四十四話 サリレでデート……クロエVer
サリレに着いて二日目。今日から三日連続でステラたちとデートをすると言うメニューが組まれている。順番はクロエ、ミレナ、ステラだ。偶然なのか左から順にここに来るまに大変だった人たちの順番だ。珍しくステラが一番楽だった。
……公言しなくてもとある方に心を読まれたら何を要求されるか分かったものじゃないので、これ以上は考えない様にしよう……
今日はクロエの番なので俺は〈旅人の宴〉の入り口で待っている。……かれこれ三十分ほど。敢えて収穫があったとすれば全員の凡そのプランが出来た事だろうか。ミレナとクロエは殆ど同じようなものだけど。
いやぁあの二人さ、ここ最近精神的なダメージが深いからそこを中心として。ステラはいつものとそこまで変わらない。
欠伸の一つでも出るくらい時間が経った頃、クロエたちがやって来た。クロエの服装は町娘風のワンピースを少し上品にした感じ。王女と言う身分のクロエにとても似合っている。それに薄くメイクをしてるみたいだし、髪もちょっと変えている。ついでに言うとほんの少しだけ良い香りがする。
まぁ要するに何が言いたいかと言うと……気合い入れ過ぎじゃない? デートが初めてという訳でも無いだろうにさ。いつも以上に力を入れて来てるよね、ミレナさん? 俺はその理由が聞きたいなぁ。
「……少し聞きたいんだけど、気合を入れ過ぎなんじゃないでしょうか。ねぇミレナさん?」
「だって、ユートくんが言ったじゃない婚約者だ、って。それもあんな所で。だったらもう遠慮しないで良いかなと思って」
頬を少し膨らませて起り気味のミレナさん。いや別に貴方を責める訳じゃないんですよ? 少し気になっただけで……
ちなみにミレナはこの手のメイクが得意だ。その人を最大限に美しく見せる様な技術は地球のとこの世界でのを合わせたミレナオリジナルらしい。確かにメイクをすると魅力だ何段階も上がるので女性ってメイクで化けるんだなぁ……って初めて見た時にはっきりと思い知ったよ。
とは言え、普段も多少はする。だが、今回の気合はそれ以上だった。理由を考えるとむず痒くなるんだが……
この調子だとミレナもステラも同様の事をしてくる。確実に。そこまでされたらちょっと理性が危ないかもしれない。まだ旅が始まってそんなに経ってないのに俺の意志がそこまで弱くない事を俺は信じたい。
「……ふふふ。楽しみにしててね、ユートくん」
しっかりと聞こえていたらしい。俺の心の声を聞こえているのも可笑しな話だが。本当、エスパーさんの前では碌な事は言えない。
さて、俺は今までクロエを最初以外は敢えて見ない様にしていた。ミレナに話しかけたのもその一つだ。
では何故クロエを見なかったのか。理由はほら……言っただろう? ミレナがメイクをすると魅力が何倍も上がるって。……つまりはそういう事だよ。うっかり見惚れないようにしてるんだよ。あまり彼女らの思うツボに嵌りたくはない。
まぁそう思ってしまったのが運の尽き。クロエの傍らにいるエスパーさんが何やら耳打ちをするとクロエは少し顔を赤らめた。今までクロエ見ていた〈旅人の宴〉の従業員の方、日中から飲んでいる男たち、同性異性問わずに全員がノックアウト。
何人かは鼻血が出そうになったらしく、鼻を押さえている。確かに今の状態でその照れは止めて頂きたい。異性の俺たちには全員にクリティカルだから。
「あの……行きましょうか」
「ソ、ソウデスネ」
俺もまぁまぁなダメージが入っていたので片言になってしまった。俺の手を取ったクロエは俺が意図して視線を外していた時の悲しそうな表情とは真逆の嬉しそうな表情を浮かべていた。
信じられるか? まだこれで始まったばかりなんだぜ? しかも三人の中の一番最初。この耐久レースは一体何を俺に求めてるんだ? ……まさか俺の理性を吹っ飛ばす事が目的じゃないだろうな……
「あのユート様。似合ってますか?」
「……あぁうん。すごく良く似合ってるよ」
「そうですか……良かったです」
そんなに嬉しそうにされたら反応に困ってしまうんですが……あ、クロエの犠牲になった人が六人。
クロエとは散策の意味も合わせて都市内をブラブラとしている。途中露店を冷やかしたり、食べ歩きしながら周っているのだが、現在のクロエは掛け値無しの美少女だ。元々美少女ではあるんだけど……まぁいつも以上という事だ。
そのお陰でクロエを見た男性が結構な頻度で大惨事にあっている。具体的には壁にぶつかるとか、連れの女性からボディーブローなどを頂いたり、と言う感じに。
分かる、気持ちは凄く良く分かる。何せ俺も下手したら同じ事をしでかしそうだし。俺の場合はある意味もっとヤバいんだが。
俺はクロエと腕を組んで歩いているんだ。その意味が分かるか? 偶に香って来る匂いと言い、腕に当たる感触と言い、最近三人ともを意識し始めてるせいかこの手の事は結構敏感なんだ。お陰で心臓に悪い。
しかも当の本人は嬉しそうなので腕を解くなんて選択肢は端から無い。その意味で俺の理性は現在進行でガリガリと削られている訳だ。
〈旅人の宴〉の周囲で大体どこに何があるのか把握し始めた頃、少し先の広場で市が行われていた。商人の都市サリレの名は伊達じゃないらしい。〈旅人の宴〉でも聞いたんだが、ほぼ毎日どこかで市が開かれているらしい。アルトネアでは数日おきにあるくらいなので結構凄いと思う。毎日お祭りに近い状態と言えば分かるだろうか。
それだけ活気があるという事なのだが、今ので五回目である。幾らなんでも多すぎじゃないだろうか……?
だが、そんな事はクロエには関係ない。むしろちょっと目がキラキラしている。行ってみたいと言うのがありありと伝わって来る。
「……行こうか」
「はいっ!」
クロエの満面の笑みは今まで以上の破壊力で十人以上の男が轟沈した。かく言う俺も空いている手を本気で握りしめなければちょっと不味かった。やべぇ、軽く心臓がバクバク言ってたよ。
お陰で少し切れて血が出て来た。治癒治癒……。
やって来たの市もかなりの賑わいでここまで来ると流石にかなり近くにいる人じゃない限り、クロエに見惚れるなんて事態は起こらなくなって来た。
クロエと一緒に小物メインで露店を周る。特に買う気は無いらしく、ウィンドウショッピングだけど。今までの市でもそうだった。
まぁこの手の事は慣れたから別に良いんだけどさ。俺の本来の目的からちょっとズレてるんだよなぁ。本人が楽しいならそれが一番なんだけどね。
大体を見終えてそろそろ市から離れようとしていたら何か偉そうな子供に絡まれた。しかも護衛らしきのが同業者で面倒くさい。数は合わせて四人なんだが、視線がねクロエにロックオンなんですよ。クロエは凄い嫌な顔してるし。
大体デートをするとこういう邪魔が途中で入る。王都ではバルガーが介入して来るし、アルトネアではミレナの兄達が。呪われてるんじゃないだろうか。何回かに一回はそんな邪魔も入らないんだけどね。
ただ、今回が一番面倒臭い。バルガーは同じ冒険者だったし、ルーカスは家族同士の付き合い的な感じで問題は無かったんだけど……今回みたいなのって親が自棄に権力が高いから下手な事したら余計に面倒な事に発展するケースが多い。違うとすればルドラス君以外に思いつかない。
「そこのお前、俺にその娘を寄越せ」
どの選択肢を取っても面倒な事になる道しかない。なのでその中でも一番苦労が少なくなる無視を選択しよう。
「……悪い、クロエ。今日はここまでにしてくれるか? 埋め合わせは後日で」
「うん。大丈夫、ユート様の言いたい事は分かります」
クロエは子供と冒険者達の視線から外れる為に俺の後ろに隠れてる。あまりここには俺もいたく無いので振り返ってクロエの手を取ってサクサクと来た道を戻る。
だがそうはさせないと冒険者が先回りして来る。動きから意外と実力者なんだと分かるんだが……うわぁ面倒くさい。クロエの方が強いけど。
再び偉そうな子供がやって来て踏ん反り返って何かを言おうとするので振り返って離れる。先回りして来たので全員が来たのを見計らって振り返る。それを何回か続けていると……子供の方が息切れを起こしていた。
まぁ二、三十回もそんな事を繰り返したら多少は疲れるよね。流石に冒険者たちはそこまで疲れてないけど。これだけ嫌ですって事を示してるんだから諦めて欲しいな~。
「はぁ、はぁ……いい加減にしろ、よ」
そろそろ諦めてくれるかな。これだけすれば流石にね。……と思ったのに、全然諦めてくれる気がしない。しつこい男って嫌われるんだぞ~。
クロエの機嫌が悪くなって来てる感じだし、それと何処からともなく……黒いオーラがやって来てる様な……
「俺はオルストロ家のリャーユ・オルストロだぞ。オルストロ家はスカイヘアの中でも上位の権力を持ってるんだ。その嫡男に声を掛けられるのも凄い事なんだ。いい加減に話を聞いたらどうだ?」
「いえいえ。話を聞くかどうかは僕たちが決める事なので。それとしつこい男は嫌われますよ?」
スカイヘア……一応頭の片隅に入れておくだけでもしておこう。別に証拠が出た訳でも無いし、うちの国と仲が険悪という訳でも無い。
まぁ彼の言う事が本当ならいざこざを起こしたらそれこそリュートさん達に迷惑が掛かる。という事で無視一択。最悪振りかかった火の粉は落とせばいい。
という事でそろそろ隠れるとしましょうか。いい加減こっちもイライラしてる子がいるんだ。鎮める方が相手をするよりも大変である。
「泡沫」「朧月」「水陰」のコンボを使って俺とクロエは周りの風景に溶け込む。直ぐに全員が見失ったようで辺りをキョロキョロしている。
隠蔽系の魔法って声とか発すると気づかれやすくなるので、クロエには静かにしておいてもらう。取り敢えずこの状態ですすす、っと。
クロエを伴って〈旅人の宴〉を目指して道を戻って行く。今の所は……バレてない。あとは泊まっている宿がバレてない事を祈ろう。意外とねちっこかったりするんだよね。
そのまま戻っていると前方にミレナのステラの姿が。しかも二人共が機嫌の悪いこと。例の黒いオーラって彼女達が放ってたのね。これは危機管理能力が上達としてみれば良いのだろうか。
それで当たり前の様にミレナとステラは俺たちに声を掛けて来た。
「ねぇユートくん。誰かから絡まれなかった?」
「えっと……スカイヘア王帝国の何処かの嫡男から絡まれた、かな」
「名前は?」
「……覚えてない。それよりも何でミレナたちが機嫌悪いんだよ」
「ユートくんとクロエちゃんをび――ステラちゃんとお散歩してたら何処かの貴族の息子が絡んで来てね。失礼の無いように断ったのにしつこく食い下がって来たのよ。何とか振り切ったんだけど、お陰で私もステラちゃんも気分が最悪よ」
「俺たちを尾行してたのは後で話を聞くとして……ミレナたちも似たような事があったんだな」
一先ず〈旅人の宴〉に帰ろう。このままブラついてたらいつ絡まれるか分かったもんじゃない。
改めて四人で帰り道を進んでいくと今度は違う誰かがやって来た。四人組で、それもついさっき見た事のあるような姿をしている。ミレナの機嫌がかなり悪くなった。発しているオーラが黒いし、冷たい。
うわぁ……ミレナたちにもちょっかい掛けてたのかよ。この嫡男。殺されるぞ。
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