四十六話 またこの展開か……
〈旅人の宴〉までは特に何も起こらずその日はステラたちのフォローで何とかなった。色々と大変だったのでお仕置きは少し厳しめに行こう。精神攻撃は確定だな。
問題は領主の屋敷まで行く途中だった。予想通り、あのガキの刺客らしき方々が襲って来た。まぁステラたちが万全の状態で辺りを警戒していたので手を出す事すら出来なかったけど。彼女たちは本気で隠蔽した俺ですら余裕で見つけられるのだ、碌に隠れようとしてない奴らを見つけられない筈はない。
ちなみに俺の隠蔽技術はバルガーですら見破れなかったほどだ。そう考えるとステラたちの補足スキルは天井知らずである。
そういう事で今は屋敷の応接室、つまりは昨日来た部屋で時間が来るまで寛いている所だ。寛いでいるのは俺ではなく、ステラたちなんだが。
領主さんもあっちの相手をしたら俺たちの方にも来るそうだ。
「……それにしてもああいう所はしっかりとしてるよね」
「バレたら面目丸潰れだからね。そこら辺は抜かりないだろうさ。それでも護衛をしてくれた事はありがと」
さっきまでぶつぶつと文句を言っていたミレナは撫でられただけで表情を崩した。ステラとクロエも同様の反応を見せるのだが、それが俺だけと言う辺り本当に徹底している。何がとは言わない。
最終的に昨日と似たような感じになった所で領主さんが入って来た。その顔はちょっとだけ疲れている様に見える。
……日頃迷惑を掛けられ、今回の決闘騒動。色々と疲れてるんだろう。間接的とは言えこちらにも非が無いとは言えない。声くらいは掛けておこう。
「お疲れ様です」
「あらら。分かるかい?」
「随分と振り回されているんでしょうね」
「まぁね。昨夜なんて酷いもんさ。何もされてないのに、ユートくんから襲われただの言うものでね、そろそろ本国に帰っていただきたい」
領主さんの後半の言葉にはかなりの本音が見て取れた。昨日今日知り合った俺たちにそこまで言うって事は相当迷惑が掛かってるんだろうなぁ。まさに百害あって一利なしだ。
話を変える様に領主さんは俺とステラたちを見て羨ましそうにしていた。あれ? 領主ならとっくに結婚してるんじゃないのか?
「どうかしましたか?」
「……いやね、私も君の婚約者達みたいに癒してくれる子が速く欲しいなと思ってね」
「ご結婚されてないのですか? この都市を治めるならそれくらいは既にしていそうなのに……」
「私がサリレの領主になったのはつい最近の事なんだ。その直後にあの嫡男君がやって来てね、話が流されてしまっているんだよ」
やれやれと言った仕草をしながら領主さんは軽く目を瞑った。……うわぁ~大分疲れてるなぁ。これは早急に帰ってもらいたいな。俺たちの平穏の為にも。
その後も軽く雑談でも交わしながら時間を潰していると予定の時間になった。俺たちは兵士の方に案内されて訓練場へと向かう。領主さんは少し前に向かった。
訓練場は野球の試合会場の観客席が無いバージョンの作りだった。その会場で今回の原因が俺たちとは反対側で仁王立ちの構えで待っていた。如何にも俺が偉い! なんて聞こえて来そうな出で立ちだ。早速ステラたちの温度が低くなった。
取り敢えずステラたちには見学席に移動して貰う。このままじゃ、俺がする前にあのお子様が始末されそうだったし。彼は無差別に迷惑を撒き散らす迷惑神か何かだろうか? 俺も領主さんも心労が酷いぞ。原因はそれぞれ違うが。
審判は領主さんの部下の一人だ。公平な判断をするには外せない事だな。あっちが負けた時にごねられても困る。
「それでは始めます。……始め!」
審判の合図と同時に周囲から十人ほど人が現れた。相変わらず仁王立ちのままのあの子は口元がにやけている。あのガキに雇われたであろう冒険者十二人は俺から逃げ道を無くすように周囲を封じて来ている。
「この卑怯者!」
「条件には最低はあっても最大はない。こちらが幾らいても問題無いだろう?」
ミレナの抗議はしかし、条件的には間違って無いので審判の人も少し苦い表情ながらも首を横に振る。それからミレナを含む三人ほどの気配から凄い寒気が飛んで来た。
完全に凍てつきそうなほどの冷たい視線が彼らに突き刺さる。ただ、こっちを何回か見て来るので俺を考慮してくれてるお陰でまだ行動には移していない。まぁ俺を囲んでいた冒険者たちはミレナたちの視線を受けて即リタイアしていったが。いやぁ、隠れて一人ずつ戦力を潰そうと思ってたんだけど手間が省けたよ。
後ミレナたちには首を振って止める様に伝える。渋々ながらも三人とも席に座ってくれた。かなりむすっとしているので機嫌を直すにはそれなりの時間が掛かりそうだ。
うーん。それにしてもどうしよう。お仕置きと言っても特に何も考えてないからなぁ。さてさて、面倒を掛けてくれたお礼はどうやって返そうか……。
ちなみにこの間、四人はミレナたちの視線のお陰で全く動けていなかった。特に仁王立ちしていた子供くんなんて足がガクガク震えているのに強がって仁王立ちを解かずにこちらを睥睨している。明らかに強がりだ。
馬鹿だよね。俺が好きとか以前にミレナたちは他人を使った搦め手は大嫌いなのだ。自分で率先して行う搦め手はよく使うんだけれど。俺なんて被害者と言う面で良く被害に遭っている。三人の中でもステラが一番怖い。視線だけで人一人を殺せそうなくらい睨みつけている。
「タイム!」
心の中でそう言いながら審判に決闘の一時停止を求める。流石にこれじゃ決闘の意味がない。後、ステラたちが爆発する前に一回止めないと。
審判の人も少し震えながら決闘を一時停止した。あぁ、そう言えばステラの視界に入ってたましね。確かに怖いっちゃあ怖い。表情を見るだけでも逃げ出した方がいるくらいだ。取り敢えずステラを落ち着かせないと。流石にミレナとクロエは冷静になってるし。
見学席に戻って来たらまずステラを振り向かせる。犬歯まで剥き出しにしていたステラは俺を見ると段々と戻って来て最後には抱き着いて来た。
「お兄ちゃん……あいつが……卑怯を」
「そうだね。でも俺の代わりに怒ってくれてありがとね」
「でもぉ……迷惑がぁ……」
「大丈夫だからね。よしよし」
ぐずり始めたステラをあやしながらミレナたちにもフォローを入れておく。機嫌が良くなったらしいミレナとクロエは俺をベンチに座らせた。ステラは俺の右腕に顔を埋めた状態に移動し、ミレナが左腕を、最後に珍しくクロエが膝の上に座った。そして、各々が好きなように甘えている。
突如、視線を感じたのでそちらを見ると物凄い目つきであの子供がこちらを睨みつけていた。
「ねぇ、ユートくん。あいつ殺して来て良いかな?」
「ダメだって」
「……むぅ」
「後で憂さ晴らしに付き合うから」
「やたっ。約束だよ。忘れないでね?」
クロエからも視線を頂戴された。頷く代わりに頭を軽く撫でるととても満足したようでかなり機嫌がよろしい。その時に右からステラが服の裾を引いた。……あ~ステラもね。分かりましたよ。
ステラも撫でると腕に抱き着いて来て機嫌がいい。ぐずりは止まったようである。
そろそろ大丈夫だろうし、再開しようかな。そう思ってクロエに退いて貰って見学席から出ようとするとミレナに止められた。
「んっ」
「あの、ミレナさん? それは何をお求めで?」
「んっ」
服の裾は掴んでいるくせに目を閉じて唇をこちらに突き出している。取り敢えず惚けてみた。いや、何をしたいのかは分かるよ? でもね、流石に今ここでするのは如何なものかと。
合わせる様にステラとクロエも同じ事をし出したし。
「んっ」
「いや、あのね」
「「んっ」」
「待て。一回話し合おう」
「「「んっ!」」」
「……はい。分かりました」
傍から見れば血涙を零されそうな光景。三人の美少女からキスをせがまれると言うこの状況。せめて状況がまともなら俺も拒否はしなかった。婚約者だし。だがな、片や微妙な表情でこちらを見る領主、片や呪い殺さんばかりに鋭い視線の嫡男とその取り巻き。
この状況をご褒美と思うなら是非、その思考回路を尊敬するよ。少なくとも俺は平気ではいられない。
……で、三人にちゃんとキスをした後、戻って来ると俺を射殺さんばかりな眼の彼がこちらを黙って見ていた。何か嫌な予感しかしない。どう転ぶかは分からないけど。
審判の再開の合図と一緒に四人が二手に分かれて左右から仕掛けて来た。あ、これマジで殺しに来てる。さっきまでのいたぶる気とか無い奴だ。
あの子供と取り巻き一はそれぞれ短剣の二刀流と長剣を、取り巻き二と三は魔法詠唱に入っている。その息ぴったりな動きはそれだけ訓練して来たものだと分かる。見事なコンビネーションだろう。
ただなぁ……残念な事に多分これで終わると思う。
いつもの隠蔽コンボで隠れると四人とも俺を見失った。辺りをキョロキョロしてるんだけど俺を見つけられない事に余計に焦ってらっしゃる。
地面を見たりもしてるんだけど足跡すら分からないみたいだ。ちなみにここの地面って土だから足跡とかって結構分かりやすい。まぁ今の俺は風を応用して足跡を付けない様に移動してるから分からないのも当然だけど。
俺の場合はゆっくり移動するくらいしか出来ないけどステラとミレナは高速で移動しながら攻撃まで出来るんだぜ? 最初に使っていたの俺なのに。彼女らはどこまで成長するんだろうか。世界最強? ……なりそうな気がする。
いや、それは兎も角。俺は一先ず多数相手の戦闘における定石、遠距離の取り巻き二と三を潰しに掛かる。
まずは足首を切って動けなくして、っと。槍で払うとそれぞれの片足の健が切れてその場に倒れた。実は武器も刃を潰したり、木で出来た物じゃなく本物だ。まぁ切った所で後で治せるから遠慮はしないけどね。
後は短剣を首筋に当てて二人をリタイアさせる。これであと二人。まぁこの手もこれくらいのレベルだから使えるんだよね。バルガーとかステラたちには即座に看破されて特にステラたちには甘えられるんだ。一度やって経験したからね。あまりにも簡単に見破られてかなり精神が削られたよ……。
「くそっ。何処だあの野郎。俺の将来の嫁たちに勝手に触れるなんて許されざる行為だ……!」
かなり怒ってらっしゃる。だが、一つ言っておきたい。ステラたちはお前のものではない。彼女自身のものだ。……俺は若干、所有権が誰かさん達に奪われてる気がしないでもないが。そして、自慢じゃないが彼女たちは俺になら喜んで渡して来る。条件に俺も渡さねばならないが。
じゃあ……今度は取り巻き一をリタイアさせよう。じわじわと精神的なダメージになれば良いんだけどね。違う意味では入ってるんだけどさ、ダメージ。それに関しては少しだけ申し訳ない。
取り巻き一の背中に飛び付いて首筋に短剣を。ついでに隠蔽コンボの効果内に入れて取り巻きの姿を見えなくする。一人一人自分の仲間が倒されていく。そして最後は……ってな感じで精神的に傷が入れば良いけど。
まぁ今回のお仕置きはもう少し酷かったら今みたいな明るい場所じゃなくて暗い場所で最低でもトラウマを植え付けさせるね。
それから隠れる事数分。流石に恐怖が顔に出始めた所で隠蔽系を解除する。念の為、取り巻き一も切っておく。これで痛みに悶えるので邪魔は入らない。
俺を取り巻きを見つけた子供くんは涙目になりながらもこっちに突進してきたので石突きで両方の短剣を弾いて、脇腹に槍をくっ付ける。普通に考えたら大したダメージは入らないんだが、そこはステータスの力。今の俺でも力を入れて振れば肋骨ぐらいは砕けるだろう。あわよくば内臓に重大なダメージも期待できる。
とは言えそんな手は使いたくないのでここはリタイアしてくれる事を祈ろう。
「………………くそっ。降参だ」
「終了。勝者はユート!」
審判が結果を下した事で決闘は終了して、一先ず勝つ事は出来た。ステラたちがこっちにやって来るのが視界端に見えるんだが……流石に止めてあげて欲しい。この子のライフはそう言う意味では既にゼロだ。させた本人が言うのも何だけど。
読んでくれてありがとうございます。




