりも私たちの方が好き?」
「そりゃ、もちろん」
「乗り換えとか、しない?」
「なんとも贅沢な選択肢だが、そんな気はない」
リアナ相手にそこまで不安になることがあるかね。それに俺が相手を信じるまでに相当な時間がかかることは誰もが知ってる事だろう?
……なんてことを言っても意味がないんだろうなぁ。先ほどまでとは一転、不安の表情を浮かべている。
言葉で慰めても効果がないことはさっきわかった。言葉で落ち着くなら問いかけを繰り返したりしない。
行動で示せ、と…………本人たちが直接言ってるわけではないが、顔にそう書いてある。三人を同時にもっと抱き寄せると、え? と戸惑った表情を浮かべる。ミレナだけはなにかを期待している。
……ほんと、君はそれくらいの余裕はあるんだね。うん、知ってた。マジな時は一番弱くなるからね。
「……みんなは俺のもの、俺はみんなのもの。それでいいだろう?」
ミレナ以外は俺の言ったことを少し考えてるが、ミレナはにやっ、とそれはもういい笑顔を向けている。やめろ、恥ずかしい。自分でも恥ずかしいことを言ってる自覚はあるんだ。だが、ミレナだってこれくらい言わないと納得しないんだろ?
ミレナにそんな目を向けるとコクコクと頷いた。……この野郎。しばらく放置してやろうか?
そんなことを考えたもんだから慌てたミレナが「もういじらないから、ね? ね?」と懇願してきた。ステラとクロエはその行動を訝しげに見ている。
「今のはミレナの自業自得だ。で?」
「お兄ちゃんを私たちが好きにしていいの……?」
「全て、というわけじゃないが、ある程度なら」
「私たちからは一生は慣れませんよね?」
「クロエたちから離れない限りは、な」
ようやくステラとクロエははふゅ~と、安堵した息を吐いて身体を預けてきた。ミレナは図々しくも人の腕を枕にして、同じ様にしている。
「なぁミレナ」
「ん、なに?」
「ステラとクロエを抱きしめたいからそこから離れてくれないか?」
「え!?」
唐突にそう言われたミレナは驚愕した状態で固まり、次には涙目にシフトした。俺の服を掴んで、弱弱しく見つめてくるミレナはやっぱりそそるものがある。
「冗談だよ」というと、むすぅと拗ねて背を向けてしまった。その調子で俺はステラとクロエに向くと慌ててパタパタと叩いてきた。全然痛くない。
ミレナの方に振り返って頭を押さえる。ステラとクロエは俺がなにをしようか分かったらしく、何もしてこない。
俺は俺でミレナにキスをする。ミレナの顔が赤くなるのも気にせずに続けていると二人が離れたのがわかった。俺は一度やめて、ミレナを起こした。
絶賛混乱中のミレナに今度は本人が好きな(するのもされるのも)舌を入れるようにキスをする。ようやく何をされてるのかわかったミレナは離れようと両腕を押すんだが、全く力が入っていない。むしろくっ付くように近づいてきた。
じっくりとやって離れるとミレナはぼんっ! と音が出そうなくらいに顔を真っ赤にさせて後ろを向いた。
「おーいミレナ。どうしたんだ?」
後ろから抱きついてミレナに聞いてみると、
「ユートくんがキスしてくれたユートくんがキスしてくれたしかも自分からそれも私が好きなディープキスでうふふふふふふふふふふふふ」
「こわっ」
一息でそう言っていたミレナはある意味、いつも通り……なのか? 入る場面でもないのにヤンさんが入っているようなんだが……




