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ニート気質な私、なぜ『俺』はこんなことをやっている?  作者: 米木寸 戸口
幼少期 ギルド編
54/62

向こうにいたら淘汰されていたであろう、この世界の適合者。つまり、私との相性は最悪だ。

 どうも、ため息をついたら幸せが逃げるよ?と言われたら、幸せじゃないからため息ついてんだよ、と思う類の人間、私です。

 そんな私ですが、現在絶賛拉致?誘拐?とにかく無理矢理腕を引っ張られながら、何処かに向かって目的も分からずに連れ出されています。

 懐かしいなぁ。年の離れた従妹に同じ様に、とにかく着いてきてって言われて、延々と家の中を何十分も歩き回されたっけなぁ。こちとらゲームやりたいってのに、子供だからって無理して笑顔を作ったら調子にノッてぐるぐるぐるぐる。そしたらガキは意外と賢しく、こいつは断らない相手なんだ、なんて思っちまうからさらに調子にのる。でもさすがに子供相手にそこまで強く出れないから、結局延々と付き合わされるのだ。事故に見せかけて人を殺す手段を考えたりなんてしてないよ?ほんとだよ?

 一応手だけでも離してくれないかと言ってみたけど、案の定とにかく着いてこいと言われた。手に爪でも立ててやろうかと思ったけど、感情のまま爪先に闇の刃を出してえぐっちゃいそうだからやめておいた。私偉くない?自画自賛しないと誰も褒めてくれないから、自画自賛しておく。

 そうやってしばらく歩いていると、やっと金髪ロールの足が止まった。


「着いたわよ」


 ……うん。なんだか見覚えがある道を通ってると思ったよ。ここ私が泊まってる宿だ。

 基本スルー力が高いと私の中で評判の高い私でも、さすがに聞かざるをえなかった。


「……なぜここに?」

「ここが一番話しやすいでしょう?」

「そもそも話をする気で連れてきたんですか?」


 新事実。金髪ロールは話し合いをするために私をここまで連れてきたらしい。

 いやまぁそれはいいとして、確かに他の人に聞かれたくなかったり、落ち着いて話をしたいなら宿の個室は悪くない。悪くないが、どうして金髪ロールが私の宿を知ってるんだ?外から来た冒険者とか商人には、それとなくこの宿を薦めたりしてるけど、金髪ロールは聞いてないはず。

 いや、いや待てよ。ギルドじゃ落ち着いてできないような重要な話をするために、宿の個室で話し合う。ここまでは普通の思考だ。だがその個室は誘った側の個室を使うのが普通で、誘われた側の個室に無理矢理押しかけるのは普通では無い。つまりこの推測から導き出される結論は……


「どうしてこの宿に?」


 先ほどと僅かにニュアンスを変えた一言。


「幽霊が出るって噂があったのよ。だから泊まったんだけど、噂の幽霊部屋は先着があったし、いつも夜まで待ってるのに全然出てこないのよ。おかげですっかり寝不足だわ」

「あ、エリザさんがこの宿に泊まってるんですね?」

「当たり前じゃない。落ち着いて話せる場所に行ってるのに、どうして適当な宿に入るのよ?」

「いえ、至極真っ当なご意見で」


 確かに非の打ち所がない真っ当な意見だけど、金髪ロールに言われると釈然としない!

 というか今まで偶然出会わなかっただっただけで、私達ずっと同じ屋根の下だったの!?さらに言うといつも朝遅れてた理由はそれかよ!でも砂漠の街でも……あ、普段夜遅くまで待っちゃうから、生活リズムが狂ったのか。あるある。

 ―――ツッコミどころが多過ぎて処理しきれん。

 金髪ロールに引っ張られ宿の中へ。最近は宿泊客が増えてきたなー。多少頑張って広めたのがよかったのかなー。などと思っていた自分を殴りたい。っていうかさすがに不自然なまでに増え過ぎなんだよ。これ金髪ロール匿う代わりに国からバックアップして貰いやがったな!?

 いや悪くないんだけどね!決して悪い話じゃないんだけどね!畜生め!!

 店主の前を素通りして、いつもと違う番号の扉をくぐる。というより放り込まれる。扱いが犬猫みたいなんだけど。

 狙ったのか素なのか、出口を体でガードする金髪ロール。逃げ道は……窓?でもガラスって結構鋭いらしいから、窓から逃げるなら先に割ってから出ないといけない。金髪ロールの動きだったら止められるか。

 ってかそもそも知らない宿ならともかく、別の部屋とはいえ泊まってる宿の窓破壊したら確実に弁償だよね。うん。知ってた。さらに言うと逃げる前提で考えてるのがもうなんというか救えない。

 さて、いい加減現実逃避をやめよう。

 金髪ロールは話し合いをするために私をこんなところに呼んだらしいけど、一体何の話があるんだか。

 冒険者としての話?だったら中年男が一緒にいた方がいいし。他に何かあったっけ?秘密関連がバレてるとは思えないけど……だめだ。さっぱりわからない。普通に聞こう。


「この際拉致されたのはおいときまして、何の話があってこんなところに連れ込んだんですか?」

「ちょっと待ちなさい。今なんて言うか考えてるから」


 いや話すことは先に決めとこうよ!?いつでも考える時間なんてあっただろう!?こちとら引っ張られてる間に、十パターンぐらい秘密裏に金髪ロールとついでに中年男を殺すシュミレーションしてたのに呑気なやつだなおい。なお後半中年男がメインになったのは秘密事項だ。

 とりあえずどんな言葉がとんできても良いよう待ち構えていると、突然金髪ロールが一人で大きく頷いた。


「どうして貴方はそんなに強いの!」


 ふむふむ、うん。……ん?


「……あ、今のが質問で?」

「それ以外の何に聞こえたの?」


 いや、なんというか、質問というには最後がビックリマークだったので。金髪ロールの質問ってクエスチョンマークで終わらないのね。


「ちゃんと答えて。どうやって貴方はその強さを手に入れたの?」


 念を押してもう一度聞いてくる。

 にしても、んー。困ったな。強いかどうかはともかく、私の力の源の八割はフュージョン。残りの二割は転生者特有の魂操作と多少の知識で、ぶっちゃけ人に話せるようなものじゃない。

 とりあえず、困った時は適当に話をはぐらかすのが一番だ。大概はそれで解決するし、解決しそうになくても全力ではぐらかす。


「何を勘違いしてるのか分からないけど、俺はそんなに強くないよ?」


 完璧。というかこれ意外解答のしようがない。

 が、どうやら金髪ロールは納得しなかったらしい。


「はぐらかしても無駄よ。レッドスコーピオンと遭遇して無傷で生き残った人間が、弱いはず無いじゃない!」

「レッドスコーピオン?」


 レッドスコーピオン!?なぜここでその名前が出てくる?

 いや、失敗したのか。レッドスコーピオンの話は砂漠の街で結構話題になっていたし、金髪ロールの耳に届いてもおかしくない。気絶から目覚めた直後は誤魔化せても、街の噂と気絶直前の記憶が合わさればレッドスコーピオンに行き着いてもおかしくない。

 もし私の予想が正しければ、金髪ロールの思考能力を上方修正する必要があるかもしれない。その上でレッドスコーピオンの話を持ち出したとなれば、もしかしてフュージョンのことがバレた?中年男は命欲しさに黙ったけど、仮にも王女の金髪ロールが見逃せなくて呼び出した?

 ダメだ。情報が少ない。ここはまだ適当なことを喋って情報を引き出してみよう。


「どこで話を聞いたか分かりませんけど、私達が遭遇したのはただの魔物蠍ですよ。きっと光の反射で赤く見えただけでしょう」


 私達とレッドスコーピオンを結び付けれるのは気絶直前の記憶だけ。そんな曖昧な記憶ならば否定され続ければ自分で自分を疑い始める。うん。あんまりやりすぎると病みかねない手段だから注意が必要だけど。

 さぁ。今度はどう出てくる金髪ロールよ。


「別に強くなる方法が知りたいわけじゃないの。強くなった理由が知りたいのよ!」


 あれれ?


「強くなった理由?」


 ちょっと待って?レッスコさんの話はどこにいったの?あんまりそこは重要じゃないの?だとすればフュージョンバレの危険は無い?

 私が一人混乱して言葉を繋げられないでいると、なぜか金髪ロールが何か決意した思いつめた顔で話し始めた。


「私は仮にも剣の才能があると言われた。才能に奢らず毎日剣を振り続けた。他の全てを犠牲にして、剣だけを振り続け、やっと今の力を手に入れた。だけど貴方は私の遥か先にいる。遥か先の力を持ちながら、知恵も捨てずに持っている」


 いきなり何言って?いや、違う。そうか。そういうことか。


「教えて。貴方は何を思ってそこまでの力を手に入れたのか」


 失敗した。ああ失敗した。ついさっき聞いたばかりの話だ。私は誤解してた。

 この世界で『力』ってやつは私が思ってる以上に重要なんだ。

 忘れていた。というよりも、意図的に目を逸らしていた。何より力に生かされてるのが私自身だから。力で他者を叩き潰して生き残ってきたから。

 前世の暴力は悪という価値観。そして何より自分でも異様と分かる力に溺れないように、無意識の内に抑圧して、力なんてつまらないものだなんて嘯いていた。この世界で最も必要とされているのが力だと知りながら。一体何のアニメだったかな。英雄なんて他者より多くの人間を殺せたものだ、みたいなセリフがあったのは。ここはそんな世界なのだ。

 あの年の中年男が三位。それでも冒険者の中では実力者な方。冷静に考えれば金髪ロールも年齢を考えれば希少な実力者なのだ。さっきの話を聞けば並じゃない努力をしたらしいし、身分から環境だってトップクラスだっただろう。そりゃそんな人から見たら私は異質過ぎる。強さに対して理不尽さと理由だって求めてしまうだろう。

 でも、だからこそ困る。私の能力は全てズルでできているから。

 力は転生者の魂操作能力とフュージョン。互いにほぼ修行期間なんて必要無かったし、知識があるのはその分他のことに時間を使えたから。さらに言うと仮にも十八過ぎの人間と子供じゃ学習能力だって違う。参考程度とはいえ、学校の授業だって基礎知識として役に立った。

 なんて言えば良いわけこれ?答えの無い質問って鬼畜過ぎませんかねぇ。哲学なの???

 畜生。悪手だ。今から私がやるのは最悪の悪手だ。


「そう言われても、私には特にこれといった理由なんてないんですけどね」


 あれだけ真摯に自らを打ち明けた相手に対して、はぐらかすという選択肢。

 多少頭が回ると分かっても、金髪ロールの行動は動く前から分かっていた。分かっていたっていうのに。

 ―――全然見えなかった。

 ちょっと待ってちょっと待て!何だいまの獣みたいな動き!?お前普段の言動と違って論理派の技術剣士だろう!?

 ああ違うそうなのか。こっちが素か!そりゃそうだ。普段あんな性格の金髪ロールが、あんなに綺麗な剣を使う訳がない!どこで間違ったのか分からないけど、今の獣みたいな動きの方が本来のスタイルなんだ!

 くそう。不覚だ。今の動きに殺意があったら殺されかねなかった。よしんば生き残っても、殺し返さないといけないところだった。だから私なんて強くないって言ってんだよ馬鹿野郎!!


「はぐらかさないで!!そんな力をただ茫洋と手に入れられるはずがない!何か無いとおかしいじゃない!」


 混乱しまくるしまくる思考の代わりに、体はいつもの習慣をなぞって勝手に動いてくれる。


「そ、そう言ってもな。俺ははぐらかしてなんか……」

「その気持ち悪い言葉遣いよ!それがはぐらかしてるっていうの!」


 …………え?

 混乱していたタイミングに、予想してない人物から言われた予想内の言葉。たぶん最初に言ってくるのは中年男だろうと予想してたからこその混迷。


「ど、どういう……」


 久しぶりに、思考を通さない素の言葉が漏れる。


「まず一人称!私だったり俺だったり僕だったり自分だったり。それに丁寧語だったかと思えば、突然崩れた話し方をするし、妙に挑発的な言葉で煽ったりする!」


 事実だ。何一つとして間違っていない。


「私はバカだけど分かる。貴方は賢い。なのにそんな変な喋り方をする。まるで自分から他人を突き放すように!!」


 金髪ロールは意外とバカじゃないのかもしれない、なんて思ってた。大間違いだ。そんなもんじゃない。

 きっと私が思っている何倍も他者を見ていて、他者を思っていて、だからこそどこかで歪んでる。そして根本的な理由は分からないけど、少なくともギルド内での歪みに関しては私が関わってしまっている。異世界から転生してきたなんていうイレギュラーのせいで歪ませてしまった。


「貴方は何なの!一体どれが嘘でどれが本当なの?それとも全部嘘なの!?見せてよ、教えてよ!本当の貴方の言葉で!!」


 ああもう。これじゃあ前世で私を殺したアイツを恨めない。

 冗談抜きで。ただ心の底から湧き上がる嫌悪感だけで、目の前にいるコイツを殺してやりたい。

 どうしてそこまで人が目を背けたい弱点ばかりついてくるのか。天然でやってるんだったら最悪だ。分かりきっていたけど、目の前の少女と私の相性は最悪も最悪だった。

 私がなんなのかなんて、それこそ私に聞かないで欲しい。

 前世の私は死んだ。この世界で物心ついて私が目覚める前に芽生えかけた、小さな誰かも私の代わりに死んだ。ルプス=クロスロードだって肉体的には完全に一度死んでる。じいさんと、そして他にもきっと沢山の人が託したであろうクロスロードの性にも逆らってる以上死んでるも同然。他人が呼びやすいようにルプスと名乗ってるだけの何か。

 年齢だって曖昧だ。前世の私の享年は十八歳。それ以降を過ごしてないせいで二十なんとか歳とも言えない。もちろんルプスの肉体年齢の五歳なんてものじゃないけど、単純に前世の享年に足したって正しい年齢とは思えない。

 未だに心の中で私と言っていても体は男。今なんて主体は悪魔の体。むしろその中にある形もよく分からない魂が本体。

 私が誰かなんて、むしろ私が教えて欲しい。


「最初に言ったとおりですよ。私は強くなんかないんです」


 何もかもめちゃくちゃ過ぎて、何もかもをぶち壊して終わりたくなる。でも臆病だから死ぬのが怖くて、結局最後はそこにいきつく。


「私はただ怖いんですよ」

「……怖い?」


 そう。死ぬのが怖い。


「怖いですよ。何もかもが」


 生きるのは辛いけど、死ぬのはもっと怖い。そして生き続ける限り、いつか死ぬ可能性があるから一生怖い。


「あの影に誰かが潜んでいないか。曲がり角から誰かが襲ってこないか。通りすがる人は攻撃してこないか。目の前で離してる人間は安全か。今から使う道具は罠じゃないか。ご飯の中に毒が含まれてないか。移動する場所に危険はないのか。突然不治の病にかからないか。起きたら明日目覚められるのか」


 失ったものが多すぎて。今自分が生きているということ以外、はっきりとしたもの一つもが無い。


「人との関係が深くなれば深くなるほど、深い関係の相手から殺されないか。深い関係の人が殺されないか。気になって仕方なくなってしまう」


 私を失わせたアイツのように。私を保たせてくれたじいさんのように。


「だったら最初から親しい人なんていらない。人との関わりは喜びも悲しみも産むっていうなら、喜びを切り捨ててでも悲しみなんていらない」


 怖い死を明日に送り続け、そしていつか死ぬ。

 それだけでいい。生き物として、たったそれだけは失いたくない。

 金髪ロールが何か叫んでいたけど、既に私の耳には何も届いていなかった。

 立ち枯れていく草木のように、私はしばらくその場に居続けた。

普通に現実でも体と精神の性別が違ったりするのは病気です。

いつでるか分からない設定をいいますと、この世界に純正の魔術師はほとんどいません。理由としては、詠唱とか実戦向きじゃないってのもありますが、才能がある人間でも日に十回も使えば魂の疲労で使えなくなる上、基本使い続ける人間は廃人になるからです。なお、自身に対する回復魔術のみは極端に消耗が少ない。

その上で、魂自由に動かせるからいくらでも魔術使い放題?(そんなわけ)ないです。当然病みます。無痛症だから腕が壊せるほどの力で殴っても大丈夫とか言ってるようなもんです。

ならなんで今は平気なの?って話になりますと、SAN値0ってもう減らすものないですよね?ってだけです。正直さっさと死ぬのが世界的に正しい。

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