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ニート気質な私、なぜ『俺』はこんなことをやっている?  作者: 米木寸 戸口
幼少期 ギルド編
41/62

平原→森→砂漠。大衆向けRPGかな?

 さんさんと照りつけてくる太陽。見渡す限り広がる砂は光を反射し、空気を容赦なく熱する。

 この世界に来てからは晴天の日はかなり喜ばしい天候だと思っていたのだが、同じ晴天でも日差しが心地良い一日と、熱中症対策が必要な一日は違うだろう。…と、以前までの私なら言っていたところだ。

 というのも、もちろん暑くはあるのだが、なんというかこう…耐えられないというほどじゃない。別に元の世界の夏に慣れてたからとかではない。単純な温度で言えば砂漠であるこっちのほうが高いに決まってるし。

 人の言葉で表すのが難しいのだが、今の私は暑さ、というより熱に対する耐性を持っているらしい。国都まで来る途中で、熱された鍋を何も考えずに持って驚かれるという失態を犯して知ったことだが。

 前世の漫画とかで、溶岩をお風呂にする種族が出たりしたが、今の私はまさにそんな感じだ。さすがに溶岩には溶ける自身があるが、四十度ぐらいのお風呂ならほぼ何時間でも浸かり続けれる自信がある。我ながら人間という生物がどんな生き物だったか忘れそうなぐらいのデタラメっぷりだが、私は私だ。身体の構造が違うとか、そんなの転生したときに男になって既に味わっている。オスメスが変わるだけで正直同じ生物かと首を傾げたくなるわけで、そこにファンタジー世界に転生させられたときたら考えるのも面倒になってくる。


「それにしても暑いわね…足元も砂で歩きにくいし」

「そりゃ砂漠だからな。それに暑さだけが問題じゃない。巻き上がる砂も体に影響を及ぼす。近接戦闘中に目に入るなんてことになったらたまらないからな」

「何度も言わなくていいわよ。貴方が煩いから、こんな邪魔くさいローブまで羽織ってるのよ」


 前を歩いている金髪ロールと中年男から愚痴が溢れてくる。まぁあんな風に愚痴りたくなるほど暑いのと比べれば、この体も悪いものじゃないと思えてくる。そもそも不都合は無いしね。

 ちなみに金髪ロールの言葉通り、今の私達はいつもの服装に加えて、茶色の安全性だけを考えました!みたいな雑なローブを羽織っている。フード付きでサイズも多種多様で、大人の中年男から、同年代の他の子供より、少しだけ高めの私や金髪ロールまでちゃんと全身を覆えるローブを着れている。

 わざわざ婉曲的に言う必要なもないか。これは今居る砂漠に対する装備。砂漠だけでなく、旅のお供として色々な場面で使える優れものだ。かくいう私も布団や毛布代わりに良くこのローブに包まって寝たことがある。薄布一枚と侮るなかれ。これが意外と温かいのだ。いやまぁ暑さに耐えれるように寒さにも耐性ができてるから、最悪いらないんだけど、文明的な生活って素敵だよね?これに文明を感じるのもどうかと思うが。

 ともかく、改めてもう一度言うと、私は今砂漠に来ています。ちなみに赤道?なにそれ美味しいの?と言わんばかりに変な位置に存在する砂漠だけど、この世界に元の世界の地理の知識は当てはまらない。ゲームをやってる時に一々現実の地質学など考えないように、ファンタジー世界ではなんでもありらしい。もう考えるのも面倒くさい。

 なぜいつもの森と違って砂漠などに来ているかというと、話は数日程前に遡ることになる―――。



―――数日前。ギルドにて―――



「長距離狩猟訓練。ですか?」


 突如言われた言葉に、確認の意味も込めて私は中年男が言った言葉をそのまま返した。


「そうだ。今までは日帰りできる森にしか行ってこなかったが、正式な冒険者になるならば、野宿覚悟で遠くまで行って狩りをする必要が出て来る。特にこの国都の場合、ギルドがカバーする範囲も広いからな。長距離狩猟訓練はどうしても必要になる」


 中年男がいつになく大真面目に説明してくる。何か企んでますよと言わんばかりの不自然さだが、真面目にお付きをしていた時はこんなものだったのかもしれない。中年男がお付きとしての顔を見せるのは、大概金髪ロールを怒るときなので、いまいち判断がつきにくい。

 ちなみに長距離狩猟訓練とは文字通り、遠くまで行って狩猟をして帰ってくることだ。正確にはそれをする訓練。村から国都までの移動時間を思い出してもらえば分かるだろうが、この世界の国の国土は結構広い。元の世界の世界一広いどこぞほどではないが、統合と分離を繰り返してたお隣さんぐらいには広い。必然的に冒険者は一言に依頼をこなすと言っても、場所によっては何日も野宿した上で移動して、目的のために何日も狩り、さらに何日もかけて帰ってくるというハードワークをこなすこともある。

 これは先日聞いた話だが、依頼の中でも特定の魔物の素材を手に入れるという依頼は難易度が高いらしい。というのも、前に話した通り、倒した魔物から何が取れるかは完全にランダムであり、しかも生前の傷は残ったまま出てくるらしい。どうせならそこまで再生されればいいのにと思うが、場合によっては魔術で燃やした灰みたいなのが出てくるだけみたいなことがあるとのことだ。

 ランダムはランダムでも実は部位によって確率も違う。前世的例えで言えば某狩ゲーみたいなものだ。そして部位を頼む依頼の大抵は、取れにくい部位を頼んでくる。部位の取り出しはギルドでないとできないので、対象が遠い場所にいる場合月単位でマゾい周回ゲーをリアルでするハメになる。私は絶対にやりたくない。

 …また話がズレたけど、まぁマゾゲーはしないまでも長距離狩猟をするのは大事だという話。私は長距離移動と狩りはやったことあるけど、真面目に狩りのための長距離移動というのはやったことがないので、学ぶべきこともあるだろう。なんだか社会科見学する真面目な生徒のまとめ文みたいになったな。皆が方便で書いてるアレ。


「なるほど。そのために休日に呼び出したんですか?」

「そういうことになるな」


 私の言葉に重々しく頷く中年男。お前がやっても貫禄でないぞ。

 会話という素晴らしく文明的な行動によって互いのことを把握した私達だったが、そのまま話進むかと言えばそうは問屋がおろさない。


「何よ!折角休日も狩りにいけると思ったから来たのに、そんなことを言うためだけに呼び出したの!」


 横から余計な上に勘違いしたセリフを言ってくるのは、もちろん金髪ロール。フル装備な彼女は、頭から湯気が出てくるのを幻視してしまそうなほど真っ赤な顔で怒鳴り立てる。


「ふんっ!狩りに行かないなら私はもう帰るわよ!」


 金髪ロールの言葉に思わず頭を抱えたくなる。当然な話だけど、そんなことを言うためだけにわざわざ休日に呼び出す訳がない。

 ついでに補足すると、私達のパーティは週に二回。向こうで言うところの水曜日と日曜日を定休日としている。冒険者なんて肉体労働の上に命の危険まである職業に対して、何で休息が必要かなんて説明はいらないだろうが、残念なことに金髪ロールは一日でも多く狩りに行きたいと休息日になる度に煩く騒ぎ立てる。何度か一人で狩りに出ようとしていた、というのは警戒してギルドで見張っていた中年男の言葉である。


「待て待て嬢ちゃん。俺だってヒマじゃないんだぜ?わざわざそんなことを言うためだけに休日を使うわけが無いだろう」


 ヒマじゃないというのは酷く嘘くさいが、概ね言ってることは正しい。現状とりあえず理由があると言えば、金髪ロールは話を聞くだけは聞いてくれる。なぜかと思って中年男に聞いてみたところ、どうやら彼女の剣の師匠から、人の話を聞く事だけは叩き込まれたようだ。ちなみにこっちは例の金髪ロールを常に見張ってる人間が中年男に教えたことの又聞きだ。中年男もなぜ話は真面目に聞くのか気になって聞いたとのこと。なお聞くだけで言う通りにするとは限らないのはここでも城の方でも同じらしい。


「じゃあ何の用事があるのよ。その…狩猟訓練?」

「長距離狩猟訓練ね」

「それそれ。それをするならすればいいじゃない。野宿?望むところよ。とうとう冒険らしい冒険が始まるのね!」


 先程までの言葉とは裏腹に、金髪ロールは機嫌よく叫ぶ。…もしかして良い話を聞いたのに、今すぐ実践できるわけじゃないことに怒ってたのか?ダメだ。いくら私でも見知らぬ動物の行動を察することは出来ない。え?お前の方が人間としては色々アレだろって?あー聞こえない聞こえない。


「今回はとりあえず訓練だがな。ただし、だ」

「ただし?」

「わざわざ休日を使って呼び出したのは他でもない。坊主はともかく嬢ちゃんは本当に分かってるのか?長距離狩猟ってのは普段の狩りとは全然違うんだぞ?」


 脅すように怖い感じで言う中年男だが、金髪ロールは首を傾げるばかりだ。


「どうして?狩場が遠いだけでしょ?何が違うっていうのよ」


 金髪ロールの言葉に予想はしていたのに心と体がグラつく。コレが他人ごとなら面白おかしくズッコケてやってもいいが、残念なことに彼女は私のパーティメンバー。リアクションをとる以上に、頭痛が押し寄せてくる。

 中年男もそうなのか、額に手を当てて盛大にため息をついた。


「その狩場が遠いってのが大事なんだ。お前は簡単に野宿覚悟なんて言ったが、野宿するのに必要なのは覚悟じゃなくて適切な知識と装備だ。知識に関しては今回はそれを教えるのも合わせての訓練だが、装備は事前に準備しなければならない」

「つまり何が言いたいわけよ?」

「…ここまで言っても分からないのか?」


 中年男がこの世の絶望を見たような表情で尋ねる。

 もし私が彼の立場だったら、同じような顔をしていただろう。だが喜ばしいことに、こういった場面で金髪ロールの相手をするのは中年男の役割りだ。他人事とはいと素晴らしい。いっそのこと優雅に足を組んでお茶でも飲みたい気分である。


「つまりだ。今から街に買い物に行く。もちろん嬢ちゃんも着いてこい」

「ええー、また買い物?」


 金髪ロールが露骨にというか一切隠すこと無く嫌な声を上げる。女子としては珍しいことにと言うべきか、金髪ロールは買い物が苦手だ。

 前に普段の狩りのための買い物にでかけた時も、超絶適当にほぼ全てを中年男に任せていた。一応今後壊れた時に買えないようでは、冒険者を名乗れない、と中年男がいつもの脅し文句を言ったため渋々着いてきていたが、あれで金髪ロールがちゃんと覚えていたかは怪しい。

 ただ武器屋に寄った時だけはテンションが高かった。とりあえず寄っただけで、買う物も無かったと言うのに、長々と商品棚にへばり付いて待たされるハメになった。…正直なんだか見覚えがあると思ったら、本屋に寄った時の私と反応が似ていたのだ。特に買うものがあるわけでもないのに、冷やかしに店内を二、三週ぐらい回ってしまう。何だか不愉快な共通点なので、気づかなかったことにした。


「買い物なんて冒険者がやることじゃないわ。こう…もっとド派手に、剣一本持って動物捌いて食って突き進むみたいな!!」

「水はどうするんだよ。それに剣じゃ仕留めにくいだろ」

「生き血を啜るとか」

「吸血鬼かお前は!」


 吸血鬼!この世界でもその概念あるのか!

 変なところに反応する私だった。


「ふん!一々やらなくったってなんとかなるわよ!」

「そんなこと言って。俺たちだって自分の分を持つのに精一杯なんだ。後から水や食料が無いなんて嘆いても、前みたいに貸してやらんぞ」

「む…」


 買い物嫌いの金髪ロール。前述した買い物に連れていけたのは、中年男の脅しが聞いたというのもあるが、実際に一度狩場で管理を怠っていたせいで食料と水が尽きて、中年男が貸したことも要因の一つだ。もちろん私は一欠片も渡していない。

 結果的にパーティ全体のその日の備蓄がそうそうに尽き、いつもより早めに帰ることになってしまったのだ。普段からもしものために多めに食料を持ってる中年男の物を、自分の物以上にぞんざいに食い散らかす金髪ロールは、当時少しは慣れていた私に改めて悪寒を感じさせた。もしこれが向こうの世界だったら、少々強引な手を使ってでもグループから排除し半いじめ状態に持っていく。というより私がしなくても周りがそうしただろう。

 この世界でだって彼女が王女様でなければ…もっと言えば私が関わる必要が無ければ、確実に暗殺していただろう。いや関わる必要がないのならそんなことする必要もないのか。でもやっぱりコイツを生かしておくのは世界経済的に間違いな気がするのよ。


「最悪準備不足で着いてこれないようなら、お前だけ置いて俺と坊主の二人だけで行く。もちろん一人で冒険者活動をしないよう門番やギルド員にも言い渡すし、そうなった理由も話せば正式な冒険者になるのは遠くなるだろう。それで構わないなら今日はもういい。俺だってやることがある。帰るがいいさ」

「な、なによその言い方は!行くわよ!行けばいいんでしょ!!」


 最初からそう言えばいいのだ。

 それにしても相変わらず中年男は選択肢を与えないような言葉が上手い。まぁお付きであり、冒険者になれるかどうかの手綱を握っている強みが有るとはいえ、このYESかはいかを選ばせるみたいな会話術はぜひ習得したい。いつ使うかはともかく、金髪ロール相手には使えそうだし。


「買い物はいいですけど、その前に質問していいですか?」


 金髪ロールの話が終わったのを見計らって、私は声をかける。


「ん、ああいいぞ…というか、予想はつくがな」

「ええ、言ってなかったってより言えなかったという方が正しいのは分かっています。それはそれとして改めて、行き先はどこなんですか?」


 本来であれば、遠いところに狩りに行きますと宣言を聞いたら、こうやって目的地やなぜそこに行くか。そして行くための経路などを最初に計画立てるべきなのだ。何故か私達の場合は、その会話の中に金髪ロールの説得という死ぬほど非効率的な行動が入り込んでしまっている。

 なんだったら私は、計画の話をするために呼び出されたと思ったぐらいだ。怪我の功名と言うべきか、長い旅生活の間に移動計画の組み立ての重要さは嫌というほど学んだ。じいさんのおかげで地理は何となく覚えていたが、さすがに行き交う馬車や商人のことまでは分からなかったせいでどれだけ苦労したか。


「まず目的地だが…」


 説明を始めた中年男の言葉を聞いて、私はいつものように飛び始めた思考を修正する。

 …失敗があったとすれば、これからの計画に意識が向いていた私は、この時妙に中年男が最初真面目だったのを忘れてしまっていたのだ。

 身近な人間の変化には、どんな些細なものでも気をつけろ。長らく関わる対象の半分ぐらいが生死を狙う関係だった私は、そんな基本的なことを忘れてしまっていたらしい―――。



―――現在。砂漠にて―――



 そんなことがあって、私は今この砂漠の地に立っている。

 つまるところ仕事の一環だ。と言っても前世では小市民的な学生だった身としては、仕事なんて言うより部活の遠征とか言ったほうが身近である。まぁ文化系だったから人聞きの情報なんだけど。

 暑さはとにかく、いつまでも代わり映えのない景色というのは少しこたえるものがある。靴の中に入り込む砂もそうだし、数字だけで人を見る人間には分からないかもしれないが、人間の感情というやつは結構大切なものなのだ。軍でも感情を蔑ろにした連中はいつも足元を救われてるイメージがある。小説で読んだ軍隊だけど。

 この世界においては魔術のおかげで水に困ることはないが、代わりに出てくる問題だってある。


「来たぞ」


 私達の視界の先で、不自然に砂が盛り上がっていく。盛り上がった砂は一定の位置で地面に落ちていき、まるで巨大なベールと化している。

 少しして砂のベールが剥がれると、そこには異様な巨体が出現していた。


「グアアアアアアアアアア!!」


 お前声帯とかあるのかよ、とかいうツッコミは魔物には通用しない。何と言っても豚から人間が生えるような存在だしね。

 素早く、というより待ってたように勢い良く剣を抜いた金髪ロールは、そのままいつもの大上段に剣を構える。中年男も油断無く剣を抜き、すぐにでも前に出れるように構えている。

 さすがに二週間以上一緒に行動していれば、対応も慣れたものになる。…もちろん魔物よりも主に金髪ロールに対しての対応にだが。

 今回現れたのは全長三メートルほどの大蠍。既にこの砂漠で何度も戦った相手であり、付け加えて言うならば、ほぼコイツ以外見ていないと言ってもいい。前述の魔物の特性を考えると特に違和感もない話だけど。きっとこの一帯は彼らのテリトリーなのだろう。


「はっ!」


 気合一声。直後、恐ろしい速度で金髪ロールの体が動く。

 その速度はまさに疾風迅雷。動いたと知覚した直後には、既に敵の目の前に立っているのだ。少なくとも人間体では目で追うことができない。

 金髪ロールの剣と、魔物蠍が真正面から衝突する。金髪ロールの剣は確かに立派な作りをしたものだが、魔物蠍の光沢を帯びた黒い外装を見ると、どうにも勝てるビジョンが浮かばない―――前世の常識で考えれば。

 金髪ロールの剣は蠍に当たった瞬間、吸い込まれるように外装を砕くことすら無く内側に剣を切り込ませていく。鋼の塊がハンマーでも使わないと打ち砕けなさそうな物体に打ち勝った瞬間だ。

 剣は留まる所を知らず、そのまま地面まで切り抜けた。さらにその威力は前世の記憶を振り切るように駆け抜けていく。

 前にも言ったとおり、金髪ロールの剣は子供に長さを合わせたこともあってそこまで長くない。対して蠍は全長三メートル。体型から高さはそこまででは無いとは言え、やっぱり子供の身長と比べると高い。そんな魔物が、だ。

 金髪ロールの攻撃を受けた瞬間、見えないギロチンに断ち切られたかのように蠍は真二つに断ち切られた。

 相変わらず馬鹿げた火力をしている。それもアウトレンジから突如として目に追えないスピードで迫ってくるのだ。正直人間体だったら私だって対処できるか怪しい。防御系でも単純な土系統の防御とかなら盾ごと潰されそうだし、水も雷属性のあの速度についていけなれば怪しい。なんだかんだ初めに特攻をかます金髪ロールを止めないのは、ある程度効果があると知っているからこその話だ。

 だがもちろん強力な攻撃は完璧な勝利に繋がるとは限らない。人間みたいに対策をとるようなことは無いにしても、決して魔物は無知無策という訳ではないのだ。どこかの金髪と違って。

 ぼこり、と金髪ロールの右側の砂が持ち上がる。その下から現れたのは先程倒した蠍と同じ造形をしたハサミ。同タイプの別の魔物がすぐ近くに潜んでいたのだ。


「坊主!俺からじゃまだ届かない!」


 普段の森であれば途中の木々が邪魔してそこまで突出できない金髪ロールだが、砂漠の上では阻むものがない。必然的にパーティから離れる距離も遠くなり、いくら事前に準備していても、純水属性な中年男ではフォローが間に合わない時がある。

 そんな時に働くことになるのが私だ。後衛からの援護、殲滅、周辺探査、その他諸々は大体私の仕事になっている。ハッキリ言うと私だけやること多くないですかね?労基とかないんですか?

 愚痴は愚痴としてやるべきことをしよう。【闇弾】を四つ展開すると、特に躊躇うこともなく全力でハサミの付け根部分に向かって投射する。

 悲しい話だが、四位魔術である【闇弾】であっても金髪ロールの攻撃力には遠く及ばない。例え四発連続で狙い違わずハサミの根に直撃し、衝撃で小爆発地味た粉塵が舞い上がっていても、結果としては魔物蠍の腕の半分を抉る程度の火力しかでない。いくら魔物蠍が土属性持ちといっても、もうちょっと火力が出てもいいんじゃなかろうかと。


「グガアアアアアアアアアア!!」


 私の攻撃が痛かったのか、雄叫びを上げながら砂の下に隠れていた魔物蠍が姿を表す。分かりやすいように、金髪ロールに切られたヤツを魔物蠍A、今出たやつをBとしよう。

 折角隠れてたのになぜ体を表すのかと真剣にBに尋ねたいが、こちらとしてはそのほうがやりやすいので問題無い。さてさて次はどうしようかな、と考えていたところで、中年男が金髪ロールの近く。Bの目の前に到着した。


「こっちだ平野郎!他所見てんじゃねぇ!」


 近づき際に剣で魔物蠍をバンバンと叩き、視線を向けさせる中年男。相変わらず盾役の鏡とでも言うべき素晴らしい動きをしてくれる。

 Bの残った攻撃手段は、破壊されてない方のハサミと巨大な針が付いた尻尾。どちらもまともに受ければ人間など一撃で致命傷になりかねない危険なものだが、中年男は余裕の表情で剣を片手持ちにし、ゆらゆらと揺らしている。

 やがて痺れを切らした魔物蠍Bが残ったハサミを振り下ろすと、予め決められていた稽古のようにハサミが剣の上を滑って流される。魔物蠍Bのハサミ攻撃は、勢いをそのままに深々と砂に突き刺さると同時に、不安定な足場での動きは本来慣れているはずの魔物蠍Bに一瞬の隙を作った。

 私達のパーティにその隙を逃す人間はいない。中年男は受流しと同時に体をずらし、金髪ロールと魔物蠍Bとの間が直線の道を作る。魔物蠍B側からすれば、既に剣を上段に構えた金髪ロールが見えたことだろう。

 予定調和。一切の無駄なく、これまで何度も行われてきたテンプレート通りにことは進む。

 金髪ロールの剣が振り下ろせれると同時に、恐ろしい速度で体がスライド移動していき………。


 カキーン!と甲高い金属音が鳴り響いた。


 ―――脳が理解に追いつかぬまま、視界の先で太陽の光を反射する眩い物体が、キラキラと空を舞う。なんだか眩しいなぁ、とは、現実逃避した思考が生み出した言葉である。

 キラキラは星の重力に従うままに、しばし空を舞うと地上に降りてきた。ザスリ、と妙に耳に良い音を鳴らすと、綺麗にソレは砂の大地に突き刺さった。

 ソレは金属の塊。俗に言えば、折れた剣の切っ先であった。

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