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ニート気質な私、なぜ『俺』はこんなことをやっている?  作者: 米木寸 戸口
幼少期 ギルド編
37/62

消える魔物の運び方。そこ、便利すぎるとか言わない。

 悲惨な覚悟から一週間の時が流れた。

 と言っても特に代わり映えするようなことはなく、日々朝にギルドに集まって、依頼を受けたり受けなかったりして狩場に。向こうで昼食をとって夕方頃には街に戻る。

 ザ・代わり映えのしない毎日である。私は少しばかり新たな行動パターンを追加したりしたけど、それでもおおよその動きは変わらない。これが夏休みの日記だったら、今日も昨日と同じような日でした。と書き続けているに違いない。

 金髪ロールの行動も変わらない。中年男は一応いつも小言を言ってるけど、植物は採らない、生き物を見つけた途端に飛び込む、中々獲物が出てこないとイライラする。どれも何一つとして改善されていない。

 今のところは私と中年男がフォローしているので大丈夫だが、近い将来に死にそうだなー、などと他人事みたいに思い浮かんでしまう。いや本当に他人事だったらどれほど嬉しいことか。

 そして平凡な日常なんて言っても、よくよく観察すれば一日の内容は変わっている。全く同じ日は一度も無い。それを体現するように、その日もいつもとは違うことが起きた。


「そろそろ討伐系の依頼も受けてみるか」


 始まりは中年男のそんな呟きだった。


「え!本当!?とうとう私の腕を振るう時が来たのね!」


 中年男の言葉に露骨に食いついたのは金髪ロールだ。餌を与えられた犬だってそこまで露骨には喜ばないだろう。

 ちなみに討伐系の依頼とは、文字通り○○の魔物を何体倒せってやつだ。某狩ゲーを思い浮かべてもらえば問題ない。採取系もその認識で間違っていない。


「と言ってもいつもとやることはあんまり変わらないと思うがな…」


 そう言いながら一枚の依頼を掲示板から剥ぎ取る。

 こちらに剥ぎ取った紙を見せてきたので、金髪ロールと二人で内容を見た。


「魔物狼の討伐、ですか」


 内容を見て金髪ロールは露骨に顔を顰める。


「何よコレ。こんなのいつもやってるじゃない!」


 金髪ロールの言葉通り、魔物狼の討伐など森の狩場に入ればいつもやっていることだ。奴らは森の中では最もポピュラーな類の魔物と言える。

 元日本住みとしては、そんなに狩られたら絶滅するんじゃないかと思うレベルで出てくる。ドラゴンなクエストの序盤に出てくるあのコウモリみたいな飛んでるやつレベルには出てくる。スライムほどでは無いけど、特に痛くもないメラを撃ってくるあの雑魚だ。

 でもまぁそう感じるのもこのパーティだからこそだ。奴らは魔物の中でも比較的群れで行動することが多く、動きも素早く連携もとってくる。その牙は鋭く、皮鎧程度なら普通に貫通する。脚力も素晴らしく、時折放ってくる蹴りに直撃すると骨の一本二本簡単に持っていかれる。

 だが我ながらどうかと思うぐらいに、私達見習い+お付きパーティーは単純戦力ならかなりのものを誇っている。単一の攻撃だけなら三位級の攻撃を放てる対魔物攻撃特化属性持ちの金髪ロール。純粋に三位の腕を持つ水属性持ちの中年男。攻防前衛後衛探索罠全劣化対応の私。チームワークがゼロどころか一部の人間のせいでマイナスに振り切れていることを除けば、森の魔物程度なら全員格下と言っていいだろう。

 なので金髪ロールが文句を言うのは目に見えていたのだが…。


「おいおい。討伐対象だけじゃなくて数も見ろよ」

「数?」


 金髪ロールが苛立たしげに依頼の内容を再度見る。


「…これがどうしたのよ?」


 うん、予想通りの反応だ。


「今まで俺たちが森に入った時、どれぐらい魔物狼を倒したか覚えるか?」

「そんな雑魚のことなんて一々覚えてないわよ」

「だろうな。ちょっとした集団に出会うことがあっても、一日の間に十匹を超えたことは無い」


 その言葉を聞いてやっと金髪ロールが怪訝気な顔をした。


「全然数が足りないじゃない。どうするのよ」


 おお!初めて金髪ロールの口から物事を危惧する言葉が出てきた!戦闘以外のことだとこういう反応をすることができるのか!!

 我ながら酷い反応に見えるかもしれないが、そう思ったのは私だけではない。近くに立つ中年男も、魔物に不意打ちでも受けたような驚いた顔をしている。


「なに固まってるのよ」

「あ、い、いやなんでもねぇ。気付いてないだろうが、魔物ってのは一定の種類のやつが妙に同じ場所に集まる傾向がある」


 その話は知っている。諸説あるが未だに解明されていない魔物の謎だとじいさんが言っていた。

 が、私は何となく思い当たる節がある。

 私の仮説の中では、魔物ってのは人間には感知出来ない魔術的な何か―――仮に未明魔術と呼ぶ―――を動物が感知し、その何かに影響を受けて発生するものだと考えている。

 だとすれば動物によって感知出来る未明魔術は別のものになるだろう。犬は嗅覚が鋭く、コウモリは人の目に見えない光を見えたりするなど、人間と異なる部位は動物の種類によっても違うからだ。

 そして世界に出現する未明魔術も、場所によって種類が違う。これらが重なることによって、魔物化した動物は感じた未明魔術の近くに住み始める。結果魔物の元の種類によって生息地が重なるようになる。

 ちなみに同じ種の魔物が近くのエリアにいたら徒党を組むことが多いので、今回みたいにまとめて殺すような依頼が出て来る。冒険者にとって魔物が潜むエリアを記憶するのも一つの技術だ。

 最後の話はともかく今の話は仮説が多いが、たぶん間違えてはいない。根拠は私自身だ。

 私は場所によって魔の、なんといえばいいか、質のようなものが違うことを視ている。既に純粋な人の身とは違うこの体は、未明魔術を捉えることができるほどに変化している。

 こちらとしては見知った魔の質を辿れば、出会いたい魔物に出会えるので便利に使わせてもらっている。魔物の集まりやすい場所とは反対に、魔物の集まりにくい場所も見えるからね。魔物化してない動物とかが集まりやすいエリアでもある。

 ちなみに見えてるならもはや未明じゃないじゃんってツッコミは無しで。前世の記憶がある私からすれば、それが魔力何じゃない?とか言われそうだと予想できるのだが、あれはそんなものではない。未明魔術はあくまで魔術が使いやすくなるようなもの。例えるならば音に対する空気のようなものだ。

 音の正体は波であり、まぁ空気じゃなくても良いんだけど、なんであれ伝わるものが無ければ聞こえない。

 ならただそこにあるだけのものに対してなぜ動物が変化するのかと聞かれれば、それはたぶん対応しているのだと思う。動物は周りの環境によって自らを変えれる生き物だ。それぐらいは動物関連のドキュメンタリー的なのを少し見れば分かると思う。

 もちろんそれがたった一代どころか一匹の間に起こるのは異常だが、そこはあれだ、魔術とかいうファンタジーだから許して欲しい。物質保存の法則をぶち超えて子供が成人男性の悪魔に変わる世界だ。ちなみにあの悪魔、人の肌っぽくみせてるけど実態は違う。だってダメージ食らったらヒビが入ったりするもん。我ながらわけがわからないよ。

 そんな風に私がぼんやり考え込んでいると、中年男は金髪ロールへの説明を終えていた。ちなみに最初から説明対象に私は除外されている。なんでや。知ってるからいいんだけどさ。


「ま、そんなところだ。本来は自分たちで探させるべきなんだが、特別に今回は俺が場所を教えてやる」

「ふん。何が教えてやる、よ。先輩ぶっちゃって」


 その人先輩です。


「にしても面倒くさいことをするものね」

「有名な冒険者だってこういうことを一から積み重ねたものだし、それに伝説の魔物を倒したいならそれはそれで探索する必要が出て来る。これも冒険者には必要な技術さ」

「はいはい分かってるわよ。ったく。魔物との戦いを望んでるっていうのに」


 ぶつぶつ言いながらも金髪ロールは中年男に従う。

 有名な冒険者がうんぬんってのは金髪ロール相手によく使う説得文句だ。他の注意とかと比べると格段に聞く。中年男曰く、金髪ロールみたいな冒険者になりたい見習いは、総じて物語の中の冒険者に憧れて冒険者になろうとするらしく、熟練のギルド員の中ではもはや決まり文句の一つになっているとのことだ。

 ま、なんにしても余談か。私は金髪ロールを教育しようなんてつもりはない。下手に中年男の計算を狂わせるのも嫌だしね。そういったことは全部彼に押し付けている。

 私は特に喋ることもなく、狩場に向かう二人の後をついていった。



―――時間経過。森の狩場にて―――



「そういえば魔物を何匹殺したってどうやって分かるんだろう?」


 都合二十六匹目の魔物狼を殺した時、ふと私は気になったことを呟いていた。


「あん?どういうことだ?」

「いやほら。魔物って殺してもしばらくしたら消えるじゃないですか。だからいくら冒険者が殺したって言っても真実か分からないじゃないですか。そもそも私達自身意図して数えないと何体倒したかなんて覚えきれませんし」


 特に今まではそういうシステムなんだろうなぐらいの感覚で気にしていなかったのだが、今更になってどうやってギルドが魔物を殺した数を確認しているのかが気になった。

 いや、初日とかは気にしてたんだよ。あの日はちゃんと殺した数とかも数えてたし。

 だけどいざギルドに行ったら中年男が何かしてくれて、そしたらピタリと私が覚えていた数をギルド員が言い当ててきた。だから何かあるんだろうなとは思ったんだけど、その時は金髪ロールのこともあって聞けなかったのだ。そしてシステムに甘えて聞かないでいる内に、気づいたら今日まで忘れていた。


「そういえば特に言ってなかったな。ってか坊主が知らないのが意外だ」

「自分だってなんでも知ってるって訳じゃないですよ。知ってることだけです」


 言った!一度言ってみたいセリフを言った!


「そりゃそうだな」


 そしてあっさり流された。

 やっぱり私の記憶にある前世の物語をコピーして本にでもしようかな。流行るかな?流行ったらいいんだけど…ああでもあれだな。ファンタジー世界の人にファンタジーな小説の話をしても意味ないし、前世の科学知識が無いと分からないものも多いか。ううーん。昔話とかがギリ?しかも日本じゃないやつ?山姥とかただの恐ろしい魔物の話だし。


「どうした坊主。知りたいんじゃなかったのか?」


 私が考え事に熱中してぼうっとしていたせいだろう。中年男からツッコミが入ってしまった。


「あ、すみません。考え事をしていて」


 私としたことが失敗してしまった。先輩の話を無視してしまうとは。


「あー自分で考えてたか。それもいいが、知らないことは先輩に正直に尋ねたっていいんだぜ?」


 が、何やら中年男は好意的に解釈してくれたらしい。なんかテストを見直ししてたら、間違っているところに丸が付けられてた気分。私はアレ一度も報告したこと無い。それと同じで、折角勘違いしてくれたならわざわざ正す必要もないだろう。


「すみません癖で。教えてもらってもいいですか?」

「ああ。それぐらいならいつでも聞いてくれ」


 金髪ロールの言葉じゃないが、思いっきり先輩風を吹かせる中年男。辞めさせ屋とかやってたけど、意外とこういうの嫌いじゃないんじゃなかろうか。


「お前の疑問に答えるものは…コレだ」


 中年男はそう言いながら、服の内側に隠していたドックタグ型のギルド証を見せてきた。


「ギルドタグがどうしたんですか?」

「これには色々と特殊な作用があるんだがな。その一つに魔物討伐記録機能があるんだ」


 なんだその便利そうな名前のものは!?


「ギルドに戻った時も、坊主達から一回ギルドタグを預かってるだろう?」

「そういえばそうでしたね」


 確かにいつも狩りから戻った後に、中年男にタグを渡している。

 …今考えるとぞっとするな。せいぜい前世のドッグタグ程度の価値しかないと思っていたが、そんな重要そうな機能があるものを渡していたのか。

 今度からはちゃんと自分で渡して戻るまで監視しよう。


「原理は…俺も詳しいことは分かってないんだけどな」


 分かってないのかよ。


「なんでも、魔物ってのは死ぬ時に一定の魔法力場を周囲に出すらしいんだよ」

「魔法力場、ですか」


 何だソレ。見たこと無いぞ。

 基本的にこの世界において、魔法陣以外の魔法と名のつくものは解明されてなくて適当に名付けられたものが多い。普段使うのが魔術って名前なのも、術は解明が終わって人間が扱えるもので、法は世界に決められた理であり、人間には手を出せないとされていることが原因だ。つまり体のいい言い訳である。


「俺もよく知らねぇんだが、昔にそう言った魔力の流れを見れる人間がいたらしくて、その人間が魔物が死ぬ時に体から何かが出るのをうっすらと見たらしいんだよ」


 そんなバカな。…と一言で否定することはできるのだが、うーん。

 私は例の魔物化の原因の未明魔術は人間には感知できないものだと思っていたのだけど、もしかしたら違うのか、いや場合によっては違うと言うべきか。

 例えば前世でもジャングルに住んでる人間は死ぬほど目がいい、みたいな話を聞いたことがある。それと同じような理屈で、魔術を使い続けたりすれば、魔の流れを見ることが出来るようになる可能性も無いとは言い切れない。そもそもファンタジー世界の法則なんて分かるわけがない。

 少なくとも死んだ魔物から何か魔的なものが出てくるという話は『合っている』。

 私も確認したことがある。人間体では目を凝らさないと分からないのだが、前仕方なくフュージョン状態で魔物と戦った時、倒した魔物からなんというかこう…人魂的なものが魔物の死体から出ていったことがあった。

 魔物はいわば動物が未明魔術に影響されて魔的な変化を促されたもの。魔的とは私の言でいえば魂的なものだ。

 日本的な言い方をすれば、これは確かに何かに憑かれたような状態と言ってもいいだろう。魔術自体確かに生物の魂と関わりのあることを鑑みれば、人魂的なものが出てきてもおかしくはない。

 とりあえずそんな予想より、中年男の話を聞くべきか。別に私はこの世界の謎を解きたいわけでもないし。


「それでこのギルドタグは、その魔法力場を吸収することができるんだ」

「吸収?」


 その言葉に私は驚きを見せる。


「そうだ。基本的に回収できるのは一番近い人間だな。そして魔物の種類ごとにその魔法力場の特徴が違うから、それを確認したら倒した数も種類も分かるってわけだ」

「なるほど…」


 中年男の言葉に頷きながらも、私は別のことを考える。

 吸収…なぜ私はその言葉が妙に気になるのか。ひたすら記憶を辿っていた私は、一つの事柄を思い出した。


「そういえば、市場とかに魔物の素材を使ったものがあるじゃないですか。あれってどうやって作ってるんですか?」

「ああ。それもギルドタグのおかげだよ」


 言われて思いついたと言った感じで告げる中年男。

 いや確かに冒険者には関係ない内容かもしれないけど、そういうことはちゃんと説明しやがれってんだ。


「魔物本体は時間が経てば消えるけど、ギルドタグに魔法力場を吸収することができた場合、ギルドによって魔法力場を取り出して、そこから一部だけだけど魔物の再現ができるんだ」

「それが魔物素材になると」

「そういうことだな。ただ残念なことに力場から取り出せる素材はランダムで、取れる部位によってギルドの報酬も変わってくるんだよなぁ」


 …へぇ。


「ローレンスさん」

「なん…あ」

「私、今までの狩りで規定額以外のお金を貰った覚えがないし、日によって報酬が変動した記憶もないんですけど」

「あ、あーほら。ま、魔物の素材は俺が今預かってるんだ、よ?」

「そういえばローレンスさん。今まで報酬貰う時に私達を寄せ付けませんでしたよね。お金自体は問題無いから見逃してきたんですが…」

「ま、待て待て待て待て待て」


 中年が大慌てで両手を突き出しながら距離を取る。

 断言しよう。コイツは屑だ。たぶんどうしようもない類の。

 見た目は普通の中年だし、話も出来るけど、その内情はギャンブルで借金がありますとかいう類のやつだ。借りた金を返さないタイプだ。


「で、今までの報酬は?まさかギャンブルで溶かしたなんて言いませんよね?」

「何で知って!はっ!?」


 ころそうかな?


「ねぇ。アレ何よ?」


 私が軽く魔術を放つ準備をしていると、突然今まで全く関わって来なかった金髪ロールが話してきた。


「なんですか?」

「狼の魔物を見つけたんだけど、何か変なのがくっついてるの」


 魔物狼を見つけて金髪ロールが突っ込まなかった?

 直前までの諍いは『ひとまず』おいといて、中年男と顔を見合わせると、私達は金髪ロールのいる方に向かっていった。

今更ですが、場面転換とか視点変換をわかりやすくしようかなって。

ご意見があれば気軽にお申し付けください。

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