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ニート気質な私、なぜ『俺』はこんなことをやっている?  作者: 米木寸 戸口
幼少期 ギルド編
44/62

砂漠に潜む赤影

 ソレ、は長い間この一帯の主として君臨していた。

 だが実際にソレが動いていた期間は短い。ソレと共に動いたことのある蠍は、今や極少数で、人間達の言い方をすれば片手の指で数えられるほどだ。

 それでもソレの影響は確かに蠍達に刻まれていた。蠍達が最もよく使う囮戦法も、元を正せばソレが発案した戦い方だ。

 一つ誤りがあるとすれば、囮戦法はあくまで強力な個体だったソレがいたからこそやれていたことで、普通の蠍がやった場合、囮役の生存確率は絶望的であり、同じ戦法ばかり使うせいで人間には完全に対策をとられている。

 しかし誤った戦法のせいで同種の蠍が討たれていても、ソレが動くことは無かった。元より力無きものが淘汰されるのは自然の定め。絶滅するほどでもなければ、後はどうとでも辻褄が合っていくだろう。そうやってソレは長き時を人間も訪れないような奥地に潜って過ごしていた。


 そんなソレが目覚めたのは、妙に奥地まで接近してくる気配を感じ取ったからだ。

 とはいえ、ただ奥地に来るというだけでは別段意識する必要も無い。こんな()()()()()()()に一体何の用なのかと考える知能はあるが、時折調子にのった若い人間が来るのは稀に良くあることだ。矛盾した言い方だが、自分が納得する分以上に、ソレが言語を費やすことは無い。他者の理解が必要ないならば、勝手な言葉使いで構わない。

 例え奥地に迫ってくる者が若いにしては異様な殲滅スピードをもっていても、そんなこともあるだろうと目をつぶるのみ。自分だって突然変異的に強い個体なのだ。人間だって同じ生物なのだから、偶々強い個体も現れるだろう。どちらにしても多少強い個体がいる程度で大局に影響することは無い。過去の自身の経験からそう判断し、やはり奥地でソレは眠り続ける。


 再びソレが目覚めるのに、そう長い時間は要らなかった。

 悍ましい気配を察知したソレは、今度こそ完全なる覚醒を果たした。

 放っておけば、種族の存続にすら関わりかねない波動。それは過去、ソレが人間に戦争を仕掛けた時にしか感じたことのない大規模な魔術反応だった。

 一つ一つは大したことのない。しかし合わせれば強大な波となる力の奔流。

 ソレは慌てた。ルプス達は知らないことだが、広大な砂漠の中にはもちろんルプス達以外にも訪れた人間はいる。ソレは優れた探知能力をいかんなく発揮し、砂漠を調べ上げ…そして結果が出た段階でおかしいと考えた。

 実を言うと、最初に波動を察知した際、既にソレはどの人間グループが今の魔術を使ったかは分かっていた。それでも念入りに調べたのは、自らが知覚した内容に違和感を覚えたからだ。

 一人が強大な魔術を使ったのは納得しよう。元よりソレに近い奥地まで少数で接近してこれるぐらい強い人間なのだから。

 複数人が強大な魔術を操る。これも納得できる。人間の数は多いのだから、強大な者も多いだろう。

 しかしたった三人。いや、知覚能力を絞れば遠方にもう一人いることが分かった。それでも四人。四人でアレほど多い魔術を使うのは異常な事だった。

 何かが迫ってきている。恐ろしく、同種達を危機に陥れかねない何かが。

 今まで広く浅くはっていた知覚能力を訪れる四人のみに絞って観察を続ける。そしてソレはさらに恐ろしいことに気づいた。恐ろしい何者か達は、迷うことなくソレに向かって迫ってきているのだ。ソレがいることを除けば何もないただの砂漠の奥地に。

 このまま来るのならば戦わねばなるまい。同種達の生存のためにも、こんな不確定で恐ろしい者達を生かしておくわけにはいかない。

 奥地でひっそりと身構え始めたソレの意識は、甲斐なく再び裏切られることとなる。

 今度はたった一つだが、過去経験したことがない強大な波動を感じたのだ。一瞬で二体の仲間を葬った力は、驚くべきことに先ほどの悍ましい魔術を発した者とは全く違う波動を感じた。今度の波動は荒々しく、どこまでも野生の力を感じるものだった。

 四人の内二人が今まで予想もしなかった強者。そして存在が薄いが、後方にいる一人は集中するまでいるのに気づかなかったほど隠密に長けている。

 もはや自らのところに来るのを待ってはいられない。自らも魔術を使うと、周りの砂を操作し、ソレは一直線に人間達の元に向かった。

 地中から行くのは、あくまで地上にいたら近づくまでに何をされるか分からないから。ここまで音を立てては下からの奇襲も効きにくいだろう。

 地上に出た直後から、最大級の一撃で片を付ける。

 目的が近づいたことを確認したソレは、思考をそこで中断すると一息に地上に飛び出た。


「レッドスコーピオン…」


 魔術用語。ルプスは日本名と英名だろうぐらいにしか考えていない言語で呼ばれたソレ。意味はもちろんそのまま赤蠍。

 ある意味間違いでもない勘違いを抱いたまま、レッドスコーピオンは巨大なハサミを人間達に向けるのだった…。


ル「つまり決め手はエリザさんですね」

ロ「大体お前が悪い」


今回は短かった(当社比)ですけど、話のキリ的にここで終了。

次回は対策と、中年男がカッコイイ…シーンが見せられたら良いな(願望)。

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