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第十三話 救世主 Ⅱ

「戦死した・・・・・・ロベルトが・・・・・・・?」


 部下からの報告が信じられず、頭の中が真っ白になる。彼の大切な仲間が、戦死したという報告だった。


「そん・・・・な・・・・」


 話は数分前に遡る。

 ここは、へスカル国側の国境線近く。ここには現在、ヴァスティナ帝国騎士団が野営陣地を構築し、いくつもの天幕を設営して、万が一の戦いに備えていた。

 騎士団が陣地を構築し終わった後、その報告は齎された。

 偵察任務を遂行中であったはずのロベルトの部隊の一人が、身体に重傷を負いながらも、報告に現れたのである。傷口から大量に出血しながらも、騎士団の者たちに何があったかを報告し、その一人は報告を終えると、息を引き取った。

 報告を聞いた騎士団の者たちは、慌てて騎士団長専用の天幕に駆け込んだ。天幕の中には、騎士団を指揮する団長のメシアと、帝国軍参謀長のリクトビア・フローレンスの姿があった。

 何事かと思った二人に、騎士たちは聞かされた通りに、全てを報告したのである。

 報告の内容は、偵察任務は失敗し、ロベルト旗下の部隊は、隊長も含めて全員戦死したというものだった。


「ロベルト・・・・、俺が偵察になんて出さなきゃ・・・・・っ!」

「リック、落ち着け」

「・・・・くそっ!!」


 爪が喰い込むほど拳を握り締め、怒りと後悔に身を震えさせるリック。ロベルトに偵察任務を指示したのは、彼の頭脳と言える軍師エミリオであるが、許可を出したのはリック自身である。

 己の判断が、ロベルトたちを死に追いやった。倒れそうになる程の後悔の念と、仲間の命を奪ったジエーデル軍に対する怒りが、彼の心を揺さぶる。

 報告して息絶えた生き残りの話では、ロベルトは特殊魔法の使い手と戦い、最後は相打ちとなって戦死したという。最後は敵に突撃し、装備していた手榴弾を使って、己諸共、敵の特殊魔法の使い手と自爆した。それが、元傭兵であり、帝国軍の精鋭部隊を率い、大切な仲間であった彼の最後であった。


「ロベルト・・・・すまない・・・・っ!!俺が、もっと俺が・・・・・っ!」

「!!」


 その時だった。リックの隣に立つメシアが、彼の頬を殴ったのは。

 加減をしたメシアであったが、殴り飛ばされるリック。地面に倒れた後に起き上がり、殴られた頬に手を添えながら、メシアを見上げた。


「落ち着いたな」

「・・・・・・」

「お前は何も間違ってはいない。無力でもない。あの男たちは戦場に生き、戦場で死んだ。お前を恨んでいなければ、後悔もしていない。リック、ロベルトたちの死で、お前が苦しむ事はない」


 メシアはいつだって正しい。だが、そうとわかっていても・・・・・。


「ロベルトたちの死を無駄にしてはならない。これから私たちが何をすべきか、それを考えろ」


 参謀長としての責任。どんなに仲間の死が辛くとも、彼は前を向き続けなければならない。

 メシアもまた、騎士団長としての責任がある。ロベルトという帝国の戦友の死を、いつまでも悲しんではいられない。

 精鋭であったロベルトたちの死は、騎士団に動揺を与えている。動揺は組織の崩壊を招くきっかけとなり、今の状態で戦闘が発生してしまったら、如何に精強な騎士団とは言え、満足に戦う事はできない。

 リックとメシアは、自分たちの率いる騎士団を、まずは落ち着かせなければならない。ロベルトたちの部隊の全滅を機に、現在の状況が動いた場合、騎士団の士気を維持できるように。

 彼女は冷静だ。仲間の死を知っても、取り乱すような事はない。戦いの場において、リックが尊敬するメシアは、鉄仮面を表情に張り付けた、鉄の心を持つ軍神だ。


「やるべき事はわかっているな?」

「・・・・・・はい」

「気になるのはジエーデルがどう動くかだ。本来ならば、偵察から帰還したロベルトたちと合流し、敵軍の情報を得るはずだったが、偵察任務は失敗した」

「・・・・・エミリオは、ジエーデルはこっちがどう動いても必ず攻めて来ると言ってました。だから、あいつらを偵察に出したんです」


 ロベルトたちは作戦に失敗した。それはつまり、これを帝国軍の仕業として、ジエーデルが帝国を攻める口実を手に入れた事になる。だが、その口実がなくとも、必ずジエーデル軍は侵攻を開始し、何かしらの作戦行動を展開する。そう分析したのだ。

 ジエーデル軍ならば宣戦布告もなしに、突然侵攻して来る事も考えられる。そのため、こちらから先に仕掛ける事にしたのだ。戦いは先手必勝という言葉もある。情報を収集するためにも、結果はどうあれこの偵察は必要であった。

 結果わかった事は、ジエーデルの作戦目的は不明のままだが、敵軍には特殊魔法の使い手である、カラミティルナ隊が存在したという事だ。つまりこれは、何か重要な作戦行動を展開している事を意味する。メシアなどは彼らを瞬殺できてしまうが、カラミティルナ隊はジエーデル軍の精鋭部隊だ。精鋭を動かしている以上、何かがある。

 しかも、ロベルト程の男が相打ちで倒したというのだから、カラミティルナの中でも、実力が高い者が従軍している可能性は高い。


「へスカルを見捨てるわけにはいきません。でも、こっちの戦力は帝国騎士団が四百人です。ジエーデルならこっちよりも兵力数は上のはずですから、もしも攻め込まれたら・・・・」

「へスカルからの戦力は未だ到着していない。戦力不足ではあるな」

「でも迎撃しないわけにはいかないです。レイナとクリスがエステランを片付けるまで、敵が動かないでくれればいいですけど・・・・・・、攻められたら援軍が来るまで耐えるしかない」

「そうだな。ゴリオンやイヴも、そろそろ任務を終える頃だろう。各地に散った部隊と合流すれば、戦力は十分だ」

 

 リックとメシアが率いる帝国騎士団。彼らが陣地を構築した後方には、友好国であるへスカル国がある。

 そのため、戦力不足を理由にこの地から撤退すれば、友好国を見捨てた事になってしまう。南ローミリアの中心国家である帝国が、友好国を見捨てるわけにはいかない。

 故に騎士団は、この地より離れる事は出来ない。各地に散った帝国軍が、この地に援軍として集結するまで、防衛線を展開しなければならないのだ。

 帝国騎士団は、現在この地に向かっているはずの、へスカル国の騎士団と協力し、戦力が集結するまで耐える必要がある。

 しかし二人には、どうしても気がかりな事があった。


「問題なのはへスカルからの戦力・・・・・・。一体いつ合流するんだ」


 へスカル国からは、へスカル騎士団が合流する予定であった。へスカル騎士団の現在の戦力は、約五百人。南ローミリア決戦以降、へスカル騎士団は戦力増強を進め、決戦時に失った戦力を回復し、総兵力数を増やした。

 帝国騎士団と合流すれば、総兵力は九百人となり、戦力は向上する。

 だが肝心のへスカル騎士団は、合流予定の日を過ぎても尚、その姿を現さない。


「来ないものは仕方がない。へスカル騎士団は戦力から外す」

「わかっています。来るかどうかもわからない戦力は、当てにはできません」

「となれば、敵が侵攻を開始した瞬間、こちらから仕掛けるとしよう」

「奇襲攻撃をかけて敵の出鼻を挫く。ジエーデルはこっちの奇襲を想定してると思いますけど、やるしかないです」


 今後の方針は決定した。仲間の死を乗り越え、前を向く。

 守るべき者のために、目の前に迫る驚異と戦わなければならないのだから。


「ほっ、報告します!!」


 二人が方針を決めたその時、突然二人のいる天幕へ駆け込んだ、騎士の一人。この騎士は、中々現れないへスカル騎士団を探しに出た、偵察部隊の一人である。

 騎士は酷く慌てた様子で、自分の目で見てきてしまったものを口にする。


「へスカル騎士団が宣戦を布告し、こちらに向かっています!!」

「なっ!?」


 耳を疑うような報告。

 この報告は、帝国騎士団が窮地に立たされてしまった事を意味する。状況は帝国にとって、最悪のものとなってしまった。






「陛下、御身体の調子は如何ですか?」


 リックたちの帰るべき国、ヴァスティナ帝国。

 女王の寝室に入室し、部屋の主の見舞いに訪れたのは、帝国宰相となったリリカである。


「リリカ宰相・・・・・・」


 ベッドで横になる、女王ユリーシア・ヴァスティナ。

 政務を一段落させ、彼女の見舞いに訪れたリリカは、ベッドの傍の椅子に腰かけ、彼女の調子を伺う。

 とても弱り切ったユリーシアの姿。言葉を話すのも辛そうで、ベッドから起き上がる事もできない。

 ユリーシアがここまで弱り切ってしまったのは、リックたちが帝国を出た次の日である。高熱を出し、食欲も失い、眠る事さえ出来ず、一日中苦しみ続ける少女。その姿に、彼女の看病をしていたメイドたちは、誰もが胸の張り裂けんばかりの想いであった。

 ユリーシアは、もう何日も熱にうなされ続けている。医者から熱を下げるという、別の薬を処方されて服用したそうだが、一向に良くなる気配がない。

 衰弱し切っていくユリーシアを見つめ、リリカは愁いの表情を見せる。いつもの妖艶な笑みは消え失せていた。


「私は・・・・大丈夫ですから・・・・・・」

「もう何度も、その言葉は聞きましたよ」

「いつもみたいに・・・・貴女には笑っていて欲しいのです・・・・・・」


 目が見えなくとも、リリカの愁いを察したユリーシア。

 自分の事で、リリカに心配をかけたくないという想い。ユリーシアはいつも、他人ばかりを気遣う。


「私だって、笑えない時はある」

「そう・・・ですか・・・・・」


 ユリーシアには見えないが、リリカは今まで誰にも見せた事がない、愁いた表情を浮かべている。彼女の心の悲しみは、盲目のユリーシアにも伝わってしまう。


「リック様と・・・・メシアは・・・・・・」

「あの二人なら心配ありません。きっともうすぐ、無事に帰って来ますよ」


 メシア率いる帝国騎士団が、へスカル国救援に向かうと決まった時、それを知ったユリーシアは、リックに騎士団へ同行するよう命じた。

 命令の理由は誰にもわからない。ただ、彼女をよく知る感の良い者たちは、その理由に大体の見当がついていた。

 

(リック様、どうかメシアを守って下さい・・・・・)


 ユリーシアが倒れたあの日。彼女は未来を見た。

 断片的に見えたその未来には、戦場で危機に瀕したメシアの姿があった。


(あの方ならば、きっとメシアを救ってくれる・・・・・・)


 ユリーシアが女王の権力を使い、リックを騎士団に同行させた理由は、メシアを守る為だ。

 女王ユリーシアを救い、騎士となって忠誠を誓い、彼女を守り続けたメシア。彼女にとっては、大切な騎士であり、その名の通り救世主だ。もう二度と、大切な者たちを失いたくはない。その強い想いを持って、リックに彼女を託したのである。

 彼女の見た未来は変えられる。己の命を吸うこの力で、何度もユリーシアは災厄や悲劇を回避してきた。

 変えられない未来もあったが、この未来はどうしても変えたい。メシアを救わなければ、悲しむのは彼女自身だけではないのだ。


(メシアとリック様が生きてくれるなら・・・・私は・・・・・)


 己の命の灯火は、そう遠くない内に消える。リックもリリカも隠してはいるが、もって一年位だろうと、全て悟っている。

 でも、自分の命尽きようとも、二人が生きていてくれるならば・・・・・・。


「リリカさん・・・・。貴女はこの国を、愛してくれますか・・・・・・?」

「・・・・・陛下がそれを御望みであれば」

「この国の未来は・・・・貴女たちに託します・・・・・・」


 こうなる事はわかっていた。リリカもユリーシアも、いずれこの時が来る事を。

 ヴァスティナ帝国の未来は託された。これでもう、この国の未来は繋がった。託された国の未来と想いは、この場でリリカが全て受け止める。


「ヴァスティナ帝国の未来。私とリックで守りましょう」

「感謝します・・・・リリカさん・・・・・・」


 やっと安心できたのか、感謝の言葉を言い終え、彼女は眠りにつく。

 ユリーシアの寝顔を見つめ、彼女の髪を撫でるリリカ。優しく髪を撫でて、目の前の儚き少女の額に、そっと口づけをする。


「せめて今だけは、この子に幸福な夢を・・・・・・」


 額に口づけたのは、リリカのおまじない。

 美しく儚い少女が、夢の中だけでも、苦しまずにいられるように・・・・・・。

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