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第十三話 救世主 Ⅲ

「くたばれええええええええっ!!」


 勢いの乗った、全力の拳が放たれる。

 帝国参謀長リックは最前線に立ち、眼前に見える敵と戦っている。敵兵の一人に対して、彼の放った渾身の拳は、敵兵の男を殴り飛ばす。

 一人片付けただけでは終わらない。目に付く敵兵は、次々と自らの獲物にしていく。

 殴り飛ばし、蹴り飛ばし、投げ飛ばして、時には武器も使って、屍の山築いていった。彼の暴れまわった後には、死体しか残らない。


「調子に乗るなよ裏切り者共がっ!!全員ぶっ殺してやるから前に出ろ!」

「参謀長!前に出過ぎです!!」


 帝国騎士団の半分を率いて、暴言を吐いて暴れまわるリックは、怒りを力に変えて戦っている。リックたちの敵は、へスカル国からやって来た、裏切り者のへスカル騎士団である。

 友好国の騎士団と戦闘をしている、現在の状況。何故、このような事態に陥ったのか。その正確な理由をリックたちはまだ知らない。

 

「ひいっ!?」

「やっぱりあいつは化け物だっ!!俺たちの敵う相手じゃない!」


 まるで狂犬のように、怒り狂って暴れまわる。そんなリックに、恐れをなして逃げ惑うへスカル騎士たち。帝国の狂犬と言う異名の意味を、騎士たちは身をもって理解したのである。

 

「敵は崩れたぞ!一気に勝負を決めてやる。敵指揮官を探し出せ!!」


 騎士たちへ命令を下し、己の危険を顧みず突撃を敢行し、暴れる事を止めないリックに、味方である騎士たちは頼もしさと恐怖を覚えた。

 へスカル騎士団がヴァスティナ騎士団に対して、戦闘を仕掛けた背景。それは、へスカル国内の裏切り者による仕業であった。

 先の南ローミリア決戦の後、へスカル国内に侵入を果たした者たちがいた。彼らはジエーデル軍の工作員で、国内に入り込み、本国からの命令通り諜報活動に動いていた。彼ら工作員の所属は、ジエーデル軍警察であり、他国での諜報活動を主任務とした者たちである。

 帝国を中心とした連合軍と戦った、名将ドレビンとは無関係のこの者たちは、軍警察本部の命令を受けて、へスカル国に潜伏した。諜報活動も目的の一つだが、その真の目的は、へスカル騎士団副団長への接触である。

 へスカル騎士団は、現在の国王に異を唱える者たちと、国王に忠誠を誓う者たちに分かれている。忠誠を誓う者たちは騎士団長派、異を唱える者たちは副団長派。決戦以前から、二つの勢力に分かれてしまった、へスカル騎士団の情報を得た軍警察は、将来的な南ローミリア侵攻の布石として、副団長派に接触しようと計画したのである。

 ドレビンは戦いに敗れたため、軍警察はすぐに行動を開始した。連合軍が勝利に酔いしれている隙に、へスカル国に侵入した諜報員たちは、少し時間を置いた後に、へスカル騎士団副団長に接触を果たす。

 そして彼らは副団長に、とある話を持ちかけた。ジエーデル側に寝返れば、相応の地位を約束しようと。

 副団長派の主張は、騎士団の権力拡大と、自国の軍備増強である。さらに彼らは、現在のヴァスティナ帝国との友好関係も良く思っていない。南ローミリアは帝国ではなく、自国こそが治めるのに相応しいと、そう主張し続けていた。

 軍備を拡大し、南ローミリアを帝国に代わって統一する。自国を強力な国家に育て上げ、最終的には自分たちが国の支配権を握ろうという、自分勝手な野心を持っているのだ。

 へスカル国王は争いを好まず、これまで彼らの軍備拡大に賛成しなかった。南ローミリア決戦後は、自国の防衛力強化のために、騎士団の規模を拡大こそしたものの、大きな軍備改革は行なわなかった。

 将来、再びジエーデル国が侵攻した場合、現在の戦力では国が滅ぶと、間違ってはいない主張を述べた副団長派であったが、彼らの言葉を国王は受け入れなかったのである。

 そこへ、ジエーデル側の甘い誘いがやって来た。

 へスカル国王のもとでは、これらの主張は受け入れられる事はない。この国では、その野心は一生叶う事はないと説き、ジエーデルへの寝返りを勧めた。我が国に下るのであれば、それ相応の地位を約束し、将来的にはへスカル国を占領した場合、占領地となった同国の支配を任せると、工作員たちはそう言って交渉を持ちかけたのである。

 この上手過ぎる話だが、勿論全部が正しいわけではない。副団長も、その事は理解していた。

 だがこのままでは、己の野心を叶えられないというのは事実だった。ここは一先ず彼らの誘いに乗り、ジエーデル国に従いながら、逆に利用してやろうと考えたのである。

 寝返る事を承諾した副団長はその後、工作員の指示を待った。彼の野心が動き出す第一歩の指示は、へスカル騎士団から離脱し、現在展開中のヴァスティナ騎士団を、後方から襲撃せよと言うものであった。

 そして彼は、前もって集めておいた、自分に賛同する騎士たちを速やかに集結させ、団長派の騎士団に気付かれないよう、へスカル国境線へと向かったのである。

 目的は、ヴァスティナ帝国騎士団の後方を襲撃し、前方のジエーデル軍と挟撃する事であった。

 しかし彼らは、襲撃しようとした瞬間、逆にリック率いる騎士団に襲撃されてしまったのである。


「あっははははははは!!もっとだ、もっと俺を楽しませろ!」


 副団長派のへスカル騎士団の、帝国への敵対行動を知ったリックとメシアは、その後別の報告も受ける。

 ジエーデル軍が国境線を越え、帝国騎士団へ侵攻を開始したという、偵察部隊の報告を受けたのである。そのため二人は、すぐさま作戦を計画した。

 二人の考えた作戦は、やはりシンプルなものであった。作戦内容は、攻撃は最大の防御。

 二人は四百人の騎士団を半分に分け、メシア率いる騎士団は、侵攻して来るジエーデル軍に奇襲をかけ、リック率いる騎士団は、へスカル騎士団を襲撃するという、二人らしいシンプルな作戦であった。

 メシアの騎士団が奇襲をかけ、敵軍に混乱をもたらして時間を稼いでる間に、リックの騎士団は後方の安全を確保する。挟撃される事を阻止するために、後方からの脅威を、先に殲滅してしまうと考えたのである。後方の安全を確保しなければ、後退する事も、万が一の場合には撤退する事もできない。へスカル騎士団への攻撃は、今後の戦闘を考えれば必須のものであった。

 今頃メシアはジエーデル軍に対して、地形を利用した奇襲攻撃をかけている事だろう。

 彼女が時間を稼いでいる間に、敵指揮官を見つけ出して討ち取り、へスカル騎士団を壊滅させてしまおうと、狂ったリックの武が騎士たちを蹂躙していく。


「どこだ!帝国を裏切った馬鹿共の指揮官はどこにいやがる!!」


 リックは今戦っている者たちが、へスカル国を裏切った者たちだと知らない。

 友好国であるへスカル国全体が、帝国に反旗を翻した可能性を考え、彼の怒りは爆発している。帝国に反旗を翻すと言う事は、彼が忠誠を誓う女王ユリーシアに、剣を向けるのと同義だ。故にリックは女王に反旗を翻した、仲間だったはずの者たちが許せない。

 戦況はリックが大暴れしたおかげもあり、帝国騎士団が完全に優勢。勝利は目前だ。

 へスカル騎士団の実力は、先の決戦時に共に戦った事もあり、リックもメシアもよく理解していた。実力が高いわけではない、あのへスカル騎士団が相手ならば、自分たちの騎士団は必ず勝利できるとわかっていたのだ。

 予定通り、リックたちはへスカル騎士団を敗走させていく。

 リックの命令を受けた帝国騎士たちは、敵指揮官を探して戦い続けている。そしてついに・・・・・・。


「いたぞ!あいつが指揮官だ!」

「間違いないのか!?」

「ああ間違いないぞ!騎士たちに命令飛ばしてたからな!!」


 帝国騎士たちが、敵騎士団の中に指揮官を発見した。すぐにリックも、敵指揮官と思しき者を確認する。

 確かにその者は、国を裏切った騎士たちの指揮官、へスカル騎士団副団長である。


「よくやった!騎士団全員突撃だ、あの男を捕まえろ!!」


 命令を受けて、帝国騎士団が突撃を開始する。目指すは、眼前に見える副団長の捕縛だ。

 指揮官を捕まえて情報を聞き出す。そのためにリックも、裏切り者の副団長捕縛のために、狂った笑い声を上げて駆け出すのであった。






 その後、リック率いる騎士団は、へスカル騎士団副団長を捕縛する事に成功した。

 副団長の身体を縄で縛り、戦闘終了後にその場で尋問した。敗軍の将となった副団長は、尋問開始こそ黙秘を続けていたものの、リックが彼の左足を蹴りで粉砕し、「だんまり決め込むなら即殺すぞ?」と脅して、無理やり事の次第を聞き出したのである。

 左足を蹴りで骨ごと完全に砕かれた彼は、激痛に泣き叫びながらも、リックへの恐怖で全てを話す。自分たちがへスカル国王を裏切った事も、ジエーデル国へ寝返ろうとした事も含め、全てをだ。

 へスカル騎士団の内情は、前にエミリオに教わっていたリック。そう言う事かと彼は納得し、同時に現状の深刻な問題について悟る。

 ジエーデルの侵攻は、下準備が整えられた計画的なものである。南ローミリア連合には、他にもジエーデルと繋がっている裏切り者がいるかもしれない。つまりこれは、帝国が内部から脅かされている事を意味している。

 この戦いの裏には、厄介な存在がいるはずだ。そう直感したリックは、メシアの事が気がかりになった。彼女が戦っているのは、へスカル騎士団の何倍も強力な、独裁国家ジエーデルの兵士たちである。兵の錬度も高いが、それ以上に兵力数が多いため、今の帝国では到底敵わない相手であるのだ。

 メシアの身を案じて、リックはすぐさま彼女の騎士団に合流すると、騎士たちに命令を下した。戦闘で負傷した者を運び、出せる限りの速さで、騎士団は合流のために動き出す。

 捕縛した副団長はどうしたのかと言うと・・・・・・・。


「それじゃあ、お前はもう用済みって事で」

「まっまっ待ってくれ!?全部話したんだ、どうか命だけは助けてくれ!」

「嫌だ。帝国に刃を向けた裏切り者は、やっぱり死あるのみだろ」


 そう言ってリックは、副団長の右足も自慢の蹴りで粉砕し、結果として両の足を破壊した。

 またも襲ってくる激しい激痛に叫び、悲鳴を上げてのたうちまわる彼を、リックは邪悪な笑みを浮かべて見下ろす。裏切り者が苦しむ姿に、彼は愉悦を覚えていたのだ。

 もっと残酷な目に合わせてやろうと考えたが、リックはメシアが心配であったために、最後は副団長の眉間に、自身の所持した拳銃を発砲し、撃ち殺して終わる。

 副団長と彼に付き従った者たちの野望は、リックと騎士団の活躍によって、呆気なく幕を下ろしたのである。






 帝国騎士団陣地に帰還したリックたちは、信じられない光景を目にする事となった。

  

「悪い予感が当たったのかよ・・・・・・」


 メシアが率いた帝国騎士の多くは、陣地内で怪我の手当を受けていた。

 重傷者が多く、陣地内を見渡せば、無事な者の方が少ないという有り様である。手や足に包帯を巻く軽傷者と、腹部などを負傷して出血の激しい重傷者。陣地内は負傷した騎士たちばかりで、敵軍への奇襲の結果は聞かなくてもわかってしまった。

 状況を理解し、自分の指揮した騎士たちに振り返ったリックは、直ちに命令を下す。


「お前たちは怪我人の手当を頼む。俺はメシア団長のところに行って来る!」


 リックの率いた騎士たちに戦死者はおらず、怪我人も少なく全員軽傷だ。そのため、陣地内の怪我人は彼らに任せ、リックはメシアがいるであろう、指揮官の天幕へと駆け出した。

 彼女は無事だろうか。不安な気持ちに駆られ、天幕へと急ぐ彼の足は速い。

 真っ直ぐ指揮官専用の天幕へと向かい、その中へ声もかけずに駆け込んだ。


「メシア!!」


 天幕の中へ入ると、そこには愛おしい彼女の姿があった。


「リック?」


 彼女は天幕の中で椅子に座り、机に医療品を並べて、自分の怪我の手当の最中である。丁度左腕に傷薬を塗り、包帯を巻いているところであった。

 突然現れたリックに驚いたメシアだったが、彼女以上に驚いているのはリックである。何故なら、帝国最強の軍神であるメシアが、戦闘で負傷したからだ。左腕に包帯を巻き、右足にも包帯が巻かれていた。リックの知る限り、戦闘で一度も負傷するところを見せた事のない彼女が、今回は腕と足に傷を負っている。

 陣地内の負傷者たちと、帝国最強の負傷は、ジエーデル軍への奇襲が失敗した事を物語っていた。

 軽傷ではあるのだが、彼女が怪我をしてしまった事に対して、リックの身体は彼女へと真っ直ぐ向かう。椅子に座るメシアを、彼は強く抱きしめた。


「リック、痛いから離せ」

「離さない。俺が一緒に行けば、怪我なんてさせなかった・・・・・・!」


 メシアの身体に両腕をまわし、彼女を離すまいと強く抱きしめる。抱きしめられたせいで、傷口が痛むと彼女が訴えても離さない。心配した事が現実となり、今の彼はメシアの事で頭がいっぱいで、完全に冷静さを欠いている。

 

「安心しろ、ただの掠り傷だ。この程度で私が死ぬとでも思っているのか?」

「そっ、そんな事・・・・・、でも俺は!」

「わかっている。お前の気持ちは嬉しい」


 ようやくリックは力を抜いて、抱きしめたメシアを解放する。すると今度は、椅子から立ち上がった彼女が、彼の頭を優しく撫でた。

 

「心配してくれて嬉しい。だがお前は、大切な者を思うと冷静さを欠き過ぎる。あの女兵士の時もそうだった」

「そう言われても・・・・・・」

「お前は帝国軍の参謀長だ。仲間が怪我をしただけで取り乱すな。お前が取り乱すだけで、兵士たちの士気に関わる。まあ、私はお前のそんなところも愛しているがな」


 微笑みを浮かべるメシア。彼女はリックの前で、よく微笑むようになった。

 美しく優しい微笑み。彼女の微笑みは、まさに聖母の微笑みと言えるだろう。リックにだけ見せる彼女の微笑みは、彼に安らぎを与える。


「落ち着いたか?」

「はい・・・・・」

「よかった。それなら、戦闘の結果について話せ」


 へスカル騎士団との戦闘の結果と、今回の戦闘での損害について、リックは彼女に全てを報告した。戦った騎士団が、国家を離脱した副団長派の者たちであり、へスカル国が裏切ったわけではない事も含め、全てをである。

 戦闘の結果は帝国騎士団の圧勝で、味方の負傷者は十数人。味方に戦死者はなく、逆に敵軍には壊滅的損害を与えた。敵軍は指揮官であった副団長も失い、最早戦闘継続は不可能だ。よって、帝国騎士団後方からの脅威は去った。

 逆にメシアが率いた騎士団は、ジエーデル軍の用意周到な迎撃を受けてしまった。 

 先の決戦で帝国軍は、何度か奇襲攻撃を行ないジエーデルに打撃を与え、最終的には勝利に繋いでいる。これまでも帝国は、強敵に対しては奇襲を行ない、勝利を重ねてきたのである。そのためジエーデル軍は今回、帝国の奇襲攻撃を最重要で警戒していた。

 帝国は必ず奇襲攻撃をかけてくる。その予測を全軍に徹底し、不意の奇襲にも動じない様、最初から手が打たれていた。奇襲をかけてきた帝国騎士団に、予めの迎撃行動をとったジエーデル軍。奇襲攻撃をかけてきた瞬間、一斉に槍兵が長槍を突き出し、弓兵が多くの矢を放って、騎士団の接近を許さなかった。

 この時メシアは、想定以上に敵軍が奇襲を警戒していた事を悟り、すぐさま騎士団に撤退を指示する。接近戦を許さない完璧な迎撃に、多大な損害を被ってしまった帝国騎士団は、メシアの命令により後退を開始し、団長である彼女は、殿となって騎士たちの撤退を支援した。

 仲間を見捨てず、負傷した者を助けながら戦い続け、そのせいで彼女は敵の矢を受けた。彼女の負傷は、この時の撤退戦によるものであった。

 何とか帝国騎士団は撤退し、ジエーデル軍は勝利を得た。その後ジエーデル軍は、帝国の更なる奇襲攻撃を警戒し、迎撃した地点で侵攻を停止させる。そして偵察の兵を放って、帝国騎士団の状況確認と、奇襲攻撃の有無を調べさせ始めたのである。

 念入りに、そして慎重な行動を取るジエーデル軍。そのおかげで、帝国騎士団は追撃を受ける事がなく、無事に撤退する事が出来たのである。

今回は本当に運が良かったと言える。もしも、帝国騎士団の撤退が軍団を誘い出すための罠であると、この時ジエーデルの指揮官が判断しなければ、今頃は撤退どころではなくなっていただろう。

 メシアの話を聞き終え、対ジエーデル戦での作戦を考え始めるリック。彼女の話を聞いていたおかげで、今は落ち着きを取り戻していた。


「それで、ジエーデルの戦力はどれ位でしたか?」

「恐らく三千はいただろう。もしかすれば、後方にも予備の戦力が控えているかもしれない」

「三千人ですか・・・・・。一体この戦力で何をするつもりなんでしょうね」

「わからない。ただ、気まぐれでない事は確かだ」

「俺たちの後方にはへスカル国がある、・・・・・・そうか」


 ジエーデル軍の狙いに気付く。前回の侵攻時には、一万を超える戦力を投入してきたにもかかわらず、今回は三千人と言う兵力。反抗勢力の鎮圧で、兵力不足と言う理由もあるはずだが、それだけが理由ではない。


「この三千人はきっと先発隊です。エステランの動きに便乗して、へスカル国を占領するための。へスカルを南ローミリア支配の前線基地にして、侵攻軍の本隊が到着するまで待つつもりなんですよ」

「ふむ、その割には侵攻の意欲が欠けているように思える。お前はどう思う?」

「意欲が無いように見えるって事は・・・・・・・、もしかすると占領できればいいな位にしか考えていないのかも」

「つまりこう言う事か。敵はエステランの動きで侵攻の機会を得た。帝国の主戦力はエステラン迎撃に向かわざる負えない。これを好機と見て、先発隊に将来的な再侵攻の足掛かりを築かせるつもりなのだな」


 二人の考えは間違ってはいない。だが、全てが正しいというわけでもない。

 そしてリックは、この戦いには裏があるのではないかと感じる。エステラン軍の突然の侵攻と、ジエーデル軍の再侵攻。敵同士である両国が、この地方に中途半端な戦力で侵攻を開始したのには、必ず何かがある。

 リックたちの関知しない所で、何かが動いた。それが両国の侵攻の原因であるのだろう。

 裏で動いた何か。その存在に、リックもメシアも心当たりがある。心当たりが予想通りであれば、速やかに帝国へと帰還し、今回の戦いの首謀者を捕縛しなければならない。

 

「帝国に戻らないと・・・・・」

「しかし、撤退はできない。我らがここから退けば、へスカルを守る者がいない」

「たぶん今頃、リリカとエミリオが他の友好国を動かして、救援のための戦力を用意してるはずですけど、・・・・・・間に合いませんね」


 先の決戦で帝国は、友好国と連合を組んで戦った。その時の戦力を、宰相と軍師の権限で、再び招集している最中であるのだ。現在エミリオは戦力をかき集め、増援部隊をジエーデル迎撃に向かわせようとしている。

 レイナとクリスも、エステランを早々に退け、リックたちの救援に向かうべく戦っている。

 しかしどんなに急いでも、これらの戦力の到着は間に合わない。このまま騎士団がここに留まっても、帝国に退却したとしても、後方のへスカル国は占領されるだろう。戦力を一気に半減させた今のへスカルでは、ジエーデルの侵攻に三日ともたない。

リックとメシアは今、絶望的な決断を迫られている。へスカルを見捨てて退却するか、ここで防衛線を構築して死守するかだ。もしへスカルを見捨てれば、敵に侵攻の前線拠点を構築させる事になり、帝国に未来はない。かと言って、ジエーデル軍三千の兵力を防ぐだけの戦力は、ここにはない。

 一騎当千の軍神メシアと、身体能力が常人を超えたリックの二人が、如何に奮闘したとしても、守り切る事が出来ない戦力差である。そして騎士団は、先の戦闘で戦死者を出し、多くの者が負傷している。戦力が低下した今の騎士団では、三千の戦力との戦闘は敗北しかない。


(どうする。戦力が圧倒的に足りない。せめて大量の銃火器があれば・・・・・・)


 天才発明家シャランドラたちが作り上げている、帝国の新兵器である銃火器。この武器の力は、先の決戦時において敵軍を圧倒して見せた。

 しかしその決戦時に、帝国は銃火器の弾薬備蓄をほとんど使い切ってしまった。そのおかげで今の帝国軍では、銃はあっても弾が無い、深刻な弾丸不足に陥っているのだ。

 例外としてイヴの率いている部隊は、訓練用に備蓄されていた弾薬をかき集め、魔物の討伐へと出撃した。「帝国のみんなが銃を使えるようになるためには、今僕たちが頑張らなきゃいけないの」とイヴが訴え、リックが承認したのである。

 このような例外はあるものの、現在帝国軍の銃火器装備部隊は弾薬が不足しているために、今は剣や槍を装備している。ロベルトたちが銃を装備しなかったのは、それも理由の一つだ。こう言った理由があり、銃を使用するヘルベルトたち鉄血部隊の面々も、今は剣や槍を装備して戦っている。

 

「無い物強請りをするな」

「・・・・・・俺、そんなに心読みやすいですか?」

「私にはわかる」

「メシア団長の前じゃ浮気なんて絶対できませんね」

「浮気しているのか?」

「いっ、いえいえいえいえ、俺はメシア団長一筋です!!」


 ここに彼の仲間たちがいたならば、絶対にこう言われるだろう。

 「よくもそんな嘘が出るものだ」と。


「ふふっ、ふふふふ・・・・・・」

「メシア団長?」

「お前は面白いな。リック、お前と一緒ならこの難局も乗り越えられそうだ。頼もしいぞ」


 メシアの微笑みは、リックの心を安心させる。

 勝利の可能性の見えないこの戦い。絶望的決断を迫られているリックに、光が差し込んだ。


(そうだよな。彼女が一緒にいてくれるんだ。選択肢は決まってる)


 家族になる。二人が交わした約束だ。

 愛する者を守るために、愛し合う者と共に戦う。そうして必ず戦い抜いて、二人の約束を果たす。


「戦いましょう、メシア団長」

「ああ。共に戦い、そして帰ろう。陛下の待つ帝国へ」


 二人は決断した。これより二人は、絶望的な戦場へと赴く。

 そして、二人の天幕の中に、報告のために駆け込んだ騎士が一人。


「報告します!ジエーデル軍が現れました!!」


 敵はやって来た。

 帝国騎士団は軍神と英雄を信じ、二人に付き従って再びジエーデル軍へと挑む。

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