四十一話 少し荒療治で……大変だ
一週間も投稿できなかった……すいません。
俺は昨日の自分を殴り飛ばしてやりたい。何故かって? そりゃあ今の状況を考えれば分かる事だ。
昨日に引き続きステラとミレナが見張り、俺ともう一人が馬車の中で待機という事になったのだが、今はクロエが俺と一緒にいる。で、そのクロエの行動が明らかに依然と違うのだ。具体的にはステラやミレナと同じ様に腕に抱き着いて甘えている。いつものクロエならあり得ない行動である。
原因なんて昨日の俺の言動にしか心当たりがない。例えば、昨日クロエを褒めまくった事。加えてその中に「好きだよ」なんて言ってしまった。例えば、テントの中でクロエにもっと頼って欲しいなんて言った事。
昨日の昼間の段階で自己嫌悪に陥っていた状態で好きな人からそんな言葉を掛けられたら……俺でもちょっと甘えたくなるかもしれない。
勿論俺の考えが全員に当てはまるとは思わないが今のクロエを見ればそういう事だ、分かる。
「ユート様……えへへ」
それでクロエの方を見ると必ず目が合う。そして、微笑むとぎゅっと抱き着いて来る。このサイクルが俺とクロエの二人になった時からずっと続いているんだ。しかもクロエのオーラが桃色過ぎる。当事者の俺もちょっと砂糖が口の中に……
そこでクロエが口を開く。
「ユート様」
「……何でしょうか」
「昨日のお言葉、とても嬉しかったです。ですけど……ユート様の所為でこうなっちゃいました」
顔を赤らめ、上目遣いでこちらを見ながら俺の手を自分の胸に置く。鼓動が物凄くが速いのが分かる。……だが、離そうとしても力が強く離せない。くそっ。全員、力が強すぎる!
「それに未婚の淑女の胸に触れた……だから、責任、とって下さいね」
……ちょっとヤバい。今のクロエは以前のステラやミレナと引けを取らないくらい魅力的だ。二人の時もそうだったんだが……つい押し倒したくなる。まぁそんな事をしたらフェルは兎も角、ステラとミレナの対処が大変だ。絶対面倒事になる。それに成人するまではしないと決めているし……頑張って耐えねばなるまい。
自分で決めたとはいえ、この生殺し状態流石にくるものがある。そろそろ離れて貰わないと……。
「ちょ、クロエ、少し放して」
「……そんなに魅力が無いですか?」
「へ?」
「そうですよね。ステラやミレナの方が綺麗ですものね。私なんて王女の立場なのに結構空気になる事がありますし、容姿だってお二人よりも綺麗とはとても言えません。お二人に比べればまだまだですし、ばそれに私との婚約だって父様との契約上仕方なくでした。やっぱり私に魅力なんてないですよね。ごめんなさいやっぱりさっきの責任は取らなくていいです。王都に戻ったら私の方から父様に婚約の件は取り消して――」
咄嗟に抱き締めて言葉を言わせなくしたが……何この子、物凄く自己否定が凄いんだけど。何もそこまで自分を卑下しなくてもいいのに、と思うんだがクロエの性格上そういう訳にもいかないんだろう。ここはゆっくり治していくしかなさそうだ。
自業自得を棚に上げるな、だって? ふん、分かり切ってる事を嘆いていてもしょうがないだろう。クロエへの対処を考えてたんだよ。だけど……あれしか思いつかない。
まぁ、うん。覚悟を決めよう。どうせ速いか遅いかの違いなんだ。割り切りだ、割り切りが大切なんだ。ステラとミレナの時も似たような感じはあったし。……今回は荒療治の面が強いけど。
俺はクロエを解放する。クロエは顔、それも目が虚ろなんだが気にせずに目を合わせる。逃げられない様に顔を両手で固定して。
「クロエ、好きだよ」
「でも、諦めきれないしどうすれば――はひ? あの、今何と?」
戸惑っているクロエに答えずにクロエの下唇に軽く触れる。クロエはさっきまでの虚ろな目が一気に見開き、顔を真っ赤にする。顔を逸らそうにも俺の手で固定しているので動けず、瞳が右往左往と泳ぎまくっている。
そのまま何も言わずにじっと見つめるとやがてクロエがこっちを見返して来た。
「……本当ですか?」
頷くとクロエはまた目を見開いた。ちゃんと聞いてたようだ。そこから何度か同じ確認を繰り返す。本当か、と。どれだけ自信が無いんだよ、と思わなくもないがそこは言わない。俺は何度も頷いて肯定の意を表す。
「ですが、無理をなされて――んむぅ!?」
何度も自分自身で確かめたはずなのに未だに疑ってかかるクロエにちょっとイラついたので行動で示した。いい加減、その自己否定を少しは治してもらいたい。
本当はこのタイミングでするつもりは無かったんだが、キスをされたクロエは目を今まで以上に見開いて目を白黒させながら困惑していた。
だが、クロエがそれを意識してた事自体は知ってる。俺が唇に触れた時にクロエは自分の唇と、俺のを交互に見ていたし。多分、無意識なんだろうけど。
キスをするちょっと前に片手でクロエの腰を固定しているので逃げようとしても無駄。目の前の自己評価の低いクロエさんには少し刺激が強い荒療治でもって切っ掛けでも作らないと治る切っ掛けさえ作れそうにない。。
キスを続けて息が苦しくなってきた所で唇から離れる。途中からステラとミレナが戻って来ていたのだが。
「はぁ、はぁ……で、分かったかクロエ?」
「…………はぃ」
とろんと顔が蕩けているクロエは弱々しい声でそう返す。ただ、最初から最後までずっと両手は俺の服を掴んだままだったが。
「これからよろしく、クロエ」
「……宜しくお願いします」
嬉しいのか恥ずかしいのか複雑な感情を隠す様に目を伏せた。そのまま反対の方へ顔を向けると……びくっ、と体が震えた。俺もそっちを向くとステラとミレナがクロエに向かって手を振っていた。
余程吃驚したのか、さっきまでの蕩けた表情は青ざめ、俺に強く抱き着いた。かなり恥ずかしいらしい。ステラとミレナを見ようともしない。
「……ユート様、何時から見られていたのでしょうか?」
「俺とクロエがキスして直ぐに。二人とも興味深そうに見てたよ」
「うううううぅぅぅぅぅぅ……」
その時を思い出して余程恥ずかしいのか俺に抱き着いたまま器用に小さく丸くなった。「私を見ないで!」という言葉が言外に聞こえてくるようだ。
そこでミレナがやって来た。ステラはクロエとは反対側に座り、好きなようにしている。
「ユートくん説明をお願い」
ミレナの言葉には俺を責めると言う意味じゃなく、単に今の行動の理由は何なのかを知りたいようだ。責められないのは結構だが、後で色々ありそうだ。
「前々からクロエの自己評価が低いのはミレナも知ってるだろ? いい加減治して欲しいし、タイミング的にも良さそうだったのでちょっと荒療治をしました」
「その結果がキスってこと?」
「刺激は強くないと意味がないと思いまして」
「じゃあ、治療目的でクロエちゃんにキスしたって事かな?」
「クロエの事が異性として好きだからだ。じゃなかったら、違う方法を探せばいい」
ミレナには満足してもらえたようだ。クロエは俺とミレナの話を聞きながら所々でぴくっぴくっと反応していた。具体的には荒療治、キス、異性として好き、の三つに。最終的に甘える様になっていたのは俺もミレナも見なかった事にした。その方がクロエとしても良いだろうし。
「ふぅん。良かった。もし、治療目的だったらちょっとお話が必要だったね」
「ずっと好意を寄せられてきたんだ。意識するんだよ。クロエはすごく可愛いし」
「ふぇ!?」
「ふぅん……」
「待て待て。話を振ったのはそっちだろう? それに二人を何とも思ってなかったら婚約なんてしないぞ」
ミレナと、言葉こそ発してないが同じく拗ねだしたステラ。建前でも面倒くさい。が、ある意味仕方ない面もあるので機嫌を取らないとな……。
クロエには俺の上から退いて貰う。さっきの台詞で元の状態に戻ったクロエは少し名残惜しそうにしながらも了承してくれた。で、二人のご機嫌取りか。
「ミレナさーん」
「つーん……」
「ステラさーん」
「つーん」
さらに面倒臭くなった! しかもこの完璧な合わせ具合。……絶対グルだろ。俺たちを見ていた時から考えてたんだろうな。恐らくミレナが。
ステラとミレナには結構振り回されるんだが、特にミレナは意図的な部分が多いし、ここでちょっとやり返してやろう。……ちょっとだけな。
座席の反対側に座ってくれているクロエの所に移動して耳元に近づく。
「……クロエ、悪いけどちょっと協力してくれ」
内容を軽く説明して了承貰い、早速甘えて来てもらった。クロエは俺の肩へ頭を置き、俺はそれに応じる。
傍から見ればバカップルとしか言えない状態を続けるとステラもミレナもぷるぷると身体を震わせて始めた。
やり返し自体の内容は簡単。一言で言えば押してダメなら引いてみろ、だ。いつもはこういう展開の後は俺がとことん甘やかすのだが、今回は敢えて二人を甘やかさない。むしろ見せつけてやろうと思う。流れからダメージは結構デカいはずだ。
偶に少し反省させないと歯止めが利かなくなる。ステラとミレナは俺へ依存に近い状態になってるし、多少は自分で考えれるとは言えまだまだ心配だ。ステラが失踪した件についてはまだ鮮明に覚えてるんだし。
まぁ好きでいてくれる事が俺はすごく嬉しいのでアフターフォローはしっかりとする。三人とは何とも贅沢だが手放したくない。
それから十分ほど経過。最初にギブアップしたのはステラだ。とことこと俺の元までやって来てクロエと握っていた手をひったくるとぎゅぅぅぅっと強く抱き締めた。
「うぅ……」
ステラは涙目で縋り寄って来る。これはちょっと……やり過ぎた、かな? どちらにせよステラを更正させるにはまだまだ時間が掛かりそうだ。
ステラが抱き着いている腕は外せそうになく、クロエから手を少し放してステラを優しく撫でる。ステラは完全に成すがままで、撫で続けると少しずつ震えが収まって来た。
反対にミレナはその光景を震えながら見続け、結局陽が暮れるまでギブアップをする事は無かった。意志が強いのか、単に自分で止められなくなってしまったのか。ミレナって三人の中で一番積極的で自立してそうなんだが、一番俺に依存してるんだと思う。学園にいた時は極稀にあったし。それも我慢出来なくなった感じで。あの時はかなりはヤバかった。
読んでくれてありがとうございます。
明日は二本投稿を予定しています。




