六十一話 相変わらずすげぇよ。三人ともさ……
ステラたちの精神の回復を待っておよそ十日。経ったこの日数で特に酷かったミレナも回復してしまった。
その間、俺がしたことといえば三人に付き添っていたくらい。他にはなんにもしてないのに、以前のように戻った。……女性はほんとに心が強いよね。動機を聞かれると答えづらいんだけどさ。
今は不屈の洞窟へと向かっている途中。今回はステラとクロエが俺と腕を組んでおり、ミレナの方は前方を歩いている。白銀の髪を一つに束ね、上機嫌に歩く姿はこれから迷宮に行くとは思えない。
かくいうステラとクロエもずいぶんと機嫌がいい。迷宮に行くのに、そこまでテンションが高いのも考えものだよ……。
「……なんで、そんなにテンションが高いのさ」
「うーん、ここ最近はユートくんに甘えちゃったし、いいところを見せようと思って」
「それ、普通は言うのが逆なんだけど……」
うん。それね、普通は男が女に言う台詞だと思うんだ。ミレナが言う台詞じゃないよね? 別に言っちゃいけないわけじゃないんだけどさ……なんか男として複雑なんだが。
ステラを見ると、頑張るぞ! ってな感じでやる気満々だし、クロエはクロエでこっちに微笑みながらもその目には闘志が燃えている。……うん、逆。立場が逆。
ちなみにこの光景を台詞なしで見ると、単にいちゃついてるようにしか見えない。つまり、オレはまた同性から殺気と嫉妬の視線をもらうというわけなのだが……このお三方は、それに気づいてるんだろうか?
そんな感じで約十日ぶりに不屈の洞窟にやって来た。いつもの通りに盛況のようで、結構な人が集まっている。
俺たちは門番の人に通行料の銀貨を渡して、洞窟内に入る。二人きりで。
……なんかね、三人ともウォーミングアップで一回、一人でやってみたいんだって。で、そのモチベーションを上げるために俺も一緒に来て欲しいんだって。
ここ、迷宮なんだけどね。普通ならパーティ組んでクリアしないと行けないはずなんだけどね。皆なら普通にクリアできそうなのがあり得ないんだけどね。常識的に。
「それでは行きましょう。ユート様」
「……うん。そうですね」
順番はクロエ、ステラ、ミレナの順。しかも三人の意気込みとしてはデートにでも行くような感覚だ。こんなデート普通は嫌だなぁ――って、現実逃避してる場合じゃないんだけどさ。
百個近い入り口がある大広間までやって来て、選ぶのはもちろん下層。この迷宮で最大難易度である。なにを以てして、二人で攻略しようというのか。俺には三人の考えがわからん。
適当に選んで入ると目の前には岩人形がニ十体ほど。それぞれが岩でできた武器を持っているんだが、クロエの顔には焦燥が全くない。むしろ余裕の笑みすら浮かべている。
……まぁ、当然の話だ。クロエは自然属性の魔法が使える。で、それには当然、石とか岩とかも含まれる。ということは岩人形なんてクロエにとっては文字通り、目を瞑っても倒せる相手でしかない。
もし、このコースがそれ系だったら、ボス以外はこの調子で進むんじゃないかぁ。
攻略時間を逆算していると俺の腕に抱きついたままの状態で相手をしていたクロエが終了のお知らせをする。
「ユート様。終わりました」
「クロエは得意だもんね、こういうの」
「はいっ」
褒めて褒めて、と獣尻尾があればぶんぶん振っていそうなクロエの頭を撫でると嬉しそうに目を閉じる。
そのあとはこいつらの欠片を手分けして集めて、袋に入れたら次へゴー、だ。……なんか、迷宮を攻略してる感が全くない。いや、最初からあってなかったようなものだけどさ。
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ということを繰り返して……ニ十回。何回かクロエの魔力回復のため休憩したとはいえ、一時間足らずでボスまで倒してしまった。その間、俺は何もしていない。クロエがひとりで制覇してしまった。
……すげぇだろ。一人の少女がこんなことを成し遂げたんだぜ? 大の大人がパーティ組んで挑んでも中々クリアできないってのにさ。
………………もうそろそろ芝居は止めよう。なんか疲れた。
で、次のステラと行く前にしばらく休憩という名目でクロエがご褒美を所望したので、今はそれに応えてるところ。
「ユート様、どうでした?」
「普通にすごいよ。大人ですらそうそうできないからね。迷宮を一人で攻略なんて」
「ですよねですよね!?」
「はいはい。わかったから」
俺の上に座って、はしゃぐクロエはとても王女とは思えないし、迷宮を一人で攻略したとも思えない。ただの純粋な少女だ。
後ろから抱きしめられる状態で幸せそうだ。ここが迷宮内だなんてとても思えない。
それで抱きしめられているクロエが急に頬を染めたと思うと、振り返って俺を見ながら目がうるうるしている。
…………なんでしょうか、王女様?
「……あの、ユート様」
「なんでしょうか?」
「その……ご褒美に、キ、キスを……」
顔を赤くさせて恥ずかしそうにそんなことを言うクロエ。まぁ、普通に可愛いけどね。クロエくらいだし、こんな初々しい反応するの。ミレナなんてむしろ仕掛けてくるからね? うん、俺は好きだよ。
クロエにキスすると、積極的に押しつけてくる。クロエの望む通りにしてやると雰囲気がすごく甘くなる。俺は別にあの空間を作れるわけじゃないので、この空間は俺も甘く感じる。もう、砂糖がどろどろだよ。
唇を離すと糸が引いていて、思い出したようにそれに対してものすごく恥ずかしそうに真っ赤になる。ちなみにこの時に追撃すると本当に少女っぽくなるのだがそれはさておき。
恥ずかしそうにしながらも離れる気が全くないクロエを見ながらこれがあと二回、続くと思うと……うぅん、何とも言えない。まぁ、嬉しいと言われれば嬉しいが。
不屈の洞窟から出てきて、ステラたちと合流する。ふたりは近くでプチ女子会的なのをやってたそうだ。それを男の俺に言うかね? 普通?
ミレナが俺に報告をしてくる間にクロエとステラがタッチをして、交代する。あっと言う間にステラが腕を組んできた。
それと欠片が入った袋はクロエが持っている。それぞれがどれだけ稼げたか、競いたいそうだ。勝者が望むものなんて……想像したくはない。だって、予想できるから。
「私の活躍見ててね、お兄ちゃん!」
「……頑張れよ」
二度目ということでちょっと怪しまれたが、無事に通過。そして、二度目の迷宮攻略開始だ。
入ってすぐに見えたのは牛頭と大柄の体格のいわゆるミノタウロス。……本当は正式名称があるのだが、憶えるのが面倒なので、俺の知ってる言葉を当てはめている。
その数は十体。普通に考えれば、は!? と迷宮の嫌らしさを思うところではあるが、ステラに至っては「見ててね?」とやる気満々。確実に殺る気だ。
剣を抜いたステラは一番近くにいたミノタウロスの首を狩った。スパっ、とそれはもう綺麗に。次にはさっと退いて血すら浴びない。相変わらずの速さだ。しかもこれ、ステラの能力だけでなにもパワーアップさせていない。
その状態で二体目、三体目と次々屠っていく。俺が盾になる必要すらなく、十体のミノタウロスを楽に相手取っている。
……まぁ、俺もその余裕もないんだけどね。俺も俺でミノタウロスを相手にしてるから。二体ほど。
ステラが前方に向かって行って一体目を倒した後に後ろと横から同時に襲ってきたんだよ。それも時間差でくるので厄介だった。
「……この迷宮って、攻略しやすいけど普通に考えて難易度は高いよね。全体的に」
泡沫、朧月、水陰の隠蔽コンボですっと気配を消したら、氷翔で二体のミノタウロスの心臓と首の二か所に氷の礫を貫通させる。
四つを同時に使うとなると集中しないといけないので最初は防御しながら立ち回ってたんだけどさ、その間にステラは全てのミノタウロスを倒して、欠片を集めて、こっちを見てる。きらきらとした目で。
二体を相手取る以上に集中が途切れそうだったよ。
倒したミノタウロスの欠片を集め終えると、ステラが飛び付いてきた。その勢いで倒された俺の上にステラは座って、抱きついてくる。
「お兄ちゃん、かっこよかったよ!」
「あぁ、うん。ステラもかっこよかったよ」
俺を見ながら熱っぽい視線を送ってくる。いや、普通に考えてステラの方がすごいからね。俺は別にすごくないよ? これくらいできる人なんてそれこそ五万といるんだし……って、聞いてないよな。
すでにステラは頬ずりしながら甘えている。聞く耳は持たない、ということらしい。もう、いつものことなのでなんの驚きもないけど。
頭を撫でると「えへへ~」と気持ち良さそうにしながら、空いている方で抱きしめるように促してくる。ねぇ、まだ続きはあるんですよ? それにここは迷宮。わかってる? そういうのは帰ってからにしない?
「やー。お兄ちゃんといちゃいちゃするー」
「言わんでいい言わんでいい」
とうとうステラまでも心を読んできやがった。この調子だと、クロエまで読んできそうだ。そうしたら…………俺のプライバシーが、ない? 隠し事なんてできないのか……。いや、まだ三人に言ってないことはあるんだけどさ。
という感じでこっちも終始クロエと同じように攻略してしまった。しかも、最後は黒騎士で、相当強そうだったのに。ステラもちょっと苦戦してた。
……一人で敵うような相手じゃないんだけどなぁ。他に心当たりはあるけどね。リュートさんとか。
三回目ともなるとちょっと睨まれた。……ミレナを見た上で。完全に嫉妬である。俺、別に何も悪いことしてないよね? それに前にも三人と一緒に来たはずなんだけど……
まぁ、それでも通してもらって本日三回目。一日に三回攻略するなんて……それもデート感覚で。なんか調子狂うなぁ。
気を取り直して入ると、目の前にいたのは芋虫。あのうねうねと動く、人のよってはダメな奴だ。ミレナを見るとその笑顔が引き攣っている。
握っている手が少し震えているのがわかる。……まさかの虫、だもんね。俺がやろうか?
「……大丈夫。負けない、から」
若干、涙目のミレナは空間を断絶させて虫が細かく切り刻まれた。完全なオーバーキルであるが、虫が苦手なミレナには当然の処置といえる。俺も苦手なのにはそうしたくなる。
その後は吹っ切れたのか、俺から一ミリたりとも離れることはなかったが、ボスも含めて休憩なしで瞬殺していった。それこそ、素晴らしいと言える速度で。三人の中では一番の攻略速度だった。
「……うぅ。がんばったよ?」
「よしよし。頑張ったな」
ボスまで倒したところで許容限界を超えたらしく、その場で固まってしがみついてきた。ミレナを慰めながら改めて考えてみる。ここ、やっぱり嫌らしいわ。
今回はボスも含めたら三十は超えてた。まるでミレナを狙ってきたみたいに。ミレナも耐性は多少はついてきたと思うけど……。
ミレナを慰めることは続けるとしても……今回は相当稼いだと思う。主にステラたち三人だけど。ステラとクロエは一体あたりの金額は高いだろうし、ミレナは圧倒的な数だ。
おそらく一人で百万くらいは稼いだんじゃないだろうか? 俺が遠慮しても断固として否定してきそうだなぁ……。




