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ニート気質な私、なぜ『俺』はこんなことをやっている?  作者: 米木寸 戸口
幼少期 ギルド編
57/62

いい加減盗賊さんとは友達になれそう。うん。今まで会ってきた盗賊で、存命中なやつ記憶に無いけど。

 町宿にしては柔らかいベッドに、普段以上に体が沈み込むような錯覚を覚える反面、冴えきった頭は意識を落とす選択肢を選ばせてくれない。結局その日、私は一睡もすることができなかった。

 責任。つい数時間前に、普段は見せない感情を剥き出しにして迫ってきた彼の言葉。

 剣を振るってきた。それだけが自分の価値だと思って、私は今まで振るい続けてきた。後悔なんてないし、今後もしないだろう。

 それでも。一度だけ師匠に言われたことがある。剣の力なんてものは、結局誰かを殺すためのものなのだと。私はそれを、戦う者の心構えだと思っていた。

 人より力があるから偉いわけじゃない。他の多くの職業と同じで、戦士は他者を殺すのを職業にしただけ。力の無い人間が食べ物や服を作る代わりに、力がある人間が殺しているだけ。街の兵士や冒険者が、力が強いからと横暴に振る舞うのを聞いていた私は、師匠の言葉にそんな風に答えた。師匠は何も言わずに、ただ私の頭を撫でてくれた。だからこれで間違ってないのだろうと、そう思っていた。

 今まで殺す責任に対して考えたことはあっても、殺した相手に対する責任なんて考えたことが無かった。

 だから考えた。眠さを訴える体を無視して、夜通し考え続けた。そして結論が出たのだ。

 全く分からない、と。

 殺す必要があるから。もしくは殺される理由を作ってしまったから殺す。そこに何かが入る余地は無い。殺す人間に対する責任なんて全く理解できない。

 全く理解はできない。でも私より強い力を持つルプスの言葉。分からないから放置、なんて簡単に放り捨てることはできない。

 理解できないのは経験が足りないせいかもしれない。私に足りず、ルプスに足りている経験。昨日を思い出せば答えは簡単に出てくる。人殺しの経験だ。

 とは言え王女の特権で人殺しなんてできないし……いや、一応見習いでも私は冒険者。冒険者らしい行動と言えば……盗賊退治!

 いいわ!いいわね!私ながらナイスな発想!確か依頼書の中に盗賊討伐の依頼が……あ、でも見習いじゃ受けられないわね。いえ、受ける必要は無いのだわ。大体の出没場所は覚えてるから、依頼書が無くったって問題なし。門を出る時の門番は……うん。王女の名で黙らせましょう。城から追手が来るかもしれないけど、最悪連れ戻されたっていいわね。別に今回逃したからって冒険者になれないわけじゃない。また今度の機会を待てばいいのよ。

 よし。目標が決まったなら後は動くだけ!早速準備ね。えーと。剣はどこだったかしら?



―――数時間後。視点変更。ルプス―――



「本当にいちゃったよ」


 門を出る直前に、門番さんから盗賊の目撃情報がある場所を聞いて来てみたところ、特徴的な金髪ロールが見えてきた。盗賊が出る噂から商人や旅人も通らない場所に一人歩いてる金髪ロールなんて、金髪ロールの金髪ロールに他ならない。他なって欲しいけど確実にあれ金髪ロールだよなぁ。うん。自分で言っててこんがらがってきた。


「おーい!エリザさーん!」


 小走りしながら金髪ロールに声をかける。ちゃんと気づいてくれたようで、振り返って私の方を見ると、怪訝そうな顔をして首を傾げた。


「どうしてルプスがここにいるのかしら?」

「こっちの台詞です。どうして盗賊が出没する危険な場所にエリザさんがいるんですか」

「それはもちろん盗賊を殺すためよ!」


 自身の薄っぺらい胸を叩きながら、自身満々に宣言する金髪ロール。しねばいいのに。


「殺すためって、盗賊に捕まえられたらどうするんですか?」

「今日は私にも丁寧口調なのね」

「うるせぇ。いいからさっさと帰るぞ」


 売り言葉に買い言葉的な勢いで口調を乱すと、金髪ロールが興味深そうに顔を近づけてきた。


「ふーん。門番に頼み込まれて来たなら、私が王女ってことも知ってると思ったんだけど。そういう言葉使いするんだ。ちょっと意外ね」


 相変わらず変なところだけ感が良いな。まぁヒントは色々あるか。


「何を言ってるんですかエリザさん。確かに門番さんから話は聞きましたが、私が聞いたのは仲間のエリザさんが一人で外に出たから、危ないんじゃないかという話だけです。王女うんぬんって何の話ですか?」

「…………なるほどローレンスね。急にそんな計画を建てられるとは思えない、というか何も知らなかったなら体裁を整える必要もない。ああ、要するに最初からバレてたのね。で、おもりとして中年男がつけられた、と」


 誰だよこいつのことバカって言ったの。たぶん一番言ったの私だけど。


「何の話か分かりませんが、とにかく戻りますよ。何事も無く戻れたなら、ローレンスさんも今回の問題は不問にすると言ってましたし」


 言ってないけど。


「嫌よ。お父様が関わってるなら、見習いから上げないように仕組まれてるんでしょう。どうせ戻っても意味ないなら帰るわけないじゃない」


 合ってるように見えて間違ってる理論やめてくれませんかね?ええい。子供は独自理論で動いてるからめんどくさい!常識を学びやがれこの野郎!


「もうこの際冒険者だのなんだの関係無く危険だから帰りましょうよ」

「どうして危険なのよ?」

「だからここらへん盗賊が出るんですって」

「その盗賊を殺しに来たのよ?」


 盗賊=危険という発想に繋がらないから、いつまで経っても話が噛み合わない。

 これは実力行使しか無いかな?と思っていたところで、大概最悪の自体というのはやってくる。


「いるいる。いるんだよそういうのが」


 声に反応して茂みの方を見ると、ガサゴソと音を鳴らしながら大男が現れた。

 え、ていうか大男っていうか熊?熊の擬人化?中年男ってまだ多少見た目に気を使ってたんだね?って感じのする髭面ボサボサ大男は、右手に持った斧を弄びながら楽しそうに話し続けた。


「初心者の冒険者が手っ取り早く名を上げようとして俺たち盗賊を殺そうとするんだよ。そうやって調子にのった連中を捕まえて、闇市の奴隷に売りさばく。全くやめられない楽な仕事だぜ」


 右手の斧に目が行きがちだけど、警戒すべきは左手に括り付けられた盾。ってことは土属性かな?


「ちょうど良いわルプス。目的が向こうから出てきてくれたわ」


 ふふん、と若干笑いながら剣を抜くエリザ。もう色々と最悪だ。


「エリザさん。分かってると思いますけど、あの大男の後ろにも仲間がいっぱい……」

「あいつを一撃で仕留める。次に出てきたのも一撃で仕留める。完璧でしょ」


 知ってた!やっぱりバカだこいつ!

 どうやって金髪ロールを連れてこの場を離脱するか。相手の戦力はどうなっているのか、などと考えている私を尻目に、金髪ロールがいつもの上段の構えをとる。

 ああもうこれだから対人戦の経験が薄いやつは!その攻撃は魔物には効くけど!!

 止める間もなく、金髪ロールが弾丸のように加速して突進していく。


「そんな!?」


 いつも出会い頭の魔物を切り裂いた一撃。剣は前のから変わっているだろうけど、威力に変わりはない。その金髪ロール自慢の一撃が、大男の盾によって完全に防がれていた。

 ってかあんな分かりやすい構えをしたら、属性を知ってる人間はまず雷属性の存在に気づいちゃうから。おかげで完全に軌道が読まれる。


「っち!思った以上に威力がでけぇじゃねぇか!!」


 幸い雷は気づけても、火属性の方は読めずに威力が予想外だったらしく、本来カウンター用に持っていたであろう斧を振れないまま硬直している。

 が、その隙を活かせないなら意味がない。自慢の一撃を防がれたのがよほどショックだったのか、金髪ロールは金髪ロールで勝手に硬直している。

 私が攻撃すれば、大男は殺せるけど……。

 私は静観するのを決めると、金髪ロールと大男の戦いの行く末を見届けることにした。


「オラァ!」


 大男が盾ごと金髪ロールを吹き飛ばそうとする。対する金髪ロールは呆然としていたせいで全く衝撃を受け流せず、されるがままに吹き飛ばされていく。

 なんとか飛ばされてる最中に意識が戻ったのか、私の横に綺麗に着地する。でもこれで完全に振り出しに戻った。いや、手札が完全にバレた分金髪ロールが不利かな。


「も、もう一度!!」


 妙に慌ててるな、と思い返してみると、そう言えば今まで例の攻撃を防がれたことは無かったっけな。

 それが受け止められたとなると、なるほど動揺するのも分かる。が、悪手だ。

 見慣れた上段の構えに移行した瞬間、風切り音が鳴り響く。まず間違いなく弓矢が発した音だろう。こちらに向かってきていないのを確認すると、私はその場を動かず矢の到来を待った。

 風属性の人間によるものであろう弓矢による精密射撃は、一切の狂いなく先程と変わらない構えをとる金髪ロールの右腕を貫いた。


「いっっ!!」


 手首に走る痛さに剣を取り落とす金髪ロール。その姿を見届けた後、大男の背後から複数の人間が現れた。


「雷に、たぶん火属性も混ざってやがったなこりゃ」

「大丈夫ですかい親分?腕が曲がってるっすけど」

「目の前の嬢ちゃんと一緒にすんなよ。こんぐらいの痛みにゃ慣れてる。あ、だからといって回復サボるなよ」


 うわぁ。思っていた以上にぞろぞろ出てくるな。その上でさっき弓矢を撃ってきたのがいないとなると、こりゃやっぱり下手に攻撃しなくて正解だ。

 戦力的にはうーん。金髪ロール庇いながらってのも合わせて、フュージョンしないと無理だねこれ。そして金髪ロールの前じゃフュージョンできない。

 さらにさらに金髪ロールが撃ち抜かれても出てこない辺り、ガチで命の危険とかじゃないと金髪ロールのストーカーさんも出てこないらしい。よし。次の動き決定。

 盗賊達が痛みで動けない金髪ロールと、傍から見れば腰のナイフぐらいで丸腰の私に注目する中、ゆっくりと両手を上げる。そして堂々と、できるだけ臆病な感じで言い放った。


「こ、殺さないで下さい」


 その後私と金髪ロールは、あっさりと盗賊達所有の馬車に突っ込まれ、どこかに連れ去られる運びになった。

 なおその間の盗賊達の会話はこんな感じである。


「嬢ちゃんの方はいいな。戦闘も一応できるみたいだし、容姿もいい高く売れるぜ」

「え?親分あんなのが好みなんです?」

「バッカ野郎ああいうのが好みな外道共がいるっていう話だよ!俺の趣味じゃねぇ!!他のやつにも絶対手ぇ出さないよういっとけよ!」

「わかりやした。もう一匹のガキの方はどうです?」

「そっち方面の変態もいるにはいるが……顔が美形じゃねぇしなぁ。普通に労働系統だろうな。嬢ちゃんに比べりゃ安もんだな」


 別に奴隷としての価値なんて欲しくないけど一言だけ。

 うるせぇよ。

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