四十五話 ……傍迷惑だなぁ
最初は四人組かと思ったんだが、近くからぞろぞろとお仲間が増えて来た。こいつ……護衛が増えてやがる。増えた人数は最低でも十人はいるし……どんだけステラたちを自分のにしようとしてるんだろうか。まぁ束になっても三人には勝てないだろうけどね。
……あぁ、俺なら負ける。彼女達みたいなチート能力は俺には無い。
「お前はクロエだけでなく、ミレナとステラまで……強欲な奴だな。己の立場を弁えないとは恥を知れ」
あの子は自分の言ってる事がブーメランだという事を分かっているのだろうか。証拠に後ろの護衛の方々の数人が笑いを堪えている。あ、よくよく見ると最初の三人以外は特に忠誠心とか無い様だ。笑ってない奴らも可哀そうな子供を見る目で彼を見ている。
そんな事を言ったら最悪、外交問題になるので言わないが。下手したらクロエに迷惑が掛かる。
まぁ外交問題なんて今の状況からは些細な事。ステラ達の中で特にミレナは俺が侮辱されるような事を言われる時には沸点が物凄く低くなる。俺を尾行していた時、ステラと絡まれた時は振り切ったのに今は殺す! とでも言いたげな表情と冷ややかな目線を向けているのが良い証拠だ。
手を握っているので現在はそこまでに抑えて貰えているのだ。放していたら彼らは今頃、血祭りにあげられていたに違いない。若干、俺もイラついているとは言えそうなったら目覚めが悪い。後、ミレナが後悔しそうだ。
ステラとクロエも相当機嫌が悪いのだが、ステラは自主的にくっ付く事で、クロエは近くにいる事で何とか冷静を保っているという状況だ。それによって貴族の嫡男君の視線が鋭くなっているのだが、ステラたちに比べれば柔らかい風と変わらない。
「……いくら欲しい?」
おぉっと、いきなりお金で要求して来たぞ。元々ステラたちを渡す気なんて更々無いんだが、よりその意志が固まったな。この子どもの家となら全面戦争でもして良いかなと思えて来た。
それと何気に野次馬が集まって来ている。この子どもの所為で必要ない注目を集めてしまっていた。何やらザワザワと外野が煩い。
「……はっ。黙れガキが。子供の分際で他人の婚約者に手を出そうしてんじゃんねぇよ。いい加減にしないと殺すぞ?」
「き、貴様!? 俺に向かってなんて事を……! 外交問題にするぞ!?」
「好きにしろ。……直ぐに親の権力に頼るような雑魚が良くもまぁ、人の婚約者を寄越せだなんて言えるもんだな?」
外野のザワザワがさらに煩くなって来た。もうそこは良いや。いい加減にこっちも我慢が限界なんだ。必要ない注目を集めさせられ、偉そうな態度で命令、相手の事なんて微塵も考えてないし、挙句の果てにはステラたちを寄越せ……この世界で初めてだよ、ここまでイライラしたのは。しかもステラたちをお金で買えると思ってる、ちょっとお仕置きが必要だね。
お子様は真っ赤になってぷるぷると震えているが……正直、外交問題にしたければすればいい。その場合はあらゆる手を尽くしてお前を滅ぼせばいいだけだ。
皆には色々と迷惑を掛けるだろうが、最終的には分かってくれるだろう。……その場合、ステラたちに俺の全人生を捧げて納得して貰えるかが一番の壁であるが。
「……決闘だ」
「は?」
「良いから俺と決闘しろ。お前には目に物を見せてやる」
「断る。どうせ勝ったらステラたちを寄越せ、だが俺の場合は特に何も無いんだろ? メリットが一つも無いのに誰がそれを受けるか」
そこで外野の中から兵士の人達がやって来た。ここまでの騒ぎになっているし、来るだろう事は予想できた。これで事態が解決してくれれば本当は一番楽なんだが……上手く行かない予感しかしない。
あのお子様から話を聞いたらしい兵士の方は今度はこちらにやって来た。さてさて、あいつはどこまで話に嘘を盛り込んだのか。大体の確率で自分の都合のいいように事実を捻じ曲げるんだよ、こういう時って。しかも中途半端に影響力があるから悩みの種にしかならない。
「……すまないのだが、領主の屋敷まで来てくれないか?」
「何故でしょう? 俺たちは何も悪い事なんてしてませんよ?」
「それは分かってるんだ。だが、あの方はスカイヘア王帝国の重要人物の嫡男様でね、下手な事をすると外交問題に発展するんだよ。君もそこまで事態を悪化させたくは無いだろう?」
兵士の方の顔は強い疲労の色が見て取れる。結構こういう事が多くて大変なんだろう。他人に迷惑しか与えないなんてとは……傍迷惑すぎる。
外交問題になっても構わないんだが、その時を考えると出来るだけ無い方が良いのは明白だ。まぁ……決闘する事になったら間違いなくあっちに有利な条件になるだろうし、骨折り損する可能性が物凄く高い、と言うか確実だろうなぁ。その時はその時で憂さ晴らしでもするとしよう。
……後はなるようにしかならないだろうし。
ステラたちから行こう、と催促され、兵士の人に付いて行く事を了承する。彼はそれを聞いて凄く安堵していた。
兵士の人達に付いて行く事少し。ここの領主の屋敷はアルトネアの時と同じように豪華な作りをしてるんだが、商人から貴族になった為か効率を重視した雰囲気がある。最初から貴族の人達の様に無駄に煌びやかという訳じゃなく、実用的な感じだ。
まぁ別にアルトネアや王都の貴族たちが悪いと言いたい訳じゃない。寧ろあの装飾は他国の使者とか貴族がやって来た時の為だとリュートさんから聞いている。仕方ないのだろう、貴族とは見栄を張らないといけないそうだから。
これを聞いた時は絶対に貴族になんてなりたくないと真剣に思ったものだ。
それはさて置き、俺たちは応接室に案内されそう時間が経たないうちに誰かがやって来た。案内してくれた兵士の人が頭を下げてる事からこの都市の領主かな?
「いや、急にこんな事になってしまって申し訳ない。私はこの都市を治めているヴェルト・サリレ・リベルターレだ。それで君たちは……おや、そちらにいるお方はクロロリーフェ様ではありませんか」
「彼女をご存じで?」
「前に一度だけ見た事があってね。ただ挨拶はしていないので知らないのも無理は無いでしょう」
クロエが頭を捻って思い出そうとしているのは可愛かったんだが、話が進みそうにないので本人に聞いてみた。流石に近くにいただけの人を全員覚えるなんて難しいだろう。
クロエは知っているようなので俺、ステラ、ミレナの順で自己紹介をする。俺には軽く頷き、ステラとミレナには家名を聞いた時にちょっと驚いていた。あぁ、流石に知ってるよねアルトネアを治める伯爵とその都市を守るリュートさんの娘なんだし。
「……ユートくんは彼女達に凄く慕われてるんだね」
そう思われるのも仕方ない。何せ、ステラは俺の膝の上に座っており、左右からミレナとクロエが傍に居る。しかもステラは明らかに警戒してるし、ミレナとクロエも表に見せてないだけで多少の警戒をしている。
それを見抜いてそんな事を言って来る辺り、優男の様な感じをして流石は領主といった所か。
「さて、前置きは兎も角、まずは謝らせてくれ。こちらの不手際で嫌な思いをしたと聞いた。それは今も彼女たちが警戒してるのが何よりの証拠だ。だけど、こちらにも事情があってね、謝罪を受け入れてくれるとありがたい」
いきなり頭を下げられた。取り敢えずステラたちに反応を仰ごうと視線を向けると全員が俺に任せると訴えて来た。いや、ステラは良いとしてもミレナとクロエはダメなんじゃないか?
「……謝罪は受け入れるので頭を上げてくれませんか? 一都市の領主が簡単に頭を下げてはいけないと思いますよ?」
「おや? 案外優しいんだね。オルストロ家の嫡男にはかなり厳しい言葉遣いだったと聞いているけど」
「いえ、それは彼が俺に対してマイナスが大き過ぎただけで、初対面の相手にそんな事は言いませんよ。それに彼と初対面の時も丁寧さを心掛けましたし」
「ふむ。リャーユ君の事実と異なるがどちらが正解だと思うかい?」
「まだ前置きが続いてるのですか? でしたら本題に入って下さい。……貴方なら分かっているんでしょう、彼が嘘を吐いてる事くらい」
領主はバレたかみたいな感じで少し微笑んだ。この人、見た目に寄らず遊びが好きなようだ。俺の最後の言葉にも普通に頷いてたし。
という事は俺の言いたかった事も大体予想がついてるんだろうな。いい加減、こっちはステラたちのフォローが必要なので要件は速く済ませたい。ミレナが大分フラストレーションが溜まってるし、放置したらそれこそ大変な事にしかならない未来しか見えない。
「君の人格を少しでも知りたかったんだ。クロロリーフェ様はかなり警戒心が強かったからね。ステラさんとミレナさんも似た様な感じだし、そんな彼女らに慕われる君がどんな人間か興味があったんだよ。本題の内容は直ぐに終わるからね」
領主から聞いた本題は要点をまとめると決闘をしろ、という事だった。子供の駄々だなぁ、と思うんだが権力と言うのは厄介で普通に突っぱねるのも後の問題となる可能性があり、出来ない。問題を解決するのならばやはり彼の要望を叶える必要があるそうだ。何と面倒くさい事この上ない。
この際、決闘を受け入れるとして一体どんな条件なのだろうと聞いてみた。まぁ聞き終わった後のステラたちの怒りが数段階上がったけど。抑えるのに少し苦労した。その様子を見ている領主は少し腹黒いと思う。
では今回の決闘の条件はこうだ。
・俺は一人であっちは最低四人で決闘を行う。
・互いに全ての力を使っても良く、どちらかが全員リタイアするまで戦闘は続く。
・お互いに相手を殺した場合は失格となる。
・決闘に勝った場合、俺は金貨三枚あっちはステラたち全員を貰える。
・開始時間は明日の昼から無制限。
と言った感じで終始俺に振り過ぎる要求であった。俺はこれを聞く前から彼には少しキツイお仕置きをするつもりだったのでその口実が出来たのは僥倖なんだが、ステラたちはかなり憤慨している。これを放置していたら確実に彼を始末しに動く事だろう。
まぁ普通に考えたら始末は余計だとしても怒る事は当たり前だな。俺は怒りを通り越しているのでそう思わないだけで。
場所はこの屋敷の訓練場。昼から始めるそうだ。遅れた場合は不戦敗として処理されるとの事。如何なる理由も通じないらしい。
ここまで全てを一人で提示したと言うのだから呆れを通り越して感心さえ覚える。よくもまぁここまで自分に有利な条件を平然と並べられるものだ、と。もしかしたら彼にはこれが平等な条件だと思っているのかもしれない。だとしたらおめでたい事だな。
「そういう事だから今日はこの屋敷に泊まる事をお勧めするよ」
「いえ、そのお気遣いだけで大丈夫です。どちらにせよ、決闘前に邪魔が入る事は決まってる様なものですし。それにこの屋敷には彼も泊まっているのでしょう? だったらステラたちが暴走しそうなので」
「あはは……」
流石の領主でもミレナの圧はダメなようだ。ニッコリ笑顔のミレナに圧倒されて乾いた笑いを浮かべている。完全に表情が凍りついていた。
この中でミレナが一番危ないので少し粗めに頭を撫でるとちょっと奇妙な声を上げてさっきまでの冷たい表情を崩して甘えて来る。ステラとクロエからも視線を感じたので同じようにするとミレナと似た声を出しながら甘えて来た。
それを見ていた領主はちょっとだけ顔が引き攣っていたと思う。
「……君は凄いね」
「ありがとうございます。それとステラたちは敵にしない方が良いですよ」
「確かにその方が良さそうだ」
俺は模擬戦において本気のステラたちには勝てた事がない。模擬戦全体を見ると勝ってるものもあるんだが、その全部がステラたちの攻撃方法を制限したり、俺にかなり有利な条件であったり、単に甘えて来たいだけであったりと碌な理由じゃない。
模擬戦云々は置いといて、領主に別れを告げ屋敷を出る。外は既に日が暮れそうなくらいになっていた。
読んでくれてありがとうございます。




