六十話 ……なんか自分の変化に気付いたよ
ギルドに入ると他の冒険者たちから視線を向けられる。それでステラたちがいないことがわかると、こっちにやって来た。
え~、この流れは絡まれるやつじゃん。早く帰らないと三人が心配してるってのに。それと小物感がすごいぞ。早速、帰りたい気持ちになった。
「へい、ユート。今日はステラちゃんたちは来てねぇのか」
「ええ。昨日の攻略で疲れてましたからね、宿で休ませていますよ」
「今日は何の用件で来たんだ? リアナさんか?」
「欠片の換金に来たんですよ。換金してくれる人は別に誰でも良いし、早く帰りたいんですが」
三人ほどが絡んできたんだが、そのせいで前に進めない。無駄に体格がデカいってのも、考え物だなぁ。あと暑苦しい。それに目に殺気が宿っているので、なんか怖い。こんなむさ苦しい男どもに絡まれるのは普通に考えて地獄だぞ。
俺の話を聞いてそれぞれが目配せし頷き合い、ようやく開けてくれると思ったらその方向から聞き覚えのある声が聞こえた。……それはそうと、君たちは君たちの中では互いに信頼してるんだね。
「よし。いってい――」
「ユートさん! なんで昨日は来なかったんですか? 心配したんですよ!」
……声を気にしなかったのはその相手が今さっき出てきたリアナだったからである。絡んできた冒険者たちの目がリアナに向いてすぐに俺に向いた。その目はまさにギロリ、というのに相応しい。殺気の段階が一段上がったな。
いや、なんで「リアさんには興味ないんだよな、おぉ?」的な顔してるのさ。今のは完全にあっちからだろ? 俺は何もしてないよね? なんで俺に責任があるような体勢なのかな?
俺と彼らでなんか視線を交わし合っていると、この空気を生み出した若干、天然ギルド職員がやって来た。心配してそうな顔はさらに彼らの殺気を上昇させ、俺の居心地はさらに悪くなる。
……この人、ミレナとなにか近いものを感じる。正確には未来の頃、だけど。なんか歩く爆弾って感じだ。できるだけ関わりたくない。
「どうしたんですか?」
「え、ええ。昨日の分の欠片を換金しようかと」
「そうなんですか……心配、したんですよ? ユートさんやステラさんたちが強いことは知ってるので、なにかあったんじゃないかと」
「心配かけてすいません。それと換金をお願いしたいんですが」
「はい。では、行きましょう」
自然に手を繋がれたことでまた殺気が強くなった。そして、繋いだ本人は少し笑っている。……つまり、意図的にやったということか。この人は俺をどうしたいんだ?
ちなみに今まで休憩だったようで、席に戻るとニコニコと笑顔で対応された。
「確認してきました。今回は欠片が三千五百八十個。合計額は六十二万百二十ルーツです」
「ありがとうございます」
宿から出る時に預かったステラたちのカードと俺ので均等に分けてもらおうと差し出したところ、その手を握られた。その時に一瞬、周りを(正確には俺に向けられる視線を)見たのでこれも意図的な行動なんだとすぐにわかった。……君は俺に嫌われたいのかな?
……前回のおよそ三倍は収入はあがったが、この先を考えるとちょっと少ない。まぁ、不屈の洞窟の利点としては魔物を探す必要がないところだが。やりようによってはステラたちだけで一日で十くらいはクリアできそうだし。そうしたら金貨以上は確実になる。
「今回も素晴らしいです……。ですが、お怪我とかはありませんでしたか?」
「物理的なものならなかったですよ。ただ、今回のは虫だらけだったので……精神的なダメージは大きかったです」
「あぁ、それで……心中お察しします。大変、でしたね」
今の言葉でステラたちが来てない理由がわかったようだ。まぁ、男でも気付けるようなものだし、女性なら当然か。
そして、次の瞬間には心配だった顔が消えているので女性はすごいな……と思う。ミレナなんて今回のがなければそんな行動をよくしてるし。ホント、女性は強いよ。こんなことで思いたくはないが。
「あの、今度皆さんのお見舞いに行きたいのですが……宿を教えてもらえませんか?」
「すいません。無理です」
「そうですか……仕方ありませんね。なにか事情でもおありで?」
だって、教えたらあなたが我が物顔で来るでしょう? それも暇さえあれば。それに後ろの相当数の数の男がやって来そうで、気が気じゃないんですよ。だって耳をそばだてるようにして聞こうとしてるんだよ? 絶対、やってくるって。
と、そこでしーん、と静まっていたギルドに誰かが入ってきた。同時に後ろが騒がしくなる。……一体誰が来たというのだろうか。リアナもなんか諦め気味のようで……本当一体誰が来たんだ? 絡まれるのはいやだぞ?
「ユートくんっ」
そういうセリフと一緒に後ろからミレナに抱きつかれた。なんことはない、やって来たのはミレナたち三人ってことか。
振り返るとステラとクロエがニッコリと笑顔でおり、ミレナが普通に腕を組んできた。当然のように笑顔で。
正直、結構こわいんだがその視線は漏れなくリアナに向かっている。リアナの方も対抗するように視線を向けている。……ステラがそんな顔を出来るのが俺は一番の驚きだよ。まぁ、女の子だったってことだね……。うん、わかってたつもりだけど、わかってなかったみたいだ。
「ユートくん、帰ろ?」
「来た理由はを聞いても?」
「ユートくんに会えなくて寂しかったから」
まぁ、うん。そうだよね。帰ろうか。俺もあまりこの空間にはいたくないんだよね。男からの殺気と言い、リアナの同僚からの温かい視線と言い、居心地が悪かったんだよね。
リアナにお願いして今回の報酬は均等に入れてもらい、俺の分は殆どを国王にいくようにしてもらった。で、カードを返してもらうとステラがその腕にやって来た。
「行こ?」
「そうだね……」
職員側からの視線を感じながら、足早に俺たちはギルドを出た。……本当に次からはステラたちの誰かに任せようかな? もうあの空間に耐えられそうにないんだけど。
外に出るとミレナが少し震え始めた。……やっぱり、怖いんじゃないか。ステラとクロエもそうだし、無理して欲しくなかったのにさ。
「で、寂しかっただけじゃないんだろ? なんで来たんだ? 俺は宿で待ってて、って言ったと思うんだけど」
「えっとね……なんか、ユートくんに泥棒猫が! ってな感じで私たちの直感が感じたので、来たの」
「それでその直感は正しかった?」
「うん。正しかった。あの女、またユートくんに迷惑かけて……」
ぎゅっとミレナとステラの手を握ると微笑みながらより抱きついてきた。ステラに目配せしてクロエにも頭を撫でると嬉しそうに近づいてきた。
……三人の怒りが上がりそうだったので下げたつもりなんだが、これは違う意味にとられたな。まぁ、別に良いか。リアナを庇う気はないし? 意図的に困らせられたのは事実なわけだし。
帰りにいくつかの食料を買って、宿に戻って来た。この宿って意外と融通が利くから便利なんだよね。
その割には泊まっている人が少ないみたいだけど、藪蛇にしかならないと思うので絶対に突かないが。
部屋に入ると早速と言って良い程みんなが抱きついてきて、ベットに倒された。……なんかここ最近、この展開が多い様な気がする。
「……ミレナって精神が回復するの結構早い?」
「ん? どうして」
「いや、常に俺の傍に居た、という前提では結構人前では平気みたいだったし。あの時のことから考えると、さ」
「……だって、このまま塞ぎこんでてもユートくんに迷惑かけるだけじゃない。そんなのはいやなの」
なんかふくれっ面になるミレナ。もしかして、なんか踏んじゃいけないスイッチ踏んじゃった? だとしたらちょっと罪悪感。
ふくれっ面のミレナは一度、俺の腕を強めに抱きしめると耳元までやって来て、「それに……」と付け加えた。……そんなエロくする必要ありましたか?
「それに……ユートくんと一緒に暮らすことと考えたら、ちっちゃなことだよ。ユートくんと離れ離れになることの方が怖いもん」
「……そうですか」
ステラはギルドでのあれはどうしたのか、というくらいに子供っぽく甘えてきて、クロエはちょっと頬を染めながら恥ずかしそうに。同じことを言われる。
……好かれてることは嬉しいんだけどね? その、さ、段々と近づいて来るのは止めてくれないかな? なんか襲われそうな危機感を感じるんだけど。
そこでミレナがニッコリと笑顔で首を横に振った。ミレナよ……読心術は元に戻ったのね。回復が早くて俺は嬉しいよ。
「ユートくんって私たちの小さな変化もよく気づいてくれるし、なんか思い出したら嬉しくて」
「お兄ちゃん、好きーっ!」
一斉に襲い掛かってこられて俺としてはどうしようもないんだが……何故かこんな感じも悪くない。この世界に来てからなんかよく自分の変化に気付くよなぁ。
まぁ、それでも貞操だけどだけは守るけどな!
読んでくれてありがとうございます。




