五十一話 くそっ。視線がいたい……
イシュテナに来るまでの途中にあった準主要都市のカラサネや、他の街や村でも三人の言動がちょっと激しかったので抑えるのに苦労したよ。原因が自分な時点で因果応報って事かな。物凄く否定したい気分だ。
まぁイシュテナに近づくにつれてそれも消えていったのは僥倖と言うべきかな。ただ、日頃の甘える行動の段階が一段上がった事はどうしよう……
現に今は幌の上で座ってる俺の上にクロエが座っており、俺が後ろから抱きしめている状態だ。……遠慮気味のクロエですらこうなんだぜ? ステラやミレナの場合、積極的にキスまで求めて来るようになってしまった。
それと(自主的に)ステラたちが桃色空間を作り出したりね。……ほんと、俺の羞恥心がマッハだったよ。
俺とクロエは特に話なんてしていない。ただ、周りを見ながら怪しい奴がいないかを見ているだけだ。それだけなのにクロエの機嫌はかなり良い。ローテーションで来るステラやミレナも機嫌は凄く良かった。
それを見ている依頼主さんが居心地が悪いのは当然だ。だが、それを見た俺も居心地の悪さを感じている。依頼主さんには申し訳ない。ちなみにステラたちは特に気にしてなんて無い。まぁクロエだけは少し遠慮してるが。
「ユート様そろそろイシュテナですね」
「そうだな……」
「その後はメルガスに行くのですよね」
確認するように聞いて来るクロエ。褒めて褒めてと聞こえそうな感じでこっちを見て来るので、よしよしと頭を撫でる。嬉しそうにはにかんでいるクロエは三人の中で一番妹っぽい。
本物の妹なんていないんだが、妹同然のステラはもうね、恋人みたいなポジションにいるんだよ。言葉だけだよ、妹感が出るのは。それとミレナは……何だろう、頼れる友人って感じか? ミレナには多少の本心は言えるし。いや、ステラやクロエに本音を言えないとかそういう訳じゃないんだけど。ミレナはこの中で一番一緒にいたって感じがあるからなぁ。
見張りをしながらクロエを甘やかしているとミレナが現れた。そろそろイシュテナに着くので馬車の中に戻って欲しいと依頼主さんに言われたそうだ。いつまでも幌の上にいると悪目立ちするから、と。
俺も近くなったら中に戻る予定だったのでミレナの魔法で戻った。
馬車の中では直ぐにステラがやって来て、俺の右側を陣取る。ミレナは左側を、クロエはそのまま俺の膝の上を陣取った。日によって三人の位置は変わるが、いつものフォーメーションだ。三人とも満足そうである。
主要都市イシュテナは迷宮国メルガスとの交流が盛んな為、結構荒くれ者が多い。分かりやすい例えならチンピラみたいな奴が多いということ。普通にしていれば絡まれる事なんて無いし、彼らと関わらない様にすれば問題はそんなにない。
まぁ、何が問題かと言えば決まっている。ステラたちだ。いや、ステラたちが悪い訳じゃないんだが、三人とも美少女っぷりが半端ないので見る人見る人の視線が刺さりまくるのである。恐らくそれはチンピラも同様。であれば絡まれない道理が無い。
別に今絡まれてるとかそういう訳じゃないよ。今は馬車の中でイシュテナに入るのを待っているところだ。だが、確実に絡まれる。そこで俺が一番問題だと思うのが彼らに絡まれた後なのだ。
こちらも確実にステラたちの機嫌が悪くなる。その機嫌を直すのに結構な時間と労力と精神力が使われるのだ。願わくば絡まれませんように……
俺がそう願いながらステラたちは気ままの状態でイシュテナに入った。依頼主さんの目的の場所に着くと依頼完了のサインとかを貰ってギルドへと向かう。その間も絡まれませんように~
この都市はメルガスとの交流が多いので人が非常に多い。なのでギルドもそれに合わせて大きいんだが、予想以上だった。
三階建てなのはおおよそ予想通りだ。たぶんそんな感じだろうな、って予測は出来てたし。それにしてもね、敷地が広い。ミレナの屋敷とそんなに負けないよ?
中に入るとまぁまぁな数の人がいた。アルトネアは穏やかな感じなのでそこまで騒がしくないのだが、ここは結構騒がしい。まぁそれだけ活気があることなのでいいことだ。
だが、よくよく観察すると騒がしい原因は俺のすぐ傍だった。言うまでもなく、ステラ、ミレナ、クロエである。ちょっとだけ声を拾ってみるとお前が声をかけに行けよとか、あの子たち凄い可愛いとかのものだったのでこれなら……うん。思った以上のことにならなそう。
ステラたちも褒められていることが分かったのか、ちょっと得意げだ。ミレナなんかは小声でどうだ、と言っている。俺は勿論、可愛いよと返したよ。実際、ミレナは可愛いので嘘は言ってない。
受付嬢の人に依頼の報告をして、報酬は均等に分ける。それで俺の分は少しを残して国王に送るように手配して貰った。ちなみに今回の報酬は大銀貨四枚。合計してもまだ一割すら遠く感じる……流石に険しい。わかってるけど。
今日はこの後宿を取って休んだ後、定期的に出されている馬車に乗ってメルガスへ行く。そのためにも早く宿を探したいのだが……案の定、絡まれた。それもご丁寧にギルドを出てわざわざと。とても暇なようだ。
「へい兄ちゃん。綺麗どころを三人も侍らせるたぁ結構じゃねぇか。一人くらいわけて貰えねぇかな?」
いったいどんな演技をしてるのか、と聞きたくなるような台詞を息をするかのように言うこの男性には呆れを通り越して一見凄そうに見える。いや、実際は凄くもなんともなく、ただ迷惑なだけだが。
ミレナなんてちょっと珍しそうに見てるし、ステラとクロエは興味すらないみたい。まぁ俺も関わる気ゼロなので無視する。
相手をするどうなるか、そんなことは今まで何度も経験している。その度に俺が疲れることになるんだ。ミレナも一瞬だけ珍しいと思ったみたいで既に興味は微塵もない。
男とは反対の方向へ四人でスタスタと歩いていく。三人とも話はこの後のことにシフトしており、さすがにほんの少しだけ可哀そうだ。まぁ、俺のほうも後ろからちょっと声が聞こえる程度のことなので気にしてないといったらそうなる。
男の声が聞こえなくなってから二時間ほど。完全に観光に移った三人を見守りながら辺りに宿が無いか探す。ステラたちが買い物をしてる間に見つけた宿を当たったが、二人部屋ないし三人部屋はすべて埋まっており、四人部屋などはなかった。
もし、一人部屋に泊めさせたら既成事実を作られること間違いない。だって、俺が宿に行こうとすると必ずミレナと目が合うんだ。ここから先は察してほしい。
それで宿の数が二けたに行く前になんとか三人部屋が空いている宿が見つかった。ステラたちもいろいろとショッピングができて満足そうであった。
……はい翌日。昨日は何もなかった……とまではいかないがそれほど大変なことはなかった。宿に見たことのある人がいた、なんてこともなかったし。
メルガスに行く定期馬車は一日に二回行われる。早朝、午前中の二つだ。ここから最も近い街まで一日かからない程度の距離なので定期的に出せているそう。ちなみに宿を探す途中で定期馬車に予約してきた。午前中の分で。
どうも早朝はやる気が物凄いある者が積極的に取るみたい。俺はそんな二つの意味で面倒なことはしたくない。よって、午前中にしたわけだ。
宿を出て定期馬車のところへ向かう。せめて、一つ気を付けてほしいことは俺の膝の上に座るという行動をしないでほしいことただ一つだ。昨日それを言ってちょっとだけ言い合いになんだよなぁ……
結果から言おう、守って貰えなかった。今俺の膝の上にはクロエが鎮座しており、頑として離れる気配がない。ステラとミレナはいつものように隣で俺の腕を抱きしめている。
まさか、いつも以上にクロエが消極的だったとは……! 確かに消極的だなぁ、とは思ったが……策略だったのね。さすがですミレナさん。毎度のことながら脱帽ですよ。
そのミレナは俺を見てどうだと言わんばかりに凄い笑顔だ。たぶん、これ傍から見ればイチャイチャしてるようにしか見えないんだろうな。俺がその立場だったらそう思う。だって、事情を知らなかったらかなりいい笑顔なんだよ? 今のミレナって。
残りのステラとクロエは普通にご機嫌だ。クロエはちょっとだけ離れないように気を付けてる。
さて、ここまで来たら分かるだろうが周りからは物凄い殺気が飛んできている。その主は勿論同じ乗客者である。全員漏れなく男だ。三人の美少女を侍らせているのを間近で見たらそりゃそうなる。俺の場合はふーんで終わるけどさぁ……。
「なぁミレナ……」
「……」
「おーい」
「……」
「ミレナさーん……」
「……」
俺の呼びかけすべて無視である。聞く耳を全く持ってくれない。あ、ステラとクロエは最初から聞く気が無いので除外ね。それもミレナから指示されたんだろうけど。
ミレナは俺の呼びかけには応答しないが、俺に体をさらに近づけて甘えるような目でこちらを見ている。その行動にどこかから舌打ちが何回か聞こえた。
……ミレナさん、メルガスに着いたら何かするので抑えてくれませんか? そろそろ俺、本気で視線に耐えきれなくって来たんですけど……。
「……うふふ、楽しみ」
俺の思いを見事に読んだミレナはそう言って少し体を離してくれた。ついでに腕のほうも腕を組んで指を絡めるくらいまで下がった。ステラとクロエも少し抑えてくれた。
……やっぱり作戦でしたね。いや、分かってたけども。あからさま過ぎたし。でも……尻に敷かれてるなぁ。まだ結婚してないのに。まぁ、悲しまれるよりかはいいけどさ……なんか複雑。
三人ともいつもより少し抑えた状態で自由にし始めた。周りの視線など全て無視、シカトである。興味が無いことを表しているも当然なので俺への殺気が大きくなった。
俺の気の休まる時間がない……早くメルガスに着いてほしいなぁ……
読んでくれてありがとう。




