五十五話 いったい、なんの恨みがあるんだ……
ギルドに戻ってくると殺気と温かい視線が半々で俺に飛んできた。……もぅ、ここに来るのは止めようかなぁ。俺の精神が持たない。
「どうかしましたか?」
「この状況で平然とそんなことを言えるあなたは流石、一流ですね」
「ありがとうございます」
昨日の許可証発行の際でもお世話になった女性職員に皮肉も交えて話す。だが……この通り、皮肉が全く通じないので何とも歯がゆい思いだ。それに若干、天然な部分も入っている。そして、容姿も言うことなく良く、美人なのでステラたちからも少し拗ねられるのだ。
実は俺の殺気の視線の原因にはこの人も関わっている。まぁ、この人は全く以って気にしないと思うけど。
「それでご用件は?」
「あぁ、うん。この欠片の換金をお願い」
「お預かりします」
大量に欠片が入った袋は思いのほか重く、あの女性も受け取った時に一瞬、身体が落ちた。しかしそれもすぐに正して裏の方へと進んでいった。
それから数分ほど経って、戻ってきた。手にはトレーがあって、その上には硬貨が並んでいる。見る限り、そこまで大きな金額では無い様だ。もしかしたら、今回の場所は下層の中でも低いのかもしれない。それか不屈の洞窟自体のレベルが低いか。
やってきた女性職員はなんか恨みの籠もった目で俺を一瞬見たが……ミレナが即座に牽制したため、すぐに引っ込めた。あの視線の意味は……物凄く嫌な予感しかしない。
何のために? 多分、俺を困らせる方向で。
「今回は欠片は合計で百三十八個。合計額は十九万七千三百四十ルーツです。お確かめください」
最大で大銀貨、か。まぁ、元は取れてる訳だし四等分してもらおう。これで多少は借金返済に充ててっと、迷宮でも沢山稼げるように頑張ろう。勿論、ステラたちの協力が無いと土台無理な話なんだが。
金額はともかく、成長は十分に出来たので、修業的な意味ではいいかもしれない。これからは俺も参加できるようになっていこう。
「確認しました。ありがとうございます。それでは」
さっきから俺を見る目が波乱を呼ぶようにしか見えず、さっさっと立ち去ろうとすると呼び止められた。流石にここで無視するのは良くないので、振り向く。そこにはとっても笑顔の女性職員さんが。
「初日で下層をクリアし、一日でこの金額を稼ぐ貴方に興味が湧きました。差し当たっては明日辺り、食事でもどうでしょうか?」
その瞬間、周囲の主に男性陣からの圧がすごいかかった。言外から断るよな? という視線と、断るなんて失礼なことしねえぇよな? という矛盾した圧が俺に降りかかってくる。例の女性職員以外はあらら、と困った感じだ。その視線は問題の原因に向かっている。
だが、それともう一つ、三カ所から男性陣以上の圧がきているのだ。その圧を感じなくても分かる。断るよね? とそう言っている。
だらだらと冷や汗を流す俺を見てとても満足そうな諸悪の根源。…………いいだろう。その勝負と言っていいか分からないが、乗ってやるよ。ついでに俺をこんな窮地に追いやった原因も突き止めてやる。
分からないと対策の仕様が無いからな。同じ事を繰り返されでもしたら堪ったもんじゃない。この後のフォローまで残っているのに。
「ええ、良いですよ。明日の昼辺りにここに来ればいいでしょうか?」
「そうしましょう。お店は私のほうで見つけておきます。明日が楽しい時間となる事を期待していますね。あ、申し遅れましたが私はリアナと言います」
俺はリアナに別れを告げ、ステラたちを伴ってギルドを出る。男性陣から襲われないか心配だったが、建物内が騒がしくなったので恐らく、リアナに事情を聞いて、それどころではないのだろう。今の内に宿に帰ろう。
宿に戻ってきた。その間は特に絡まれるなんことはなく、平和に進むことができたのはよかった。だが、問題は帰る途中、ステラたちが一言も話さなかった事だ。
それとミレナの目が単一色となっていて、俺ですら恐怖を感じた。だから、平和と呼ぶのはちょっと違うか。
ステラもクロエも似た様な感じだったので、部屋に戻ったら絞られる事は確定だし、覚悟の上だ。あれを受けた以上は。そうならない未来が見えない。
部屋に戻ったステラたちはまず、武器などの荷物を部屋の隅に置き、ベットに並んで座った。真ん中に座ったミレナは単一色の目で俺を見てあと、目の前の地面に向ける。この間、一言も言ってない。
俺はそれに従って、正座をする。するとミレナの単一色の目に少し光が戻って、三人の目には非難の感情が混じるようになった。
……はい。それには甘んじて受けますよ。覚悟の上だからな。
「……ユートくん。なんでこの状況か理解、できてるよね?」
「はい。理解できてるし、覚悟もございました」
「ふぅん。覚悟までしたんだ」
あ、これ、選択間違ったら刺される奴だ。ミレナにはヤンさんが入っているなぁ、とは思ってたけど……本格的に刺される奴だこれ。
だって、目には非難とかの感情はあるんだけど、声が恐ろしく低いんだ。というか、段々単一色に戻っていってるような……。
「そこまでしてあの女と二人になりたいんだ~」
「私たちのことなんてどうでも良くなったのでしょうか?」
ステラとクロエも追撃。今回は俺が全て原因なので全て受け取る。しかも、俺自身に自覚があるのでその口撃は相当鋭く尖っている。心にグサグサと刺さりまくっている。
まぁ、仕方ない。俺が招いた事だからね。本当の原因はリアナだけど。今は逆効果でしかない。今は誠心誠意、全てを受けとめ、謝る以外の道はない。
♈♉♊♋♌♍♎♏♐♑♒♓
ステラたちの非難が始まっておよそ二時間。外も暗くなり、ステラ達の口撃は時間が経つごとにどんどん強くなっていき、最後の方になると涙まで流し始めてしまった。
また、最初はベットに座って上下がはっきりとしていたのに、いつの間にか俺と同じ目線で至近距離まで近づいている。
「……ユートくんは、私たちのこと嫌い? どうでも良くなったの?」
ヤンさんが完全に消えたミレナの瞳は涙で溢れ、捨てないでと言っているようにしか見えない。それはステラもクロエも同じだ。
この時間でいろいろ言っている内に様々な感情が溢れてきて、今では自分ですらもう止められないんだだと思う。俺にも経験が何度もあるのでよぉく分かる。
じゃあ、俺に何ができるか。当然、誠心誠意で正直に本音を言う以外の選択肢はありえない。まぁ、元を辿ればリアナの誘いに乗った事が始まりなのだが……今は考えても仕方ない。
まず、俺は目の前のミレナと目を合わせる。
「俺はミレナが好きだよ。あの時から大切に思ってる」
次に、ステラと目を合わせる。
「俺はステラが好きだよ。それにずっと傍に居てほしい」
最後に、クロエと目を合わせる。
「俺はクロエが好きだよ。クロエとはもっと思い出をたくさん作りたい」
「俺は三人のことが好きだし、ずっと一緒にいたい。リアナと比べたら当然、三人を優先するよ。まぁ、今回のは……意趣返しみたいなものだからさ、皆がどうでも良くなったわけじゃないから」
ステラ達は何とも釈然としていない。まぁ、それもそうか。目の前で浮気をしたと取られても仕方ない場面だったからなぁ。全員がクリティカルなんだが、ステラには特に酷いと思われたと思う。最悪、前回と同じ結果になる可能性もあった。
ある意味、同じ失敗を繰り返してしまったわけだが……一応、策は無いわけではない。三人の意識を反対にするような意見はあるにはある。
だがなぁ…………急いでいる気がしなくもない。どうせ遅いか早いかの違いなので、する事自体に変化はないんだが……残念ながら、今の俺ではこれ以上の策を思い浮かびそうにない。
「信じられないのも無理ないよな。三人を裏切ってしまったわけだし」
「えっ、でも」
「だから、代わりと言っては何だが、二年後には王都に戻ろうと思うんだ。結婚式を一年ほど早めようかな、と。それと三人のお願いを何でも一つ無条件で受けようかなと」
ステラたちの前で土下座しながらそう提案する。傍から見れば何とも情けない姿だが、ステラたちを思うとどうってことない。捨てられるというのは、いなくなるというのはそれだけ苦しいと何よりも俺が知ってるから。
下を向いているため皆の表情は分からないが、雰囲気でなんとなく慌てているような感じはする。
「……ほんと、ステラもミレナもクロエも俺にはもったいないくらい。俺なんかよりも似合う人物がいるんじゃないかと――」
「ユートくんッ!」
「ん? なに?」
「結婚の時期を早めることと、私たちのお願い何でも一つ無条件で、っていうのは本当?」
「本当。それでチャラに出来るとは思えないけど」
「じゃあ……子供を作りたいって言ったら?」
「長期的な拠点を作るのが前提ではあるけど、いいよ」
ステラからはお願いの回数は限度がないこと、クロエからは結婚を決して諦めないこと、といった様々な事を聞かれたのだが、全て受け入れた。
正直、これくらいで傷が少しでも癒えて、気にしなくなってくれるなら安いものだ。俺だって喜んで、なんて案件もあるくらいだし。
最終的には皆からは許しが貰えた。許して貰ったことはいいが、なんでみんな顔が赤いのかな? 一体これから何をしようとしてるんだい?
「ユートくん、最初のお願いなんだけど……」
「はいはい。何でしょう?」
「改めて……キスして欲しいな。愛情たっぷりで、濃厚なのを」
ミレナから言われた事はなんてことはない。いつもミレナ自身が行っていることだ。どちらかというと後者の方が強いが。
まぁキスをすることは別に構わないんだが、何故それで全員が顔を真っ赤にするんだ? 特にステラとミレナなんてむしろ積極的にくる方だろうに。
俺が不思議に思っている間にも話は進み、順番としてはクロエ、ステラ、ミレナとなった。
クロエが顔を真っ赤にしたまま、恥ずかしそうにしながらも、俺の方へやって来た。俺はというと、戒めのためというか、反省の意味も込めて現在も正座中だ。……本音を言えば、足が痺れて思うように動かせないだけなのだが。
そりゃあね、二時間も正座してたら、普通は痺れるよ。そういう練習をしてる訳でもましてや、知ってる訳でもないし。
「あの、ユート様。その、姿勢を楽にしていいのですが」
「あぁ。二時間も正座してたから、足が痺れちゃって。今は動けそうにないんだよ」
そう言うと総出で俺を動かして胡坐をかく体勢になった。楽な姿勢にはなったけど……両足の感覚がないや。流石にこれは魔法でも治せない系なので、時間が経つまで待つことにしよう。
俺のことは置いといて。クロエは再び近付いてきて、俺に身体を預けてくる。俺は片手を後ろに回して支え、もう片方はクロエの頬に置いて、顔を固定する。
当の本人は瞳がすごく潤んでいて、赤らんだ顔と合わせるととても少女が出せるとは思えない色気を放っている。……目が潤んでいるのはさっきまで泣いてたからだと思うけど。
まずは軽く触れ、離す。二度目は少し長めに。それから頬にある手を少しずつ頭の後ろへと移動させながらソフトな奴を何度と繰り返す。
回数を重ねていくとクロエが舌を出してきた。しかもそれに気付いた本人が今まで以上に顔を赤くしているので無意識だったらしい。
それで逃げようとしたのだが、既に両手でクロエを抱きしめる感じの体勢なので、逃げられない。まぁ逃がすつもりもないが。いや、だって、ねぇ。本人の両手は未だに俺の服を掴んだままなんだよ。
そのクロエの舌と俺のを絡め、優しさを意識しながら続ける。で、少しの間続けたあと離すと互いの舌が唾液で繋がって物凄くエロい。
それを見たクロエは頭から湯気が出そうなくらいに真っ赤になった。最後に額にキスをするとクロエは顔を埋めながら抱きついてきた。
やがて離れると今度こそ、頭を煙が上がりながら後ろを向いて体育座りになった。余程恥ずかしかったらしい。
その後のステラとミレナにもそれぞれに応じたやり方でキスというか、既にイチャついているのを終えるとベットに放られ、三人にくっ付かれる。それも今まで以上に、隙間すら見つからないくらいに。
クロエは未だに恥ずかしさが抜けていないみたいだが、三人はとても幸せそうである。
読んでくれてありがとうございます。
誤字脱字、ブックマーク、よろです。




