とあるダンジョンマスターの憂鬱
新設1240年頃
通称、ダンジョン集会。
私はそう呼ばれる集まりに出るたびに嫌になる。
私がこんな事に巻き込まれる前の1000年ほど昔に、神が新たに大陸を創ると宣言したという。
宣言の時、神は今の時代は面白く無いだとかもっと楽しめよ。などなど大層不満があったらしく長々と大陸をどうとか分けるだとか言いながら文句を言って最後に
「じゃー今から世界変えちゃうからね!後はステータスとポイントシステムは自分達で使って把握して行ってね!それじゃ頑張って楽しんで!」
そう言って世界は変わったらしい。
当時の私は伝説の生き証人になれると思い、心弾ませ大陸が出現するであろうと言われる南最先端の岸壁にある、洞窟と岩場の多い海岸を元に作られた人魚の町を拠点にしてその時を今か今かと待っていた。
実際に大陸が現れた時は本当に驚いたものだ。
毎日飽きもせずに海を眺めながら人魚達と喋り、偶に現れる海の魔物を討伐してあげると綺麗な人魚がチヤホヤしてくれるものだからノリノリで派手な魔法を使って倒したのを今でも良く覚えている。
そんな日を半年ほど過ごしていたのだが、その日は確か海に入って人魚に教えて貰いながら泳ぐ練習をしていたはずだ。
必死に練習して居たら遠くの方で爆発系の魔法を連発しているかの様な凄まじい音がしてきたので、慌てて遠見の魔法を使って音のする方を見ると陸が海から迫り上がってきたんだ!
あの時は感動する前に驚き過ぎて何も考えることも出来ずに眺めて居たのだけど、泳ぎの練習中だったから溺れかけたよ。
人魚も一緒に大陸が出てくる光景を見てたから、中々助けて貰えずに危うく生き証人どころかただの間抜けになる所だったよ。
今思えば、とてもじゃないが人魚に聞いても泳ぎが上手くなると思えないがね。
後、波がいつもと変わらなかったのだけどそれは神パワーだからなのかな?
その後はいつも魔物を倒してくれたお礼にってイカダに乗せてもらって新しい大陸まで連れって貰ったのだけど、途中魔物には何故か出会わなかった代わりにイカダの揺れが激しく気持ち悪過ぎて仕方なく途中で何度も吐いたんだ。
大陸に着いたら動く元気も無いまま人魚にお礼を言ったんだけど、普段チヤホヤされて居たので見たことない様な引きつった顔して帰って行っちゃたんだよ。
私を慕ってくれてた綺麗な子達のあの顔を私は忘れられない。
そうして着いた新しい大陸に私は「1番だー」何て叫びながら大陸の中心だと思われる山がある方に走って行ったんだけど、そこからが不運の始まりなんだよね。
当時住んで居たオオカミ大陸よりも一回り大きな魔物達が、出来て1日も経っていない大陸に沢山居たんだからね。
それでもオオカミ大陸に居たダンジョン以外の魔物の大半は私にとって弱かったから、新しい大陸の一回り大きな魔物ぐらいなら草原だった事もあって問題無かったんだけど、数が多くて凄く苦労したよ。
当時の私は自慢じゃ無いけど、努力もずっとして来たから能力や才能も増えていて私が知る限りでレベルも1番高くてちょっと天狗に成りかけていたのかも。
新しい大陸には誰も来て無いだろうから狩り放題!魔物を沢山倒してポイントがかなり貯まったら何に変えようか、それとももっと貯めて伝説のオリハルコンに変えて武器にして貰おうかなって考えながら10日位かけて大陸の真ん中まで来た訳だよ。
もちろんダンジョンじゃないから死体は焼いといたよ。せっかくの伝説に疫病大陸出現!何て着いたら悲しいからね。
それで、山に向かって進んでたら手前の方に遠目からでも「何かあるなー」って思ってたんだけど近ずいてビックリ!
城のある街とかの周りにある様な壁が元からあるかの様にあるんだから。
取り敢えず私は、入り口があるのか壁沿いにグルッとまわって探索する事にしたんだ。
初めは乗り越えようとしたんだけど何故か入れなかったんだ。多分結界か何かだと思うけど余程大事な物が有るのかって思うよね。
ダンジョンにアイテムが有る様に、ここも神が創った場所なら有るのが当たり前!って思って意気揚々と入り口探してたらすぐに見つかったんだよ。この時は、何て幸運なんだろう!ありがとう神様!何て風に上機嫌で思ってたんだけどさ・・・
見つけた城門の様な物は開いてたので中に入って少し落胆。
壁の中にあったのはただの草原。これじゃ外と変わらないじゃないか!何て思ったものだよ。
そう思いながらも探検家気分で草を剣で払いながら歩いていたら神殿を見つけたんだ。
神殿は「神謹製の壊れない孤児院」なのだけど、神殿コアってのに触ったら孤児院の院長にならないと行けないらしいから探索は諦めて次に行くんだけど・・・この神殿で院長してた方がまだマシだったかな。子供はまだ産んだ事無いけどお母さんが私を産んで幸せって言ってくれてたからね。それに私も子供は好きだから。
神殿から多分1㎞位歩いた所で怪しげに置かれてる3つの宝石を見つけたんだよ。
怪しいって思ったのだけど取り敢えず回収しないと誰かに拾われたら、せっかく1番にきたのに勿体無いからさ。
大きな3角になる様に置かれてる黄色が2つとそれより大きな金色の宝石があったんだけど、やっぱり大きな方が良いんじゃないかなって金色の宝石を取りに行ったのが本当の不幸の始まりだったんだよ・・・
その金色の宝石は、宝石なんかじゃ無くてダンジョンコアだったんだ。
触った瞬間真っ白になったと思ったら場所が変わっていて、そこは土壁で覆われた部屋だと思っていたのだけど・・・
ダンジョンの中の1番奥にある、ダンジョンコアが置かれている部屋だったんだ。
この時はダンジョンコアだって事も分からなくて焦って狼狽えて居たのだけど、出口も無くてあるのは大きな金色の宝石だけ。さっきの事を思うと触るのは嫌だったのだけど仕方なく触ったら
「登録おめでとうございます。貴方は記念すべき神特製バージョンのダンジョンマスターに成りました」
あの時はどこから突っ込めば良いのか分からなかったよ。
登録とかしたく無かったから詐欺にあったと言えば良いのか?それとも神特製ってどういう事なの?とかね。
それからは本当に大変だったよ。
ここのダンジョンマスターは不老不死になってダンジョンポイントを使い人に試練を与えて成長させるみたいなんだけど、私はやりたくない。
辞めるには誰かと代わって貰うしかない事が分かったから早く誰かに来てもらおうとしたんだけど、初めにきた人に話したら代わって良いけど性奴隷になれ!とか言って襲ってきたから返り討ちにしちゃったんだけど、その人の仲間が外に出てある事ない事言いふらすから討伐隊とか来ちゃうし踏んだり蹴ったりだと思ったね。
それでも私的には死人は嫌だから人がダンジョンで死んでも生き返れるように、ダンジョン入ってすぐの場所に祠を作ってそこで生き返れる様にしたんだよ。
それなのに、最果てのダンジョンって所に行っても大丈夫な様に人を育てろとかコアに言われるし、その為には簡単に生き返れるとかダメって言われ、ここのダンジョン専用だけど高いポイントなら買える仕様に変更したのだけど、私が知らない間に入り口の所に付いていた(絆)って書いてる看板の横にちゃんとポイントで交換しないと生き返れませんって書いたのに、入ってきて死んじゃう上にその仲間が私の事憎み出すし・・・
だから、初めの頃にコアが文句ばっかり言って来るから「コアがすれば良いじゃない」って言ってやったら返事もないままなので、私が一週間くらい作業しないでゴロゴロしてたら「譲歩します・・・」って言ってきたのを聞いて、前から少しおかしいと思ってたので「貴方は神様なの?」って言えば、物凄く挙動不審になって「ちっ違いますよ!・・・本当だよ!エリーは神じゃなくてダンジョンコアだよ」って・・・
明らかに神様でしょ!しかも世間では宣言の時に色々言ってたって事が何処かの伝承で残ってたらしくて、その内容から自由の神。それから世界の在り方を全然違う様にかえた事から混沌の神とかいわれるエリッサ様でしょ!
これまでの関係から私にはただの我儘神様にしか思えないんだけど。
それからは少しここの生活も楽しくなってきたのだけど、多分50年ぐらい過ぎた頃だったかな。
その頃に探索者は冒険者なんて呼び方に変わってたんだけど、そんな事は私に関係なくていつものように出来るだけ人を殺さなくても簡単にはダンジョンを攻略出来ないように改造してた時、不意にコアから「人達の様にダンジョンも協力するべきですね。集めましょう」なんて言って始まった5年に一度の集まりが、本当に疲れるの。
まず半分以上は魔物でどうやらコアに触ったら喋れるようになるみたいなのだけど、頭はあまりよろしくない上に「人の狩り方教えて」ってな有様。人の方も特別な人になったつもりか冒険者捕まえたりと好き放題。偶にまともそうな人が居ても次の集会には来れなくなってる・・・多分殺されたのだと思う。ついでに言うなら何回か集まりに出てくるまともな人は来ても直ぐに帰っちゃうからね。
私も帰りたいのだけど、神謹製は伊達じゃなくてこの集まりの代表的ポジション。
大陸にダンジョンが1つしか無いのも、この絆のダンジョンがある絆大陸だけなうえに他のコアと出来る事も違う。他のマスター達は知らないがコアからエリッサ様も喋りかけてくるからね。
だから集まりの名前も私がダンジョン集会と決めさせられた。
確かに特別なのかも知れないけど、私は早く外の世界に帰って色々な所に行きたい。
元々新しい大陸を一番に探索して伝説の仲間入りしたかっただけなのに、何故か絆のダンジョンマスターになって人に試練を与えて成長させるなんて事をしないとダメなのか。
ある意味伝説には残るかも知れないけど、私が求めていた物とは絶対に!違う。
それでも眷属兼、友達として助けた元冒険者何人かいるので寂しくないがいい加減外に出たい。
何より集まりに来る下劣な元冒険者のいやらしい視線は本当に嫌だね。これなら魔物とダンジョン作りについて話すしかいくらかはましである。もっとも教えた事で人が死ぬのはちょっと嫌だけど、私だけが最後まで会場から帰る事も出来ないから仕方がないと諦める。
兎に角!私は思うのである。
ダンジョンから出るのは強い人が現れ良い人なら交代を願えばなんとかなるかも知れない。
でもこのダンジョン集会は5年に一度は必ず開かれる。その度に魔物に尊敬の眼差しで人の狩り方を教え、屑な元冒険者に上から下まで嘗め回すように厭らしい視線を向けられ・・・
ああ今年も憂鬱だ・・・
私の違う作品で少し出てくる予定です。